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人的資本投資とは?取り組む理由やメリット、実践時の注意点を解説!

人的資本投資とは、従業員の能力やスキルなどの人材価値を最大化することにより、長期的な組織の成長と価値向上を図る戦略的なアプローチです。本記事では、この投資が企業の成長とイノベーションにどのような影響を与えるかを解説します。人的資本投資が企業にとってなぜ不可欠か、その価値と実現方法をご案内します。

1.人的資本投資とは?

人的資本投資とは、人に付随する知識やスキル、経験などを、付加価値を生む資本と見なし、その価値を最大化するために行う投資のことです。

人的資本については、定義が機関や研究者によって異なるのが現状です。参考まで、内閣官房の「人的資本可視化指針」での定義をご紹介します。

「人的資本」とは、人材が、教育や研修、日々の業務等を通じて自己の能力や景観、意欲を向上・蓄積することで付加価値創造に資する存在であり、事業環境の変化、経営戦略の転換に伴い内外から登用・確保するものであることなど、価値を創造する源泉である「資本」としての性質を有することに着目した表現である。

出典:「人的資本可視化指針」非財務情報可視化研究会 内閣官房 
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf


人的資本投資には、健康管理や福利厚生の改善、従業員の技術やスキルの向上を目指す教育、個々の能力を引き出すための制度や環境の整備が含まれます。技術進化に伴い、デジタルスキルの強化やリモートワーク環境の整備などが新たな焦点となっています。

そして近年、企業では人的資本経営への関心が高まっています。人的資本経営とは、経済産業省によれば、以下のような経営のあり方のことです。

人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方

※出典:経済産業省ウェブサイト 人的資本経営とは~人材の価値を最大限に引き出す~ページより https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html

人的資本投資は、人的資本経営を実現する手段の一つという位置づけになります。

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人的資本経営とは?背景や取り組み方、メリットなど基本を解説人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え積極的に投資し、その価値を最大限に生かすことで企業価値を高めていく経営手法です。この記事では、日本国内外での人的資本を巡る動き、注目される背景、取り組むメリットや具体的な取り組み方まで、人事担当者が知っておくべき基本的な情報を網羅して解説します。...


2.人的資本投資に取り組むべき理由

企業価値向上を目指し、人的資本投資に取り組む企業が増えています。特に2023年3月期の決算から、有価証券報告書で人的資本情報の開示が義務化されたことが契機になっています。

人的資本情報の開示義務化

企業が人的資本投資に力を入れる理由としては、現代のビジネスにおいて、サービス業やIT産業を中心に無形資産の価値が重視されるようになってきたことが挙げられます。

無形資産とは、土地や建物、機械、貨幣など、形を備えている資産を「有形資産」と捉えるのに対し、人の能力やスキルといった形の無い資産を「無形資産」として捉える考え方です。

この無形資産を重視する動きが強まったのは、リーマンショック以降です。アメリカでは2011年に国際標準化機構(ISO)において人材マネジメントに関する規格を検討する委員会が発足され、2018年に人的資本情報開示のガイドラインが公表されました。

2020年8月から、アメリカでは米国証券取引所により上場企業を対象に「人的資本の情報開示」が義務付けられました。日本では金融庁から2023年1月31日に公布・施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」により、2023年3月期決算から有価証券報告書での開示が義務付けられました。

出典:「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について_金融庁
https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230131/20230131.html#besshi

財務指標の改善と資本効率の向上

人的資本への投資、例えば教育訓練費は、短期的には財務会計上の費用として計上され、資本効率を一時的に低下させる可能性があります。しかし、中長期的な観点から見ると、この投資は経営戦略の推進を支える基盤となります。

企業が、人的資本への投資と経営戦略や財務指標との関連性を明確に示すことで、短期的な利益確保と長期的な企業価値向上との両立を目指せるようになります。

3.人的資本に投資するメリット

人的資本への投資は、企業にとって大きなメリットをもたらし、企業の成長とイノベーションを推進する重要な戦略の一つとなります。投資家や株主が企業価値を評価する指標として人的資本への投資を重要視していることから、経営者は人材をコストではなく、資本と捉えることが必要です。

従業員個人の能力が把握できる

企業は、従業員の能力を把握することで、一人一人の強み、改善が必要な領域、さらなる能力開発の可能性を明確に理解できます。企業は、この取り組みにより、効果的な人材配置、個人のキャリアパスの開発、必要な研修や教育プログラムを提供することで、従業員の能力と企業のニーズの最適化が図れます。

スキルアップが促され人材育成につながる

一人一人の能力を把握できるようになると、従業員はスキルアップを促され、自身の業務遂行能力を高めることができます。結果として、企業の人材力向上につながります。また、従業員が自身の能力開発に積極的に取り組むことで、従業員はより高いモチベーションを持って仕事に取り組み、企業は競争力のある人材を内部から育てることができます。

優秀な人材の獲得と確保につながる

企業が従業員の成長と発展に投資することは、才能豊かな人材を引きつける強力な手段です。終身雇用の概念が薄れる中、Z世代であるデジタルネーティブを含む若年層は、企業に対し、仕事に自己成長や自分自身の市場価値が向上する機会を求める傾向があります。自身の価値向上のために多様なキャリアと働き方が実現できる会社に魅力を感じるでしょう

優秀な人材を確保することで、企業は新しい市場の機会を捉え、業界内での競争優位を築くことが可能になります。

従業員のエンゲージメントが向上する

社員が自身の能力開発とキャリアの進展に明確な目標を持てると、仕事へのモチベーションが高まります。それにより、社員のエンゲージメントが向上し、定着率の向上にもつながります。その結果、社員はより積極的に業務に取り組み、企業全体のパフォーマンスが向上します。

生産性向上やイノベーション創出につながる

従業員が新しいスキルを習得したり、それを活用する場や機会が与えられたりすることは、企業の成長に不可欠な革新を促します。例えば、データ分析のスキルを身に付けた従業員は、市場のトレンドを理解し、日々の業務の中から新しいビジネスチャンスを見いだすことが可能になります。また、リーダーシップ研修を受け、プロジェクトリーダーに任命された従業員は、チームを効率的に導き生産性を高め、プロジェクトの成功に貢献できるようになります。

このような個々の成長は、組織全体の革新的な発想を促進し、業界内での優位性を確立するための基盤となります。

「イノベーションを起こし続ける」組織の共通点と変革のステップとはイノベーションを推進するために、企業はM&Aや提携などの手法に加えて、DX推進部の設立や研究センターの集約、新規事業プロジェクトや提携制度など、さまざまな取り組みを行っています。今回は、変革が起きやすい組織に焦点を当て、イノベーションを起こし続けるために必要な組織風土や具体的な手法に関するウェビナーをレポートします。...


企業のブランド力の向上

人的資本への投資は、無形資産の価値を高め、企業の競争力を高めます。今日のように、生活に必要な製品やサービスがある程度そろうと、人々は安心や安全、喜びや感動、他者とのつながりといった無形のサービスに関心を移します。

このため、企業は工場や施設などの有形資産よりも、ブランドイメージなどの無形資産への投資が重要視されています。中でも、今までにない新たな事業やイノベーションを生み出す人材への投資は、企業のブランド力の向上に寄与します。

4.人的資本投資の具体的な取り組み

人的資本投資の具体的な取り組みについて、詳しく説明します。

タレントマネジメント

タレントマネジメントは、従業員の能力と才能を最大限に活用し、組織全体の成果を高めるための重要なアプローチです。タレントマネジメントに取り組むことで、企業は従業員一人一人の強みを生かした適切な役割やプロジェクトに配置することができます。その結果、従業員は自分の能力を生かすことができ、企業の目標達成に大きく貢献することが可能となります。

スキルアップ

現代の技術の進化と市場の変化に迅速に対応するために、従業員のスキルアップは不可欠です。教育研修を通じて、従業員は新たな知識や技能を習得し、自身の業務に生かすことができます。

日本では、自社内での教育訓練に依存する傾向が強いですが、特に先端IT分野では外部の専門知識を取り入れる動きもあります。そのため、社内外の教育リソースを有効に組み合わせることが重要です。

リスキリング

市場の変化に適応するために、従業員が新しい知識や技術を学び直す取り組みがリスキリングです。長く企業や特定業務に携わってきた従業員は、自身の既存の知識や経験を生かしながら新しい技術を取り入れることで、事業の柔軟な適応や成長に貢献できます。

従業員が持続的に成長し、現在および未来の業務でそのスキルを生かすためには、企業による多様な教育体系の提供が不可欠です。新しいスキルの習得を通じて、企業は変化に適応しやすい、柔軟性のある組織を築くことが可能になります。

待遇の改善

従業員の待遇面での改善も必要です。働く環境の改善とともに、賃金の改善も重要です。例えば、職務給の導入は、従業員のモチベーションを高め、パフォーマンスの向上を期待できる、効果的な手段の一つです。

職務給は、職務の内容や責任の度合いに応じて報酬を決定します。優れたパフォーマンスやより高い専門性を適切に評価することで、従業員の市場価値を高め、企業の競争力を強化します。

ワークライフバランスの整備

ワークライフバランスの整備は、働き方改革の一環としても重視されています。仕事と私生活を両立できるような環境を提供することで、従業員はプライベートで十分な休息とリフレッシュができ、仕事へのモチベーションを維持しやすくなります

テレワークの導入や介護、育児との両立を可能にする柔軟な勤務形態は、従業員の多様な働き方を支援し、エンゲージメントを高め、企業の優秀な人材確保につながります。

 いま何故仕事と生活の調和が必要なのか

・仕事と生活が両立しにくい現実

・働き方の二極化等

・共働き世帯の増加と変わらない働き方・役割分担意識

・仕事と生活の相克と家族と地域・社会の変貌

・多様な働き方の模索

・多様な選択肢を可能とする仕事と生活の調和の必要性

・明日への投資 

出典:「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス憲章)」内閣府
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/20barrier_html/20html/charter.html


福利厚生の見直し

福利厚生の見直しは、健康経営の一環としても推進されています。福利厚生とは「企業が従業員とその家族に対して行う、給与や賞与以外の施策・取り組み」の総称です。人的資本投資の一環として注力したい領域は、ストレスチェックなどのメンタルヘルス対策や両立支援(育児・介護)です。

従業員のさまざまな事情に対応し、社員食堂の充実や体を動かす機会や催しなどを充実させることは、従業員のパフォーマンスとエンゲージメント向上にもつながります。

5.人的資本投資を推進する上での注意点

具体的な取り組みを推進する上での注意点を、解説します。

ビジョンの明確化と共有

人的資本投資を推進する上での重要な要素の一つは、ビジョンの明確化と共有です。企業はまず、目指すべき明確な姿を定め、それをビジョン、ミッション、バリューとして設定することが求められます。

このビジョンは、単に経営層にとどまらず、全ての従業員が共通の認識を持つことで初めて意味を成します。共有されたビジョンは、組織内の認識ギャップを埋め、戦略やビジョンの実現へとつながります。

経営戦略と人事戦略の連動

人的資本投資の成功のカギは、経営戦略と人事戦略の密接な連動にあります。人事戦略は単に研修計画や教育体系、採用計画だけではありません。企業の現状と企業の将来の目指す姿のギャップを考慮し、中長期的な経営戦略に基づいて策定する必要があります。

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指標の設定

人的資本投資を推進する際には、効果的なKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の設定が重要です。KPIは、投資の成果を測定し、組織の目標達成度を評価するための指標です。まず、企業の長期的な目標と連動する具体的かつ実現可能なKPIを定めることが求められます。

これには、従業員のスキル向上、生産性の改善、従業員満足度の向上など、さまざまな側面が含まれる可能性があります。

実践と検証の可視化

人的資本投資を推進する際には、実践とその検証の過程を可視化することが重要です。可視化することによって、投資の成果を明確にし、組織内での学習と改善を促進します。

実践の段階では、具体的な投資計画とその実行ステップを明確にし、全従業員が投資の意図と目標を理解できるようにします。検証の段階では、定期的な評価とフィードバックが必要です。これにより、取り組みの効果を測定し、必要に応じて戦略を調整できます。

実践と検証の可視化は、人的資本投資の取り組みが計画通りに進んでいるかを確認するだけでなく、組織の目標達成に投資がどのように貢献しているかを示す重要な手段です。

人的資本の情報開示

既に上場企業は義務化されていますが、人的資本の情報開示は、投資家やステークホルダーが重視する無形資産への投資状況を正確に評価するために不可欠です。情報を開示することで、企業の戦略実現可能性と競争力を外部に示すことが可能になります。

6.まとめ

人的資本投資は、現代のビジネス環境において企業成長を図る重要なカギです。人的資本情報の開示義務化が契機になり、企業で取り組みが拡大しています。

人的資本投資によって、従業員のスキル向上や、優秀な人材の確保、従業員エンゲージメントの向上、生産性とイノベーションを促進、ブランド力の向上を図れます。具体的な施策として、タレントマネジメント、リスキリング、職務給、ワークライフバランス、福利厚生を解説しました。

そして、最後に人的資本投資を推進する上での注意点をご紹介しました。人的資本経営に関するご相談や質問があれば、ぜひお気軽にお問い合わせいただければ幸いです。

レポート作成:株式会社ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局