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人材育成のマネジメントとは?マネージャーが押さえておきたい必要なスキル、方法

人材育成のマネジメントとは?マネージャーが押さえておきたい必要なスキル、方法

「組織は人なり」と言われるように、企業経営において人材育成は常に重要視されてきました。最近では、イノベーションや持続可能な成長を実現するために、人的資本の価値がさらに高まっています。このような中、マネージャーの人材育成マネジメントスキルは重要性が増しています。記事では、人材育成のマネジメントがなぜ今まで以上に重要か、その背景と目的、そしてマネージャーに必要なスキル、実践のポイントを解説します。

1.人材育成におけるマネジメントとは

人材育成におけるマネジメントとは、社員一人一人の能力を最大限に引き出し、組織全体のパフォーマンスを向上させるための管理、および指導のプロセスを指します。これは、ただ単に社員をスキルアップさせるだけではなく、組織のビジョンと目標を共有し、動機づけ、社員の成長を促すことを目指しています。

2.人材育成のマネジメントが重視される背景

組織のイノベーションや持続可能性を高めるためには、マネージャーによる人材育成が不可欠です。その背景は多岐にわたりますが、主には、以下三つが挙げられます。

少子高齢化による人材不足

日本では、少子高齢化が進行し、労働力となる人材の確保が難しくなりつつあります。このような中、組織が少子高齢化に対応するためには、現社員の潜在能力を引き出し、スキルアップを促すことが求められます。

求められている人材像の変化

技術の進化やグローバル化など経営環境の変化に伴い、組織が求める人物像、スキルセットも変化しています。マネージャーは、これらの変化に対応し、必要なスキルを習得するための支援を行う必要があります。

多様な働き方と価値観への対応

リモートワークやフレックスタイム制、地域限定社員など、働き方の多様化が進んでいます。多様なバックグラウンドや価値観を持つ従業員への理解が、ますます必要になっています。

また、人材をコストでなく資本とみて経営する人的資本経営の文脈からも、人材育成の重要性が高まっています。マネージャーは、これらに対応し、個々のニーズに合った育成プランを設計し、チーム全体のパフォーマンスを最大化することが求められます。

3.人材育成におけるマネジメントの目的

人材育成におけるマネジメントの目的は、社員の能力向上と組織の成長を促進し、組織の持続可能性を高めることです。そのためには、企業理念の共有や適材適所の人材活用が不可欠です。成果は短期的に現れにくいため、中長期でマネジメント計画を立てる必要があります。

理念やビジョンの共有と浸透

理念やビジョンの共有は、社員が同じ目標に向かって協力するために不可欠です。

社員が組織全体の目標にどのように貢献しているかを理解することで、一致団結した行動が可能になるためです。また、変化の激しいビジネス環境では迅速な判断が求められますが、その際の軸となる理念やビジョンを理解していれば、社員も適切な判断ができるためです。

例えば、定期的な職場の会議でマネージャーが部下にビジョンを共有し、対話することが効果的です。さらに、理念やビジョンを明文化した資料を配布し、常に意識できる環境を整えることも効果的です。

マネージャー自身が理念やビジョンを理解し、実践する姿勢を示すことで、組織への信頼を築くことができます。

適材適所の人材活用を実現

適材適所の配置や任用は、社員の能力を最大限に引き出すために欠かせない要素です。なぜなら、社員が強みを生かせるポジションに配置されると、仕事の質と効率が向上するからです。

そのために、マネージャーは、定期的な面談を行い、部下のスキルや適性、目標を把握することが重要です。これにより、適切な育成計画や仕事の割り当てを考えることができ、パフォーマンス発揮と同時に、能力開発やモチベーション向上ができます。特に、プロジェクトベースの仕事は多様な経験を積む機会を得ることなり、スキルの幅を広げることができます。

4.人材育成に必要なマネジメントスキル

ここでは、マネージャーが効果的な人材育成を実現するために、必要なマネジメントスキルを四つご紹介します。これらのスキルは、部下の成長を支援し、組織全体のパフォーマンスを向上させるための基本となります。

コミュニケーションスキル

コミュニケーションスキルは、人材育成において最も重要なスキルの一つです。効果的なコミュニケーションは、業務のポイントを伝えたり、信頼関係を築いたりするために重要です。また、お互いの認識違いや不毛な誤解を防ぐことにもつながり、チーム全体の協力を促進します。

オープンに対話する

オープンな対話は、部下が自由に意見を述べられる環境をつくり出します。これにより、職場での問題を早期に発見し、迅速に解決できるようになります。オープンな対話は、職場内の透明性を高め、部下が安心して働ける環境を整えます。

データや数値を用いて伝える

具体的なデータや数値は、情報を明確にし、誤解を防ぐ手段となります。例えば、プロジェクトの進捗状況を報告する際に「現在の進捗率は75%で、予定よりも5%速いペースで進行しています」と具体的な数値を示すことで、関係者全員が現状を正確に理解できます。

目標管理スキル

目標管理スキルとは、部下が組織の目標に向かって効果的に働くために必要なスキルです。明確な目標設定と進捗管理により、部下は自分の役割と責任を理解し、効率的に仕事を進めることができます。

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経営戦略との連動を理解させる

マネージャーは、組織全体のビジョンやミッションを深く理解し、それに基づいた長期的な戦略を部門やチームの目標に具体的に落とし込むことが求められます。経営戦略と自身の目標の連動を理解することで、部下が社会や自組織にどのように貢献しているかが分かり、周囲との協働もしやすくなります。

進捗を管理する

部下が設定した目標に向かって効果的に取り組むために、サポートをします。定期的な進捗確認とフィードバックを通じて、部下は自分のパフォーマンスを客観的に評価し、必要な調整を行うことができます。これにより、目標達成に向けた継続的な努力が促進されます。

コーチングスキル

コーチングスキルは、部下が自らの力で問題を解決し成長するためのサポートを行うスキルです。効果的なコーチングは社員に気付きを与え、自分自身の悩みや課題の要因をつかむことにつながります。これにより、部下に自己改善に取り組む行動を促すことができます。

部下の話を傾聴する

部下が話をしている間は、アドバイスや意見をせずに、最後まで話を聞くことが重要です。また、部下の表情にも意識を向け、沈黙を大切にすることも重要です。傾聴することで、部下は「ちゃんと話を聞いてくれる」とマネージャーを信頼するようになります。信頼関係を築けるとオープンなコミュニケーションが促進され、問題や障害が共有されやすくなり、解決のスピードも高まります。

効果的な質問で部下の気付きを促す

質問の技術は、部下が自分自身の考えを整理し、解決策を見つける手助けをします。効果的な質問を通じて、部下は自身の課題に気付き、問題解決に向けて能動的に行動することができます。これにより、部下は自らの力で成長しようとするモチベーションが向上します。

サポートし、励ます

マネージャーからのサポートと励ましは、部下のモチベーションを高め、チャレンジ精神を育むために重要です。強みや変化を指摘することで、部下は「見てくれている」と感じ、マネージャーを信頼するようになります。そして、建設的な指摘や励ましの言葉を通じて、部下は自信を持ち、困難な状況でも前向きに取り組むことができます。

フィードバックスキル

フィードバックスキルは、部下の成長とパフォーマンス向上に不可欠です。効果的なフィードバックは、部下が受け入れやすく、問題解決やスキル向上の道筋を示します。

具体的にタイムリーに行う

部下の「今の行動」に焦点を当てたフィードバックが重要です。これにより、部下は自身のパフォーマンスを理解し、すぐに改善に取り組めるため、成長の機会を逃さずにすみます。
時間が経つと、行動の詳細や文脈が忘れられ、フィードバックの効果が薄れてしまう可能性があります。

ポジティブにアプローチする

マネージャーからのポジティブなフィードバックは、部下の自信を高め、モチベーションを維持するためにも重要です。そして、部下はマネージャーに受容され尊重されていると感じることができます。ポジティブなフィードバックを通じて、社員の改善点に取り組むモチベーションが向上します。

▼マネージャーのポジティブな関りについて、詳しく知りたい方はこちら▼

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継続的にフィードバックする

継続的なフィードバックは、部下の長期的な成長を支援します。マネージャーからの定期的なフィードバックによって、部下は常に自分のパフォーマンスの評価が明確になり、改善を通じて成長を実感することができます。

5.人材育成で押さえておきたいマネジメントの諸理論

効果的な人材育成には、リーダーシップと動機づけを理解したマネジメントが不可欠です。これを実践することで、部下の潜在能力を引き出し、組織全体のパフォーマンスを向上させることにつながります。

リーダーシップ

弊社では、リーダーシップとは「与えられた状況の下で特定目標や課題の達成に向かって、人間(個人または集団)の活動に対して影響を与える力(パワー)の行使のプロセス」と考えています。一言で言えば、「影響力」とも言えるでしょう。

リーダーシップを発揮する上で重要なのは、ビジョンの提示と信頼関係です。効果的なリーダーシップを発揮するためには、次の点を理解することが求められます。

ビジョンを提示する

マネージャーが明確なビジョンを持ち、部下に伝えることで、チーム全体が同じ方向を向いて努力できます。ビジョンは具体的で社員が理解しやすいものである必要があります。

信頼関係を構築する

部下との信頼関係があることで、部下は安心して意見を述べることができます。これには、マネージャーのオープンなコミュニケーションや公平な評価が必要です。

部下の状況に合わせて柔軟に対応する

状況に応じてリーダーシップを発揮する方法を変えることが重要です。例えば、部下の成熟度が低い職場では指示型のリーダーシップが有効ですが、部下の成熟期が高まるにつれて自主性を尊重するサポート型のリーダーシップが求められます(図1)。

集団状況とリーダーシップ行動のパターン ロバート・タンネンバウム,ワーレン・H・シュミットの図
図1 集団状況とリーダーシップ行動のパターン R.タンネンバウム,W.シュミット
参考:ロバート・タンネンバウム,ワーレン・H・シュミット『適切な行動を導くリーダーシップ・パターンの選択法』DIAMONDハーバード・ビジネスレビュー(1958年)4-5月号

リーダーシップを理解し実践することで、マネージャーは部下の信頼を得られ、チーム全体の目標達成に向けたモチベーションが高まります。

動機づけ

動機づけの理論や方法を理解し、実践することは、部下が自発的に成長し、高いパフォーマンスを発揮する環境を整える上で重要です。

動機とは行動を起こす要因そのものを表します。一方、動機づけはその要因をきっかけに行動を起こして持続させる心理的過程を指します。

外発的動機づけ

外発的動機づけとは、報酬や昇進といった外部から与えられる外発動機をきっかけとして行動することです。組織が、社員にとって適切な報酬体系やキャリアパスを設計することで、社員の意欲を高めることができます。しかし、外発的動機づけだけでは長期的なモチベーションを維持するのは難しいため、内発的動機づけとのバランスが重要です。

内発的動機づけ

内発的動機づけとは、仕事をすることで得られる達成感や成長感、仕事に対する興味や満足感などの内発動機をきっかけとし、行動することです。社員が自分の仕事に意味や価値を感じられるよう支援することが重要です。

特に、会社や仕事、働き方に対する価値観の多様化によって、内発動機は重要性を増しています。内発動機の本質は、自分の行動を自分で決める、自分が役に立っていることを認識できる、重要な他者からの受容感を得られるということです(図2)。

エドワード・デシの内発動機の本質を表す図
図2 内発動機の本質
参考:エドワード・デシ『人を伸ばす力』(1999年)新曜社

このため、マネージャーは部下の成長に合わせて裁量権を与えたり、部下が自分の行動を自分で決められていると感じられたりするような関わりが必要です。そして、チャレンジングな目標の設定や、全社目標と個人目標との連鎖を意識できるように、成果だけでなくプロセスを評価することも重要です。

動機づけの理論では、人々の行動は、その人の価値観と期待の影響を受けます。つまり、行動するかどうかは「うまくできそう」という期待値が高く、成果(外発動機・内発動機)が自分の価値観に合うかどうかに影響を受けます。そのため、マネージャーにはその成功確率を高める支援と、価値観に対する理解が求められます。

動機づけの理解と実践を通じて、マネージャーは部下の意欲を引き出し、組織全体のパフォーマンスを向上させることができます。

6.人材育成マネジメントスキルを高める方法とは

人材育成を行うマネジメントスキルを高める方法には、さまざまな方法があります。ここでは、代表的な五つの方法をご紹介します。

OJT

OJT(On-the-Job Training)は、実際の業務を通して人材を育成する方法です。上司や先輩が現場で直接指導し、部下の即戦力となるスキルを啓発します。

マネージャーとして、OJTは自身の経験を相手にわかるように伝えるスキルを鍛える機会となります。また、部下にとっては、業務の効果的なアドバイスやフォローは貴重で重要であり、信頼関係を築く機会にもなります。

eラーニング

eラーニングは、時間や場所に縛られずに個々のペースで学習できるため、忙しいビジネスパーソンに最適です。

マネージャーとして、自己学習の習慣を持つことは重要です。人材育成マネジメントに必要な最新のマネジメント理論や知見、実践法は多岐にわたります。例えば労務管理やハラスメントなどの関連知識は最近特に重要です。学び続ける習慣を持つことで、人材育成の実践者としてのスキルを常にアップデートできます。

目標管理

目標管理は、具体的な目標を設定し、その達成に向けた行動計画を立てる方法です。目標管理の利点は、部下が自分の役割と目標を明確に理解し、それに向かって努力する動機づけが得られる点にあります。

目標達成に向けたサポートを行うことは、目標の意味合いの伝達や定期的な進捗確認、フィードバックなどのマネジメントスキルを高める実践的な方法です。

Off-JT

Off-JT(Off-the-Job Training)は、職場を離れて行う研修やトレーニングのことです。セミナーやワークショップ、専門のトレーニングプログラムなどがこれに該当します。Off-JTの利点は、職場の日常業務から離れ、集中して自己を振り返り、スキルや知識を学ぶことができる点にあります。

他の業界や職種の専門家と交流することで、新たな視点やアイデアを得る機会にもなります。この方法によって、幅広い知識とスキルを身につけることが可能です。

メンター

メンター制度は、経験豊富な先輩社員がメンティー(後輩)に対して個別に指導や助言を行う仕組みです。メンター制度でマネージャーがメンティーになる場合、上司や他部門の経験豊富なリーダーから直接指導を受けられるため、日常業務では得られない貴重な知識や洞察を習得できます。

例えば、リーダーシップの強化、戦略的思考の向上、または特定の課題へのアプローチ方法、コミュニケーションの取り方など、具体的なスキルアップが期待されます。この経験により、マネージャーは自身の成長だけでなく、部下への指導力も高めることができます。

7.人材育成マネジメントを実践する際のポイント

人材育成の成功には、マネージャーが具体的な実践方法を理解し、効果的に実行することが重要です。実践する際には、以下四つのポイントを押さえましょう。

経営戦略と連動し目指すべき人材像を明確にする

組織の経営戦略と連動した人材育成を実現するためには、組織が目指すべき人材像を明確にすることが重要です。これにより、組織のビジョンや目標に沿った育成計画を立てることができます。

経営戦略の変化に応じて、適切な人材像を適宜見直すことが重要です。例えば、グローバル展開に向けて、新しく3カ年計画が打ち出された組織であれば、社員の語学力や異文化理解力の向上が重要です。

部下の能力開発の現状と課題を明確にする

部下の能力開発を効果的に進めるためには、現状のスキルレベルとその課題を明確にすることです。これにより、具体的な育成計画を立て、適切なサポートを提供することができます。定期的にスキル評価を実施し、部下の強みと弱みを把握します。

部下ごとにカスタマイズした育成計画を立て、個々のニーズに応じた学習の機会を提供することも効果的でしょう。学習の機会としては、社内外の研修やeラーニングなどがあり、個人の状況に合わせて学習方法の選択肢を用意できると効果的です。

また、マネージャーは部下が自身の成長を実感できるように、学習の進捗状況や振り返りを確認し、必要に応じてアドバイスやフィードバックをしましょう。

職場の業務を見える化する

職場の業務の透明性を高めることで、業務に必要なスキルや経験などが明確にできます。社員の現状のスキルやキャリアの指向性を把握し、他の社員との協働による相乗効果などを考慮しながら、適切な業務を割り当てましょう。

また、KPIを設定し業務データを収集、分析することで、現状のパフォーマンスや改善点を把握しやすくなります。

社員の成長のためには、現状のスキルを超える挑戦的な業務を割り当てることも重要です。挑戦的な業務には、プロジェクトのリーダーや新しい業務の担当などが含まれます。このような業務への割り当てによって、社員は新たなスキルを習得し、自信を深めることができます。

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8.まとめ

人材育成のマネジメントは、組織の成長に欠かせません。マネージャーが適切なマネジメントを実践すれば、部下の潜在能力を引き出し、組織全体のパフォーマンス向上につなげることができます。

人材育成は、継続的に取り組むべき課題です。日々の業務の中で、部下と信頼関係を築きながら、一緒に成長していくことが求められます。効果的な育成を通じて、組織の競争力を高め、持続的な成長を目指しましょう。

レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報サイト事務局