デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い、多くの企業が業務改善を進めています。しかしながら、期待する成果を意図して出していく難しさを感じている企業も少なくありません。本レポートでは、業務改善で意図した成果が出にくい場合の背景を解説し、業務改善リテラシーの向上と、業務改善文化を根付かせるためのソリューションを紹介します。
※本ウェビナーレポートは、2023年7月13日に実施したウェビナーの内容をまとめたものです。
<登壇者情報>
株式会社ビジネスコンサルタント
ゼネラルマネジャー 牧野 龍生
コーディネーターコンサルタント 望月 大輔
コーディネーターコンサルタント 牛田 洋志
目次
※BPIE:ビジネス・プロセス革新エンジニア資格取得支援講座
詳しくはこちら
1.なぜ業務改善で成果が上がらないのか
現代の多くの企業では、成長戦略の一環として、より価値の高い業務へのシフトが求められています。人手不足を背景に、業務の効率化とDXの推進が特に重要視されています。しかし、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やデジタルツールを導入しても、業務改善が十分に進まないという声が多く聞かれます。長年のコンサルティング経験から、業務改善のメリット、そして成果を生むためのポイントについて、事例を交えて解説します。
成果を生むための三つのポイント
業務改善を行う上で、重要なポイントは三つあります。
①目的を明確にする
業務改善には、目的や目標、目指すべき職場の姿を明確にすることが必要です。これらが明確でなければ、関係者の力を同じ方向に集中させることができません。多くの会社で業務改善の支援を行ってきましたが、目的が不明瞭で、改善後の結果が想像しにくいケースが多いです。
このような場合、「目的が抽象的で理解しにくい」「測定できない目標なので、効果があるのか不明」という声が職場から聞かれます。目的が不明瞭なまま進行すると、多くの場合、手段が目的となり、成果が出にくくなったり、改善した状況が定着するのに時間がかかったりする事態に陥ります。
例えば、DXを進めるA社は、三つの古いシステムを持っていました。しかし、仕事の効率性に問題があり、新しいシステムに統合したいと考えていました。私たちは、新システム検討のフェーズでプロジェクトに参加しましたので、まず、現状を把握するために経営層へのインタビューを実施しました(図1)。
図1 事例 求める姿を明確にするインタビュー項目例。求める姿が明確でなければ、社員が取り組みにコミットしにくい。
その結果、DX推進の背景や具体的な目的、ビジョンが不明確であることが判明しました。
インタビューからは、社員に方向性が伝わっておらず、納得感が低いこと、社員が取り組みにコミットできていないこと、新システム導入に対する不安を抱えている状態でプロジェクトが進行していたことが明らかになりました。実際、新システムを使用するのは現場の社員です。彼らを巻き込み、運用してもらう必要があります。
その後、A社の経営層と話し、新システムを検討する前に、まず企業の将来像や目的、目指すべき職場の姿を検討し、それを社員に共有することから始めることにしました。A社の幹部メンバーを中心に作成した「会社のあるべき姿」を社員に周知することで、DX推進に対する共通の認識が生まれ、変革の一歩が踏み出せたのです。
この事例から、変革の目的やあるべき姿を明確にする重要性がわかります。DXは組織の目的やビジョンを実現するための有効な手段であり、これらが明確であれば、社員は自身の力を最大限に発揮できます。業務改善では目的の明確化と浸透を心掛けるべきです。
②DX、BPO以前に既存業務を改善する
多くの企業がDXやBPOを業務改善の手段として検討していますが、まずは既存の業務プロセスを見直すことが重要です。
B社の事例では、4部門の約20名の社員にインタビューし、システム関連業務の時間や難易度を調査しました。結果、1万3000時間の業務のうち、約半分がシステムの入出力作業に関わることがわかりました。特に、紙やExcelを使用する業務は121もあり、6000時間がこれらに消費されていました。
多くの時間が入力業務やデータの確認、印刷、回覧、ファイリングに費やされていたのです。原因は紙ベースの情報をシステムに手入力でデータ化することが日常的になっていること、上長への報告や確認を紙で行うという暗黙のルールがあったことです。
また、データ集約にも問題がありました。売り上げ、発注などのデータは四つの部門から管理部門に集約されていましたが、Excelのフォーマット統一がなく、データ統合や確認、修正に多くの時間を要していました。
最大の問題は、社員がこの業務プロセスを疑問視していなかったことです。この企業では、インタビューデータを基に職場の中心となる社員を巻き込み、紙による回覧からデータ閲覧を徹底しました。また、管理部門のデータ集約については、Excelのフォーマットを統一し、各部門が入力するプロセスに変更しました。
その結果、多くの時間を節約でき、プロセスの最適化が実現しました。社員は成果を実感し、変革に対する前向きな姿勢が生まれ、DXを含む変革にスムーズに取り組めるようになりました。これにより、本質的な業務に対してDXやBPOを適切に検討でき、不要な業務の処理を防ぐことが可能になったのです。DXの前に、多くの改善の余地があります。
③職場の業務改善意識とスキルの醸成
社員一人一人が業務改善に関する知識やスキルを持ち、意識を高めることが必要です。
B社の事例では、インタビューした約20名の社員は、485の業務のうち、約90%は改善の余地があり、約60%についてシステム化が可能と考えていました。しかし、この問題意識は経営者に届いてはいませんでした。
その要因としては、職場のリーダーが業務改善に対する問題意識が低く、改善に対する関心が低い職場風土が形成されていたことが挙げられます。このような状況では、「自分の意見は受け入れられないだろう」と社員が無意識に思い込み、意見を出せない場合もあるでしょう。
また、職場にいる社員一人一人の意識やスキル不足もありました。「業務の改善点を聞いてもらえたとしても私には改善を行う自信がない」「やり方がわからない」という声も多く聞かれました。
これらの問題解決には、社員一人一人の業務改善のスキル強化と意識向上が必要になります。その上で、アイデアを気軽に提案できるツールや職場チーム単位での業務改善ワークショップの導入が効果を発揮します。
業務改善を成功させるためには、DXやBPOに直接着手するのではなく、まずは業務を担うマネジャーや社員の意識やスキル向上を図ることが重要です。
2.成果を生むための三つのソリューション
次に、成果を生むための三つのポイントをどのように職場改善に生かすのか、弊社のソリューションをご案内します。
目的を明確にするためのソリューション
弊社のソリューションには「業務改善実施に向けたマスタープランづくり」があります。ここでの「マスタープラン」とは、目指すべき将来の姿やそこに至るまでの取り組み課題、展開スケジュールなどをまとめたものです。
マスタープランの項目(例)
・取り組みの必要性(背景)
・目的
・対象範囲
・成果イメージおよび目標(数値目標と期限)
・改善手法
・社内で展開中の他変革活動との関連性
・推進体制(推進する担当役員や事務局の役員など)
・展開スケジュール
・経営幹部や当事者部門の巻き込み策、動機付け策 など
マスタープランは、業務改善の必要性や目的、その範囲や手法などの項目について業務改善プロジェクトのメンバーが議論し、作成します。社内の誰が見ても理解し、納得できるように、平易な文章や図画で表します。
ここで重要なのは、マスタープランの作成過程がメンバーの納得を得ているかどうかです。このことがプロジェクトの成功に大きく影響します。人間心理を効果的に扱うため、プロジェクト支援で活用している二つの理論をご紹介します。
①変革に対応する心理的抵抗の諸原因
業務改善を推進する上で、押さえておきたいことが「変革に対応する心理的抵抗の諸原因」です(図2)。
業務改善プロジェクトがうまく進まないときの、主要な10個の心理的要因を整理しています。その中で、特に重要なのが「1.変革の目的、目標の不明確さ」と「2.変革への計画に参画が不十分なとき」です。目的や目標が不明確な場合、「何を目指せばよいかわからない」「どのよう立場で関与すればよいかわからない」ために、抵抗が生じやすくなります。
また、メンバーが計画策定に参加していないと、「聞いていない」などと変革に対する抵抗が起こります。このため、マスタープランの作成とその過程が重要になります。メンバー全員で検討することで、プロジェクトへの積極的な参画を促進できます。プロジェクトメンバーが前向きに取り組むための基盤を築くことが、成功への鍵となります。
②職場規範
人間心理を効果的に扱うための二つ目の理論は、業務改善プロジェクトの推進を妨げる職場規範についてです。
規範とは、組織や職場のメンバーが無意識に従う行動基準を指します。これに大きな影響を与えるのは、メンバーの上司など職場にいるリーダーです。
例えば、リーダーが改善に対して消極的な態度をすると、メンバーも同様の態度をとる傾向があります。また、リーダーの言葉と行動が一致しない場合、メンバーはリーダーの行動に影響を受けます。良い集団規範を築くには、リーダーが模範を示すことが重要です。
弊社の「業務改善実施に向けたマスタープランづくり」ソリューションは、これらの理論を活用し進めます。
DX、BPO以前に既存業務を改善するためのソリューション
ここでは「業務量調査」というソリューションをご案内します。
業務量調査によって、組織の実態を漏れなく把握することが可能になります。この調査の第一歩は、業務体系表の作成です。業務体系表とは、各部門の全業務を大分類、中分類、小分類で整理し、一覧にしたものです。
各業務担当者に業務に実際にかかった時間を表に記入してもらい作成します。ゼロベースでの業務体系表の作成は煩雑ですが、弊社の標準的なひな形を用いることで効率的に作成することができます。
次に、誰がどの業務にどの程度の時間をかけているかを明らかにするために「業務所要時間集計表」を作成します。手順としては、各人が担当している小分類業務ごとに発生頻度を洗い出して年間発生件数を算出します。その次に、各小分類業務に対し、1件当たりの処理時間を入力し、年間の所要時間を算出します。
さらに、年間所要時間を12カ月で割って1カ月間に置き直し、月間の概算時間を算出します。最終的に、業務体系表の各小分類業務に個々人が1カ月または1年間でどの程度の時間をかけているかを一覧化します。
できあがったものが、「業務所要時間集計表」です。
業務所要時間集計表により、さまざまな分析が可能になります。ポートフォリオ分析もその一つです。例えば、縦軸に定型か非定型か、そして横軸に難易度の高中低をとりマトリックスにし、業務を分布します。分布を見れば、業務を社員のスキルや経験に合わせて適正に振り分けられているか、定型業務で難易度が低いものは外注化候補にするなど、検討できます。
以上、業務量調査により、改善すべき業務が具体的にわかります。弊社がご一緒する場合は、業務の実態に合わせた適切な分析方法をご提案しています。
職場の業務改善意識とスキルを醸成するソリューション
弊社のトレーニングプログラムをご案内します。
①管理職を対象とした研修プラン
管理職を対象とした「業務改革マネジメント研修」は、業務改善の原理原則である三つのポイントを基に構成しています(図3)。
研修では「按分法(あんぶんほう)」について学ぶことができます。按分法は、1年間の業務時間を基準とし、各業務の時間配分を計算する手法です。
具体的には、1年間の業務時間を100とし、大分類業務、中分類業務ごとに時間を割り振り(按分し)、各業務にかかる時間を算出します。先の業務量調査のような調査は「積み上げ法」と言い、精緻ですがそれなりに時間と労力がかかります。按分法による算出方法を理解しておくと、より効率的に業務把握が可能となるでしょう。
マネジャーにとって重要なのは、業務の実態を把握し、効果的な業務改善の方向性を定めることです。そのため、研修では組織全体の業務を俯瞰(ふかん)し、焦点を当てるべき業務を明確にする按分法を習得します。
②業務改善スキルを身に付けられる公開講座「BPIE」
BPIE(ビジネス・プロセス革新エンジニア資格取得支援講座)は、4日間の公開講座として開催しており、業務改善の原理原則を理解し、実務に応用する能力を身に付けることができます。また、講座は全能連の資格認定講座*でもあります(図4)。
講座の冒頭で、業務改善における基本的なステップとして「可視化」「分析」「着眼・改善」の三つに焦点を当て、それぞれの意義と役割について解説します。
まず、可視化のステップでは、業務を理解するための基本ツールとして「業務体系表」の作成方法を学びます。業務の全体像を明確に捉えることで、改善の方向性を定めることができます。
業務の具体的な内容を分析するステップでは、次の三つの手法に焦点を当てて進めます。
- 1:業務の分担と工数の詳細な分析を通じて、業務の工数消費の偏りや非効率な部分を特定します。
- 2:業務プロセスの分析では、業務の作業手順を可視化し、作業手順の煩雑さや無駄を明確にします。
- 3:業務量を分析し、各業務の年間の業務量を可視化します。この分析を通じて、月別に変化する業務量から必要な人員数や体制変更、外注の機会を発見します。
着眼・改善のステップでは、現状の業務プロセスから無駄を削減し、改善後のプロセスを検討します。最終的に具体的な数字で、時間的な削減効果を示すことができます。
BPIEでは、業務改善の理論と実践の両面から学ぶことで、受講者が職場ですぐに実践できるように設計されています。
③「HitWeb®」を活用した業務改善プロジェクト
「HitWeb®」は、業務の効率化や電子マニュアル作成が簡単にできる、株式会社システム科学のオリジナルツールです。弊社は販売代理店契約に基づき「HitWeb®」を活用し、業務改善コンサルテーションや職場活性化コンサルテーションを実施しています。
弊社は、業務改善プロジェクトのコンサルテーションの際「HitWeb®」の活用を推奨しています。
業務改善で不可欠なのは、現状業務の正確な把握です。「HitWeb®」には、業務のプロセス把握、改善の提案書、マニュアル、業務体系図の作成機能があります。「HitWeb®」によって、改善前の業務が、無駄を排除することでどのように変わるのか、その結果としてどれくらいの時間が削減できるのかを一目で把握できます。
「HitWeb®」の利点は、簡単に業務プロセスを可視化できることです(図5)。
図5のSチャートでは、手順の見えづらいデスクワークや接客、物づくり現場などの多種多様な業務プロセスを可視化できます。
また、各作業手順に対する工数も登録することができるため、一目で業務の所要時間を確認することができます。「HitWeb®」を使用することにより、改善活動自体の効率化が図れるのです。
「HitWeb®」を活用した業務改善プロジェクトでは「HitWeb®」の活用セミナーを初期に行った上で、職場に実際ある業務のプロセスチャートを作成していきます。これにより業務改善のスキルを実践的に学ぶことができます(図6)。
3.まとめ
業務改善の成果を生むためのポイント三つをご紹介しました。一つ目は「目的を明確にする」です。プロジェクトの目的を明確にし、メンバーや職場で推進する社員と意識を合わせることが重要です。二つ目は「既存業務の見直し」です。DX、BPOに取り組む前に改善できることは山ほどあるという認識を持って、業務全体を把握して改善することが必要です。三つ目は「職場の業務改善意識とスキルを高める」です。メンバーだけでなく、マネジャーのスキル向上が求められます。
この三つに対する弊社のソリューションとして、目的を明確にする「業務改善実施に向けたマスタープランづくり」や既存業務を見直すための業務量調査、業務改善のスキル教育として管理職対象の業務改善研修、公開講座で業務改善を学べるBPIE、プロジェクト推進の負担を軽減するツールとして「HitWeb®」を紹介しました。
自組織で実施している業務改善プロジェクトがなかなか成果を上げられていないという問題意識をお持ちの方は、ぜひ成果を生むためのポイントを点検いただければと思います。
さらに詳細を知りたい、ご不明な点があるなどございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
レポート作成 ㈱ビジネスコンサルタント 情報サイト事務局
BPIE:ビジネス・プロセス革新エンジニア資格取得支援講座
詳しくはこちら