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人材の見える化が人的資本経営の肝! 経営戦略と人事戦略を連動させるポイント

2022年5月に経済産業省から公表された「人材版伊藤レポート2.0」が話題となっています。本テーマでは、人的資本経営とは何に取り組む必要があることなのかを情報提供します。

※本ウェビナーレポートは、2022年6月15日に実施した「2022 BConトレンド発信Days」の内容をまとめたものです。

<登壇者情報>
株式会社ビジネスコンサルタント  
執行役員/ヒューマンキャピタル&サーベイソリューション部長 瀬戸貴士

人的資本経営の背景と日本企業の課題

なぜ今「人的資本経営」が必要なのでしょうか。一言でいえば「持続的な企業価値の向上に向け、人材戦略を変革する必要がある」ためです。

人的資本経営…経済産業省の定義では、“人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方”のこと。経済産業省が2020年9月に取りまとめた「人材版伊藤レポート」によりそのコンセプトが提示されて世に知れ渡るところとなりました。
関連リンク:経済産業省

人的資本経営の背景「変革の方向性」

人材が経営資源として重要なのは、昔から言われていることです。しかし、これまでは人件費というコストだと捉えられてきました。今、その認識が変わりつつあります。イノベーションを起こし価値を創造する最大のエンジンが人材です。参考まで、上記レポートの中では、現在、人材はさらに重要度を増して価値を創造する資本だと位置づけられています(図1)。

図1 変革の方向性
※出典:持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書
~人材版伊藤レポート~令和2年9月 (経済産業省) https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_1.pdf

自社にとって人材とはどのような存在でしょうか。いま、企業は人材を捉え直すタイミングにあります。まず、自社の人材のとらえ方を自己認識することが、人的資本経営に取り組むスタートラインです。

変革モデルから考える3つの課題

では、人的資本経営を取り入れていくときの課題は何なのでしょうか。以下は、変革を進めるために必要な要素を示したものです(図2)。

図2 なぜ人的資本経営なのか?

変革に必要なのは「外圧」「内圧」「変革の青写真」の3つの掛け合わせです。今まさに「外圧」と「内圧」が高まってきています。外圧とは人的資本についての開示圧力で、内圧とは次世代人材を圧倒的不足です。

課題①経営と人材の戦略が合致した青写真をつくる

一つ目の課題は、「変革の青写真」をつくることです。変革を実現するためには、「どのように変わるのか」のビジョンが必要です。人的資本経営における青写真は、人材版伊藤レポート2.0でも示されているように「経営戦略と人材戦略の連動」した取り組みになります。実際、「変革の青写真」を模索しながら描いている企業が多いのではないでしょうか。

課題②人材の見える化と整理

二つ目の課題は、人材の見える化です。社員を雇用して管理するために、個々人の特徴や背景は、把握しているかもしれません。しかし資本として効果的に活用するためには、さらに幅広く、かつ尺度をそろえて特性を押さえる必要があります。組織として整理して把握することで、経営戦略とどのように連動させるかが具体的に検討できます。つまり、課題①を解決するためにも必要になります。どのような尺度で整理するかが重要ですので、この点は後で詳しくご案内します。

課題③人材をフル活用できる組織か

三つ目の課題は、人を生かす組織になっているかどうかです。個々人の能力を高めても、個人が力を発揮できない環境であれば、せっかくの資本も生かされず無駄になるからです。戦略手法でよく使われるVRIO分析で整理をしました(図3)。

図3 VRIO分析による課題

私たちがたどり着きたいのは、一番右の「人材をフル活用できる組織か?」ではないでしょうか。しかし、ここにたどり着くためには、左から
「自社の人材は付加価値を上げているか」
「自社の人材は希少性があるか」
「自社の人材特性は模倣困難か」
という問いをクリアしていく必要があります。
皆さまの組織では、どの問いに課題がありそうでしょうか。

人材版伊藤レポート2.0からの重点(3P・5Fモデル)

人材版伊藤レポート2.0のメインメッセージは、3つの視点と5つの共通要素(3P・5Fモデル)です(図4)。

図4 3つの視点と5つの共通要素(3P・5Fモデル)

※出典:1.人的資本経営の実現に向けた検討会、 報告書 (人材版伊藤レポート2.0) (経済産業省https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf から一部抜粋

本ウェビナーでは、特に、3つの視点と5つの共通要素①に焦点を当てていきます。中でも「5つの共通要素の①」がキーポイントだと考えています。つまり、目指すべきビジネスモデルや経営戦略の実現に向けて、多様な個人が活躍する人材ポートフォリオ構築ができているかという観点です。

次の章では、この人材ポートフォリオに焦点を当てて進めていきます。

私たちが今できること(人材ポートフォリオ)

経営戦略の実現のために、まず現在の人材ポートフォリオを作成する必要があります。人材ポートフォリオをつくるためには人材を特徴によって整理することが第一です。組織にいる人材の特徴を整理して把握することで、経営戦略と人材のリンクができます。

ただし、前述のようにどのように把握するかが重要です。例えば、パフォーマンスの高め方 も人材によりさまざまです。
・自分の腕を磨く人材
・他者を活用する人材
・確立された方法を駆使する人材
・今までにない方法を生み出す人材

弊社ではこれまでの研究から、以下のように整理しモデル化しています。

人材を整理する6つの人材像

弊社では「6つの人材像モデル」を整理しています。日本国内の企業で働く方々が、どのような特徴を持っているのかという観点で見ることができます(図5)。

図5 6つの人材像モデル
上段:マネジメント型人材(人を効果的に活用するという人材)
下段:プレイヤー型人材(自分の腕を磨いてという人材)
パーセント(%):弊社のデータベースから算出したもの。全体のうち占める割合を示す。

全体で見ると、右上にあるアントレプレナー人材(1.9%)の比率が非常に低いです。反対に、比率が最も高いのは左下のエキスパート人材(26.8%)です。この「6つの人材像モデル」を用いて、組織の中の人材を分類することができます。なお、この6つの人材は組織の中に必ず存在します。企業の歴史や事業の方向感、価値観に影響されて、組織によって分布の仕方がさまざまであることも分かっています。

「両利きの経営」視点で整理する

また、両利きの経営の中で紹介されているキーワード「深化」と「探索」の観点での整理することもできます。先ほどの「6つの人材像モデル」をさらに違う2色で色分けします(図6)。

図6 6つの人材像モデル(当日ウェビナー資料より抜粋)
深化(フォアキャスト人材):グリーン
探索(バックキャスト人材):ブルー

「深化」は「フォアキャスト人材」。「探索」は「バックキャスト人材」として置き換えることもできます。このようにすると、経営と人材のマッチングができ、さまざまな観点から人材を見ることができるようになります。

事業が停滞する、人材と事業のアンマッチの例

最近、さまざまな経営者や事業責任者の方々と話をしていると気付くことがあります。企業経営を「バックキャスティング思考」で模索していることです。既存事業の延長線に無い、未来を起点にした新しい発想の仕方です。これは、サステイナブル経営やSDGsが背景にあります。

しかし、事業の模索がうまくいっていないという大きな悩みにぶつかってもいます。原因は、推進している人材が、既存事業で活躍している「フォアキャスト人材」だからです。つまり、経営は「バックキャスティング思考」ですが、推進者は「フォアキャスト人材」を選任しているために、ミスマッチが起きているのです。

なぜこのようなことが起きるのでしょうか。それは、誰がどのような特徴を持っているのか、実はそこまで押さえられていない現状があるためだと弊社は考えています。

さらに整理をしてみます。

経営戦略と人材戦略をマッチさせる手段

このポートフォリオの軸は、事業戦略、あるいは事業の方向感の傾向です(図8)。

図8 人材ポートフォリオ例(当日ウェビナー資料より抜粋)

例えば、このポートフォリオに、把握した従業員の特徴をプロットしてみます。つまり、これが経営戦略と人材戦略をマッチさせるときの一つの手段です。図の人材ポートフォリオの軸は、弊社の仮説の一例です。自社として必要な軸を設定することが重要です。その上で、把握した全従業員の特徴と重ね合わせて検討します。すると実現したい経営戦略に対して、現在の人材とのギャップが見えます。ここから現在と未来に対して、取り組まなければならない課題が見えてきます。

今後、力を入れたい事業とリードしてもらいたい人材をどのようにマッチさせるかなど、考える材料にできます。

③人的資本経営が私たちにもたらすもの 

ここまで、以下2つの観点の話をしてきました。一つ目は経営戦略と人材戦略のマッチングが重要だという話で、二つ目は人材ポートフォリオをつくることで経営戦略と人材戦略の連動が検討できるという話です。そのために欠かせない工程は「人材の見える化」です。しかし「勘・コツ・経験だけに頼らず、人材を多面的に見ているだろうか」「実際どのように人材の見える化をしたらよいのか」というお悩みも頂きます。

ここからは私どもの人材の見える化に関する考え方をご案内していきます。

見える化するのは人材の「能力」「意欲」「考え方」

組織の中で求めるパフォーマンスは「能力」「意欲」「考え方」の掛け合わせで考えられます。この考え方は、人材を見える化するときの分け方に活用できます。弊社では、これら3点を測る診断サービスも提供しています(図9)。

図9 人材を見える化する切り口(当日ウェビナー資料より抜粋)

能力

能力は、コンピテンシーで可視化します。多くの組織では、知識・スキル・専門性といった能力を見ることはできると思います。コンピテンシーで見るのは人材の特徴を総合的に捉えやすく活用も考えやすいためです。アジェンダ2でご案内をした「6つの人材像モデル」のそれぞれの特徴は、以下のコンピテンシーがひもづいて形成されたものです。

意欲

意欲は、個人の強みとチーム運営上の役割とのマッチングを可視化します。強みを発揮するためには、どのような役割を担うと良いのかのかということです。うまくマッチングするとエンゲージメントの向上にもつながります。

考え方

考え方は、道徳的価値を可視化します。その人自身が良い人とか悪い人ということではありません。会社の大事にしている考え方や引き継いでいってもらいたい考え方、本人が大事に思っている考え方がマッチしているかどうかです。そのため、道徳的価値というのは、サクセッションプラン(後継者育成計画)を考える上でも重要な項目です。サクセッションプランに名前が挙がるような方は、一人一人の「能力」に遜色はありません。しかし、本当に役員としてふさわしいかどうかは、「能力」以上に「考え方」が重要です。

ここでは、例として「能力」の測定についてもう少しご案内します。

能力を見える化する「人材傾向分析」

能力、ここではコンピテンシーは、人材傾向分析によって見える化します。そのときに活用するのが、キャリアポテンシャル診断(CP診断)というツールです。図は6人材像を構成するコンピテンシー要素です(図10)。

図10 人材の特徴を生かす①能力について(当日ウェビナー資料より抜粋)

これにより、一人一人の特徴を組織としてどのように生かすと良いのかが、見える化できます。また全社員を測定することができれば、組織の人材傾向分析ができ、幅広く活用ができます。自社ならではの軸で人材ポートフォリオを作成したり、キャリア開発や能力開発、採用にまで活用したりすることができます。

※能力を測る人材傾向分析の詳細や、「意欲」「考え方」の見える化について知りたい方は、お問い合わせください。

組織には事業成長の最適人財、個人にはキャリアの道筋

そして、これらの情報を獲得できた先にあるものの1つとしての事例をご紹介します。下の図のうち、左は弊社から提供した人材ポートフォリオ、右はある企業の事業ポートフォリオです(図11)。

図11 二つのポートフォリオ(当日ウェビナー資料より抜粋)

例えばAという事業を、誰に推進をしてもらうのが良いのか。B事業、C事業は誰に担ってもらうのか。この2つのポートフォリオをマッチさせることで、具体的なバイネームで議論することができます。また、本人にも動機付けすることができます。事業推進に必要なスキルと、現在いる人材のスキルとのギャップも分かります。そこでさらに活躍していくために、どのような能力開発が必要なのか、どのような経験が必要なのかということも具体的に考えられます。

これが分かると、社員の立場でもメリットがあります。将来的に自分はどこで貢献したいのかということを、社員一人一人が考える道しるべにもなります。つまり個人のキャリア開発という観点でも人的資本経営は恩恵をもたらすのです。

タレントマネジメント実現への推進力をもたらす

人的資本経営は、タレントマネジメントを実現する推進力ももたらします。

人的資本経営の実践を通して、タレントマネジメントを実現したいという企業もあると思います。弊社では、タレントマネジメントの運用・展開を以下のようなモデルで提供しています(図12)。

図12 タレントマネジメントの運用展開

このモデルは、左から右に見ていきます。上のルートと下のルートに分かれており、中心軸にあるのが人材のポートフォリオです。

上のルートは「人材活用」、観点は人材をどのように活用するかです。下のルートは「人材価値向上」、観点は人材をどのように価値向上させるかです。ゴールは、パフォーマンスの最大化です。労働生産性やエンゲージメントをいかに向上させていくのかです。

また、タレントマネジメントシステムが図の下段に位置づいています。これはタレントマネジメント展開を組織の中で行う中で、多くの人が必要なときに必要な意思決定をするためのサポートシステムという意味です。つまり、人材データをフル活用して経営戦略と人材戦略をマッチングさせるためのツールだとも言えます。

これを運用し始めたら、定期的なモニタリングが必要になってきます。特に人に関する情報は、弊社の経験則上、中期経営計画の単位でアップデートしていくのが最適だと考えております。

最後になりますが、人的資本経営に取り組んでいく、最初の一歩は、経営戦略と人材戦略をいかにマッチングさせていくのかです。そしてそこから、いかに自社なりのストーリーを描いていくのかが重要です。

必要に応じて、個別相談会やディスカッションの場を用意していますのでご活用ください。

まとめ

人的資本経営に取り組むスタートラインは、人材を投資の対象と捉え直すことです。そして、最も重要なのは、経営戦略と人材戦略をマッチさせることです。そのためには、まず、自社の人材を見える化し、人材ポートフォリオに整理していきます。人材ポートフォリオを作成したら、事業ポートフォリオと重ね合わせ、GAPを見て課題を検討します。このようにすることで、具体的で実効的な人材戦略に落とし込むことができます。カギとなる「人材の見える化」では、能力や意欲、考え方という切り口と測定のための効果的なツールの一部をご紹介しました。ツールについては、アウトプットイメージ含め詳細ご案内可能ですので、お気軽にお問い合わせください。以上、人的資本経営の実現にお役立ちすれば幸いです。

参考|

人的資本経営の実現に向けた検討会、 報告書 (人材版伊藤レポート2.0) (経済産業省)
持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~令和2年9月 (経済産業省)
人的資本経営~人材の価値を最大限に引き出す~(経済産業省)

レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局