新入社員が組織内で活躍するようになるためには、適切な教育が欠かせません。そのため、職場で関わるOJTリーダー、上司、先輩など教育担当者が、新入社員の特徴や教育方法を十分に理解する必要があります。新入社員は、社会人としての基本的なマナー、マインドセット、そして会社への理解を深めることが重要です。本記事では、新入社員を教育する際に理解しておきたい最近の新入社員の特徴や、教育で重要な四つのポイント、注意すべき点を中心に紹介します。
目次
- 新入社員の特徴(弊社新入社員アンケート結果)
・重要視していること
・不安に感じていること - 新入社員教育の目的とは
・学生から社会人へのマインドセット
・ビジネスマナーの習得
・業務についての理解
・自社理解を深める - 新入社員に必要な5つの能力
・①働きかける力「人間関係の形成や集団への働き掛け」
・②踏み出す力「曖昧な状況の中でも、前に踏み出せる」
・③見いだす力「ビジネスに正解は無い。最適解を見いだすことができる」
・④学び取る力「受け身ではなく、自ら学び取ることができる」
・⑤普遍的な力「ビジネスマナー/コミュニケーション/仕事の進め方/論理思考/素直さ」 - 新入社員を教育する上で押さえておきたいこと
・仕事の意味や意義を伝える
・適切なフィードバックを行う
・心理的安全性の高い職場づくり
・教育担当者が率先垂範を行う - 新入社員を教育するステップ
・明確な目標の設定
・スケジュールの設定
・教育内容の策定 - 新入社員を教育する担当者の悩みと解決策
・悩み①「自分の仕事ができない」の解決策
・悩み②「うまくコミュニケーションがとれない」の解決策
・悩み③「指導に自信がない」の解決策 - まとめ
1.新入社員の特徴(弊社新入社員アンケート結果)
新入社員の教育を実施するためには、まず新入社員の特徴を理解することが大切です。2024年に4年制大学を卒業して入社する新入社員は、主に2001年に生まれです。1996年から2012年に生まれた「Z世代」は、デジタルネイティブとしても知られ、コロナ禍でのリモート授業や表情が見えないコミュニケーションなど、先輩社員とは異なる経験をしてきました。
そのような新入社員の特徴を理解するために、弊社は2024年に入社した新入社員5,759名(257組織)を対象にアンケートを実施しました。その結果を一部公開し、新入社員の特徴をご紹介します。
重要視していること
まず特徴的な傾向として肯定的な反応を示すデータ、つまり現在の新入社員が何を重要視しているかをご紹介します。
「社会や人からの感謝」「専門技能・知識の獲得」「成長実感」を重要視
「あなたがこの会社(組織)で働く上で最も重視していることは何ですか?」という質問に対し、新入社員の中で最も多くの人が「社会や人から感謝されること」を挙げました。この回答は、職場での自分の役割が社会貢献につながることを重要視する傾向を示しています。
さらに「専門技能・知識を身に付けること」や「自分が成長しているとを実感できること」という項目も、他の項目に比べ回答が多い傾向でした(図1)。
「自己重要感」「自己好感」で肯定的な反応
2023年度と比較し、自己重要感、自己好感において、肯定的な反応の割合が増加しました。(自己重要感:「とてもそう思う」+1.7ポイント 自己好感 :「とてもそう思う」+1.7ポイント)これは新入社員が自身の価値や貢献を高く評価していることを表しています。このような自己肯定感の高さは、個人の仕事への満足度やモチベーションにも肯定的な影響を与えると考えられます(図2)。
不安に感じていること
次に特徴的な傾向の中でも、新入社員が不安を感じていることがわかるデータをご紹介します。
上司や先輩との人間関係、仕事の遂行に不安
「あなたがこの会社(組織)で働く上で不安に感じていることは何ですか?」という質問に対し、多くの新入社員が「上司・先輩とうまくやっていけるか」や「仕事を覚えられるか」という回答を選びました。これは、職場での人間関係の構築や、業務内容を理解し遂行することに対する不安を示しています。また、積極的に周囲に働きかけることや自主的に行動することが苦手であることもうかがえます(図3)。
働きかけることに苦手意識
「仕事をする上で不得意だと思うこと」という質問では「働きかけ力」「創造力」「主体性」が低く、1~3 位は 3 年連続で変わりませんでした。特に、3割超の新入社員が「働きかけ力」すなわち目的に向かって周囲の人々を動かしていくことに苦手意識を持っているとの結果でした(図4)。
これは、コロナ禍により対人集団での活動経験が顕著に減少した背景があります。この状況は、新入社員が指示された業務に対しては熱心に取り組む一方で、チームの成果を最大化するために積極的に行動を起こすことが難しいという課題を生み出しました。
新入社員の教育においては、彼らの特徴を深く理解した上で接することが非常に重要です。新入社員の成長を促すためには、ただ業務指示を与えるだけでなく、自主性を発揮できるように職場の心理的安全性を高める必要があります。また、対人関係やチームワークのスキルを向上する環境を整えることも求められます。
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弊社が新入社員5,759名(257組織)を対象に、実施したアンケート調査結果を公開します。本調査は2011年度に開始し、今回で14回目となります。
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2.新入社員教育の目的とは
新入社員の教育は、新入社員が職場に円滑に適応し、社会人として働く上で必要なスキルを習得する上で欠かせません。そして、教育の目的を深く理解することが重要です。ここでは新入社員が学生から社会人へと移行する際のマインドセット、ビジネスマナーの学習、業務理解、そして企業文化への理解を深めることの大切さに注目して解説します。
学生から社会人へのマインドセット
学生から社会人への移行において、マインドセットは非常に重要です。学生時代、多くの人は自分の興味や目標に焦点を当てがちですが、社会人になると、チームワークの重要性、組織全体の目標達成への貢献、そして社会に対する広範な責任を意識することが求められます。
新入社員教育では、この根本的な思考の変化を促すことが重要です。そのためには、学生から社会人への移行期におけるマインドセットを支援し、早期に組織内で適応させることが重要です。このような教育を通じて、新入社員は個人の成功だけでなく、チームや組織全体の成功に貢献する意義を理解し、社会人としての責任感を深めることができます。
ビジネスマナーの習得
ビジネスマナーは、あいさつや会議での態度、時間の厳守、効果的なコミュニケーションなど多岐にわたります。特に新入社員にとって、適切なマナーを身に付けることは、社内外に対しプロフェッショナルな印象を与えるだけでなく、職場の人間関係や業務効率の向上にも大きく寄与します。
業務についての理解
具体的な業務内容を把握することは、新入社員にとって自分の仕事の目的、重要性、および組織全体の目標への貢献方法を理解する上で欠かせません。理解が深まることで、指示された業務だけではなく自ら必要な業務を考え、積極的に業務に取り組むことができます。
自社理解を深める
自社の文化や歴史、ビジョン、ミッションについての理解を深めることで、新入社員は自分が所属する組織に誇りを持ち、貢献するためのモチベーションを高めることができます。これは、新入社員が自身の業務だけでなく、組織全体の目標達成にも積極的に関与するようになるための鍵となります。
入社後の新入社員に対する教育は、単に仕事をするための技術や知識を提供するだけではなく、新たな社会人として成長し、組織内で成功するための基盤を築く上で大切です。教育を通して新入社員は自分自身の能力を最大限に発揮し、長期的なキャリアの発展に向けてスタートを切ることができます。
3.新入社員に必要な5つの能力
これまでの新入社員教育は「ビジネスマナーと仕事の進め方」を基礎とし、「職場への配属後は自然に成長する」という考え方が一般的でした。しかし、想定よりも早い段階での退職や、メンタルヘルスの問題による休職が頻発しています。そのため、入社数カ月の集合研修だけでなく、長期的な視点で新入社員を教育することが重要です(図5)。
新入社員に求められる能力も変化しており、新入社員の特徴を押さえ、新しい世代のニーズに対応した教育を検討する必要があります。
ここでは、組織人としての基本力である、新入社員に重要な「働きかける力」「踏み出す力」「見いだす力」「学び取る力」そして「普遍的な力」について詳しく解説します。
①働きかける力「人間関係の形成や集団への働き掛け」
他者との良好な関係を築き、集団に対して積極的に働きかける能力です。この力は、職場でのコミュニケーションや協力を円滑にするために欠かせません。新入社員は、同僚や上司との信頼関係を構築し、チームワークを強化することで業務を効果的に進めることができます。この「働きかける力」を高めるためには、まず相手の立場や考えを理解しようとする姿勢が重要です。
②踏み出す力「曖昧な状況の中でも、前に踏み出せる」
不確実な状況や曖昧な環境の中でも、果敢に行動を起こす能力です。この力は、新しいに対して積極的に取り組む姿勢を意味します。新入社員は、経験の無い業務に対しても恐れずに一歩を踏み出すことが求められます。
「踏み出す力」を養うためには、まずは小さな成功体験を積み重ねることが効果的です。この力を持つことで、新しい機会やプロジェクトに対して積極的に取り組むことができ、結果としてキャリアの幅が広がります。
③見いだす力「ビジネスに正解は無い。最適解を見いだすことができる」
ビジネスにおける最適解を見つけ出す能力です。ビジネスの世界では、必ずしも明確な正解が存在するわけではなく、状況に応じた最適な解決策を見つける能力が求められます。問題解決や業務改善の場面で、状況を的確に把握し迅速に判断する力が必要になります。
学生時代の学力テストとは異なり、ビジネスにおいては「正解は無い」という認識を持つことが出発点です。
④学び取る力「受け身ではなく、自ら学び取ることができる」
受け身ではなく、自ら積極的に新しい知識やスキルを学び取る能力です。急速に変化するビジネス環境において、この能力はますます重要となっています。新入社員は、常に学び続ける姿勢を持ち、自身の成長に努めることが求められます。
学び取る力を養うためには、自己学習の習慣を身につけることが不可欠です。また、上司や同僚からのフィードバックを積極的に受け入れ、それを基に改善する姿勢も必要です。
⑤普遍的な力「ビジネスマナー/コミュニケーション/仕事の進め方/論理思考/素直さ」
普遍的な力とは、どのような環境や状況でも通用する基礎的な能力を指します。具体的には、ビジネスマナーやコミュニケーション能力、仕事の進め方、論理思考、そして素直さなどが含まれます。これらの能力は、職場だけでなく、日常生活においても重要です。
普遍的な力を身につけるためには、日々の習慣や行動が重要です。例えば、ビジネスマナーを身につけるには、礼儀正しい言葉遣いや態度を心がけることが求められます。また、コミュニケーション能力を高めるためには、相手の意見を尊重し、効果的に情報を伝えることが必要です。この能力は、職場での信頼を築く上でも非常に重要です。
4.新入社員を教育する上で押さえておきたいこと
日々、職場で新入社員に対して教育を実施する際には、その効果を最大化するために注意すべきいくつかのポイントがあります。
仕事の意味や意義を伝える
新入社員にとって、自分の仕事が組織の目標達成や社会貢献にどのように寄与しているのかを理解することは、モチベーションを維持する上で重要です。業務の進め方だけでなく、仕事の重要性や大きな目的への貢献を伝えることで、新入社員は自分の業務に対して強い責任感を持つことができます。
適切なフィードバックを行う
フィードバックは、相手を支援し、その行動を見直すよう促す方法です。これは、相手の行動に関する情報を提供し、その行動が自分にどのような影響を与えているかを伝えるコミュニケーション手法です(図6)。
適切なフィードバックは、学習を促進する上で非常に重要です。研修講師やOJTリーダー、先輩からのフィードバックだけでなく、受講者同士(新入社員同士)でのフィードバックも、絆を深めることにつながります。
心理的安全性の高い職場づくり
心理的安全性の高い職場は、失敗を恐れず意見や疑問を表明できる環境です。特に新入社員には、開放的なコミュニケーションを促進するミーティングや個別面談が効果的です。ポジティブなフィードバックを提供し、多様性と包摂性を尊重することで、全員が働きやすい職場をつくることが重要です。
心理的安全性とは
心理的安全は致命的な失敗を避け、組織の成果や学び、革新につながる1つの要因として注目されています。
ハーバードビジネススクールのエイミー・エドモンドソン博士の心理的安全の定義
チームメンバーがお互いに「このチームでは対人リスクを取っても安全だ」と信じている状態
脳科学からの知見
心理的安全ではない状態=心理的危険
脳が危険な状態だとすると、副腎皮質からコチゾールが過剰に放出され、偏桃体が過活性することにより前頭葉が機能停止状態になります。
つまり、人は思考停止状態に陥り、不適切な行動を抑制する脳の機能が働かなくなり、やってはいけないことをしてしまうようになります。
教育担当者が率先垂範を行う
新入社員の教育は、教育担当者自身の行動が成功の鍵を握っています。教育担当者が率先垂範で示す時間管理、プロフェッショナルなコミュニケーション、そして倫理的な判断は、新入社員にとって非常に重要な学びの手本となります。教育担当者がこれらのことを示すことで、新入社員は安心して成長し、自信を持って仕事に取り組めるようになります。
5.新入社員を教育するステップ
新入社員が企業の文化や業務に早く適応することで、生産性が向上し、チームの一員として早く貢献できるようになります。そのためには、新入社員を早期に育成するための計画的な教育が必要です。
明確な目標の設定
新入社員教育の最初のステップは、教育目的と具体的な目標を設定することです。これらの目標は、企業の長期戦略と密接に結びついており、新入社員に期待されるスキルや知識、そして望ましい行動を具体化する必要があります。目標設定には、組織文化への適応、ビジネスマナーや技術的スキルの習得、チームワークやコミュニケーション能力の向上などが含まれるべきです。これにより、教育プログラムの成果を評価する基準が確立されます。
スケジュールの設定
次のステップは、スケジュールの設定です。この計画段階で特に重要なのは、研修から職場での教育も含めたスケジュールの作成です。研修で得た知識を職場で実践することが、学びを生かす上で最も重要です。最近では、短期的な研修にとどまらず、長期的な新入社員教育を実施する組織が増えています。
教育内容の策定
この段階では、教育目標を達成するために必要なスキルを精選し、教育内容を策定します。教育内容にはビジネスマナー、コミュニケーションスキル、関連する技術知識、チームでの作業方法など、多岐にわたる内容を組み込みます。
6.新入社員を教育する担当者の悩みと解決策
新入社員教育を担当する上で、教育担当者が直面する可能性のある悩みは一様ではありません。しかし、適切に対応することで、効果的な新入社員教育を実施することが可能です。ここでは、特に共通して現れる以下3つの悩みとその解決策を探ります。
- 自分の仕事ができない
- うまくコミュニケーションがとれない
- 指導に自信がない
悩み①「自分の仕事ができない」の解決策
新入社員教育の責任は重大で、教育担当者の持つ、新入社員教育以外の業務の遂行に影響を及ぼします。この問題を解決するためには、教育プロセスを効率化することが重要です。
解決策
オンボーディングのチェックリストを作成し、各教育段階で行う具体的な活動を明確にすることは効果的です。また、新入社員に自学自習を促すことで、すべての業務を一対一で教える必要がなくなり、教育担当者の負担を軽減できます。さらに、教育以外の業務を効率よく行うために、時間管理をはじめとする仕事の進め方を見直すことも重要です。
悩み②「うまくコミュニケーションがとれない」の解決策
新入社員とのコミュニケーションにおいて、教育担当者は新入社員の業務の理解度や感情を正確に把握できずに苦労することがあります。これは、世代間のギャップやコミュニケーションスタイルの違いによるものかもしれません。そこで、解決策として「傾聴のレベル」を活用する方法を紹介します。
解決策
新入社員の話を傾聴し、理解しようとする姿勢が重要です。
傾聴のレベル
- レベル1「無視」
- レベル2「否定」
- レベル3「指導」
- レベル4「興味」
- レベル5「心情理解」
傾聴のレベルを1から順にご紹介します。レベル1では、相手の話を聞きません。「あなたの言うことを聞いている暇はない」と耳を傾けない態度です。レベル2では話を聞いていますが、「しかし、いや、そうは言うが」など否定します。レベル3は相手の話を聞いていますが、「あなたにアドバイスしてあげます」と相手の発言量以上に聞き手が発言します。
レベル4は相手の話に対して「もっと教えてほしい」と質問や相槌を行います。レベル5は相手の話の背景まで理解しようとします。「あなたの考えとその背景を理解したい」と自分の言葉で相手の話を言い換えたり、相手の気持ちを確認したりします。
このように相手の話を聞いているといっても、さまざまなレベルがあります。自分が新入社員に向き合うときに、どのレベルで相手の話が聞けているかを常に意識し、レベル5を目指しましょう。これにより信頼関係が築かれ、コミュニケーションがスムーズに進みます。単に話を聞くだけでなく、相手に関心を持ち、その考えを理解することが、良好なコミュニケーションを実現するための鍵です。
悩み③「指導に自信がない」の解決策
特に新任の教育担当者や、入社歴が浅い先輩社員、OJTリーダーにとって、自身の指導方法や内容に自信を持つことは難しいかもしれません。このような不安を感じることは、成長過程において自然なことです。
解決策
最初は不安かもしれませんが、新入社員を指導する過程で自身の仕事を見直すことが、自己成長の貴重な機会となります。問題を一人で解決しようとせず、積極的に上司や先輩社員からアドバイスを求めることが重要です。このようなコミュニケーションは、チーム内の結束力を強化すると同時に、より良い指導法を見つけ出す手助けとなります。
また、企業がOJTリーダー研修を含む教育担当者向けの研修を実施することも、指導への自信を強化する上で非常に効果的です。
7.まとめ
新入社員教育は、学生から社会人へのマインドセットを促進し、ビジネスマナーと業務理解をする上で重要です。新入社員が社会人としてマインドセットをする過程では、新入社員を教育する明確な目標設定、適切な期間とスケジュールの策定、そして効果的な日々の関りが不可欠です。
しかし、教育の内容の前に新入社員の特徴を理解し、それぞれの強みを生かすという発想を持つことが重要です。新入社員の特徴を把握し、自社に合った効果的な教育内容を考えることが成功の鍵となります。本記事が、新入社員教育における具体的な方法やポイントを考える上でお役に立てば幸いです。
レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報サイト事務局