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時間外勤務を20%削減、社員の基本給を7%押し上げた業務改善「3快活動」の秘話

ホクショー株式会社の業務改善事例記事のサムネ画像

最適なモノの流れを創造し、サプライチェーンの効率化に貢献するホクショー株式会社。第72期の事業年度を迎え、独自の組織運営により、さらに社内の活性化を進めています。特に第70期(2022/07決算)には過去最高の売上高を記録すると同時に、時間外勤務を20%削減し効率化。消費者物価の高騰が顕著だった2023年度には4.20%、2024年度も3.25%の賃上げを実施。2年連続でベースアップを伴う賃上げを実施し、2年間では7.80%の昇給率となりました。これらの成果の背景には、2019年から取り組んでいた「働き方改革推進プログラム」(3快活動:生きがい・やりがい・働きがい)がありました。この「3快活動」について、代表取締役社長の北村宜大様にインタビューし、当時の取り組みや成果について詳しく伺いました。※情報は2024年3月時点のものです。

<お話を伺った方>
ホクショー株式会社 代表取締役社長 北村 宜大 様

<インタビュアー>
株式会社ビジネスコンサルタント(以下BCon)
・イノベーションプロデューサーコンサルタント 久保江 康
・カスタマーエンゲージメント ディレクター 松下 泰大

1.自社の基本情報

農機具・機械工具商社から始まり製造業へ。変化とニーズに対応して70年

ホクショー株式会社の北村社長
ホクショー株式会社 代表取締役社長 北村 宜大 様

弊社は終戦後、1952年に私の祖父が農機具・機械工具を販売する商社として創業したことに始まります。2022年12月には創業70周年を迎え、現在は第72期の事業年度です。

石川県は昔から米どころであったこと、工業用チェーンを製造する産業が盛んであったことから、農機具・機械工具を販売する商社としてスタートしました。現在のようなメーカーとしての歩みは、農家の倉庫で米俵を運ぶ「ポータブル・スラットコンベヤ」という製品を開発したことからでした。そのきっかけは、重さ60㎏にもなる米俵を肩に担いで倉庫の階段を上り下りしている農家の人の姿を、創業者が見たことでした。「なんとかして農家の人たちを助けてあげることができないか。何か貢献できることはないか」という創業者の思いが、そこにはありました。

コーポレート・スローガンは現会長が2代目社長の時に現在のものに変わり、企業指針は2013年に私が社長交代した際に現在のものに変えました。しかし、「社訓」や「企業理念」は私どもにとって普遍的なもので、創業社長の時代から変わっていません。

<ホクショー株式会社の企業情報>
石川県金沢市に本社。物流自動化機器の製造販売およびメンテナンス業。主力製品の「垂直搬送システム」は市場シェア40~50%。また、「仕分け搬送システム」の中でも「バラ物自動仕分けシステムPAS(Piece Assorting System)」は市場シェア60~70%で、いずれもトップシェアの強み。

ホクショー株式会社の製品「起動電力アシストシステム:E-VEAS」の図

起動電力アシストシステム:E-VEAS

UPS(無停電電源装置)の無い建屋で、停電時に一次側から供給される電源が遮断されたとしても、自立運転により上層階からの荷物を繰り返し出庫することのできる垂直搬送システム。
ホクショー株式会社webサイト

2.BConとのご縁や歴史は?

20年ほど前から、さまざまな社員研修を依頼

20年ほど前から、BConのコンサルタントの近藤さんに営業社員向け研修を実施していただいたことが始まりです。それからは、組織単位や階層別の研修を毎年実施していますが、第71期(2022年8月~)には「次世代マネジメントリーダープログラム」(係長研修)と「女性社員キャリアサポートプログラム」に取り組みました。

今期(第72期)は30代中堅社員(主に“平成生まれの21世紀入社”の世代)を対象として、「組織力強化プログラム」に取り組んでいます。“働きやすさ”と“働きがい”を両立させることで「キャリア自律」し、“社員幸福度”(Well-being)を自分事化することが目的です。

ホクショー株式会社、2019年完工の白山市の第3工場。
2019年完工の白山市の第3工場。屋根のソーラーパネルで電力使用量の3分の1を賄う。再生可能エネルギーの活用を進めている。

3.「3快活動」を取り組む前の課題認識は?

残業規制への対応と生産性向上、“働きやすさ”と“働きがい”の両立

売上高が150億円を超え、過去最高を記録した2018年当時、課題の一つは2019年(中小企業は2020年)4月に施行される働き方改革関連法案、特に残業規制への対応でした。この法案により、年間5日以上の有給休暇取得が義務化され、さらに時間外勤務についても厳しい上限規制が中小企業にも適用されました。

そもそも、業績を向上させるためには、1)営業の行動量を増やす、2)営業の勝率を上げる、3)受注単価を上げるという三つの方法があります。人手不足の現状では営業の行動量を増やすのは難しいですが、業務の効率を上げることは可能です。働き方改革の必要性はそこにあると考えました。

4.「3快活動」をBConと取り組む意思決定をした時の心境は?

自社の「当たり前の壁」が高く、外部の視点が必要と判断

働き方改革という言葉が出だしたころ、社内の定例会議と業務を検証し、会議の必要性、参加者、頻度、時間を点検しました。具体的には会議をカテゴリー別(中止か時間短縮、改善の余地あり、問題なし)に3つに分けて、会議の重要性に応じて調整を行いました。

しかし、この会議の改善では、なかなか業務の生産性は上がりませんでした。私どもは真面目が取りえなので、改善にも真面目に取り組んだのですが、自分たちが「当たり前」だと思っていることに対して、新しい視点を持つことが難しかったのです。そのため、自社だけでの改善は難しいと判断しました。

BConに社員研修以外の依頼をするのは初めてでしたが、外部の視点や専門知識を活用するためコンサルティングを依頼しました。BConの研修に慣れていて、取り組みに摩擦が無さそうという点もありました。

「働き方改革推進プログラム」(3快活動:生きがい・やりがい・働きがい)に取り組んだのは2019年5月からでした。生産性の高い、働きがいのある職場を目指し、非価値業務を20%削減し、価値のある業務とワークライフバランスをそれぞれ10%向上させることを目標としました(図1)。

ホクショー株式会社が取り組んだ働き方改革の目標値の図
図1 「3快活動」目標

過去最高の業績で忙しい時期でしたが、仕事が暇な時に残業が減るのは当たり前です。働き方改革は忙しい時に取り組まなければ意味が無いので、良いタイミングだったと思います。

5.「3快活動」について

約2年間の全社的な取り組みで業務生産性向上を実現

ホクショー株式会社北村社長のインタビュー風景①
左から、北村社長、松下、久保江。松下は取り組み当時の営業責任者、久保江はコンサルタントの責任者。

久保江:2019年5月に3快活動の計画を作成する打ち合わせがスタート。各種実態調査の後、マスタープラン(基本計画)を作成し、キックオフ大会で全体像の共有と部門のミッション検討をしました(図2)。

ホクショー株式会社が取り組んだ働き方改革の取り組み全体像の図
図2 「3快活動」展開ステップ(全体像)

その後は、マスタープラン通りに全部門で業務改革に取り組んで、成果をトップ答申で報告。最終的に令和3年3月に成果発表大会を行いました。

北村社長:新型コロナウイルス流行の影響があり、半年くらいスケジュールが延び、最終的に丸2年がかりでしたが、成果が出てよかったです。

6.「3快活動」の成果に対してどのように感じていますか?

「基本給7%UP」「1時間早く帰れる」社員へ還元でき、やってよかった

北村社長:「働き方改革推進プログラム」(3快活動:生きがい・やりがい・働きがい)では、「非価値業務:20%削減」と「価値業務:10%強化」、これまでより1時間早く業務を終えて余った時間は「ワークライフバランス:10%改善」に充てることを全社目標としました。最終的に、2020年度の時間外勤務実績(平均3,680H/月)は2019年度の実績(平均4,587H/月)から20%削減することができました(図3)。

ホクショー株式会社が取り組んだ働き方改革の成果の図表
図3 3快活動成果

当社では、消費税が5%から8%に上がった2014年、8%から10%に上がった2019年にも基本給を3,000円引き上げるベースアップを実施しました。2023年2月には消費者物価の高騰に合わせて6,000円のベースアップと新卒初任給の引き上げを行いました。

結果として、2023年度には4.20%、2024年度も3.25%と、2年連続でベースアップを伴う賃上げを実施できました。2年間では定期昇給を含めて7.80%の昇給率となりました。

賃金を上げられるようになったのは、やはり働き方改革で、業務生産性が上がったからです。業務の生産性が上がってないのに、簡単に上げられないですから、3快活動のおかげです。

ポイントは業務のスクラップ&ビルド

松下:北村社長が考える、今回成功したポイントとは何だったのでしょうか?

ホクショー株式会社北村社長インタビュー風景②

北村社長:やはり「業務のスクラップ&ビルド」ですね。久保江さんに教えてもらったことですが、普段の延長線上の改善ではなくて、いったんスクラップしないとだめなのだということです。本当に必要な業務に絞り込んでいく難しさを痛感しました。

松下:業務のスクラップ&ビルドに関して、現場での議論では無駄だと思う業務の削除について意見が出るものの、実際にそれを停止する決断は非常に難しいと思います。実際には、無駄であると認識しつつも実行に移せない企業が多いという現状があります。北村社長のお考えはいかがでしょうか。

北村社長:それは分かりますが、それでもやめるならやめると決めることですね。当社の社員は真面目なので、やめると決めたことはやめます。

久保江:この点は多くの企業が困難に感じることなので、工夫として今回、マスタープランを作成した際に、仕組みとして取り入れたことがあります。業務の停止や削減に当たり、中間答申や最終トップ答申といった場で社長はじめ役員に報告し、意思決定を行うという仕組みにしました。このプロセスは、後に「なぜその業務を行っているのか」という疑問が出ないようにするためでもあります。

答申会では、公式にきちんとした判断が行われ、その結果として業務が実施されることになります。これは、心理的な切り替えや区切りをつける意味でもあり、会社全体としての意思決定が行われ、重要な節目をつくる機会になります。

北村社長:そうですね。答申会で業務をやめるとか、部門から部門が業務を引き継ぐべきかを決定するプロセスは、単なる判断以上のものでした。それは、組織の方向性を明確にし、各部門がどのように貢献できるかを皆で理解するための重要な機会になったと思います。そして、意思決定した後、各部署でしっかり責任を持って削減活動をしたことが最も大きな要因です。

他社から「珍しい」と言われた目標設定の背景

北村社長:後は目標の伝え方もあると思います。非価値業務を20%削減だけでなく、さらにワークライフバランスの向上のために10%の時間を確保する必要があります。その10%というのが分かりにくいと思いましたので、「1時間早く帰ろう」としてみました。

その後、この取り組みを他社の方に話した時「単に削減目標を置くのでなく、削減した時間で何をするかという目標を明確に設定していることが珍しい」と言われました。

私としては、ただ単に残業時間を減らすというだけではなくて、“働きやすさ”と“働きがい”をどう両立させるか、どうせやるなら前向きな改革をしたいと考えての目標でした。それが“社員幸福度”(Well-being)の向上につながると考えたからです。

ホクショー株式会社北村社長インタビュー風景③

WEBカメラを活用した遠隔サービスをコロナ前に開発できた

松下:ほかに3快活動が契機となって生まれたものはありますか?

北村社長:WEBカメラを活用したお客さまへの遠隔サービスですね。それまでは据え付け指導ではどうしても現地へ行かなければならず、移動時間がネックでした。しかし技術チームの中で海外の協力会社とWEBカメラシステムで据え付け指導を遠隔で行っている例があることが分かり、それがもっと応用できるのでは、という話になりました。

その検討がたまたま新型コロナウイルスの流行前であり、流行後、海外出張が困難になったことで、この新しい方法の活用が世の中よりも早く可能になりました。

結果として、この方法は海外だけでなく、国内のプロジェクトにも大きな効果を発揮しました。うちの工場にいる技術者、または各出先の拠点にいるエンジニアが、お客さまの現場に直接足を運ばずに、遠隔から指導し、プロジェクトを完遂できるようになりました。これまで現地に行くと1日1件が限界だったところ、1日に2~3件の据え付け指導ができるようになり生産性も高まりました。

この取り組みにより、私たちは移動にかかる時間とコストを大幅に削減することができました。これはお客さまにとっても渡航費が抑えられるメリットがあります。さらには、コロナという未曽有の状況下でも業務を継続し、クライアントのニーズに応え続けることが可能になりました。この検討は、本当にコロナが来る前にやっておいてよかったと思っています。

7.コンサルタントの視点

社長のリードをはじめ、複数の成功要因があった

松下:さまざまな組織で業務改革に取り組んできた久保江さんから見て、ホクショー様の働き方改革「3快活動」は何か特徴や他組織との違い、傾向はありますか?

ホクショー株式会社北村社長インタビュー風景④

久保江:最初のマスタープラン作成の際、部長以上の18名全員が集結しました。社長のリーダーシップのもと、3日間でマスタープランを一気呵成(かせい)に作成しました。他社では参加者が欠けることがありますが、社長が直接関与し全員を集めたことが、このプロジェクトの成功に大きく寄与したと感じています。

この期間、全員が課題を共有し、明確な目標と目的に沿って協力した結果、その後の進行が非常にスムーズでした。通常、多くの問題が生じるところ、この3日間は特に円滑で印象深いものでした。特に、その3日間で18名が一枚岩となって、働き方改革を何のために行うのかを共有できたことが、後のプロセスをスムーズに進めた大きな要因だったと思います。

また、前提としてホクショー様の業績が好調で、ポジティブな機運の中で進行できたことも大きかったです。業績不調の時に行うと社員のリストラなどへの疑心暗鬼から、うまく進まないことがあります。

前述した「答申会」のような改革や変革を推進する「場」と「道具」(業務改善ノウハウや手法)をうまく取り入れながら進行したことや、3快活動の中で活用しているキーワードを共通言語としてうまく使ったこともあると思います。

共通言語をつくると、組織内のコミュニケーションがよりクリアで効率的になります。日常では使わない「パラダイムシフト」「業務効率化の『AA’』『BB’』ランク」のような言葉を共通言語化していました。

北村社長:「3快活動」というネーミングや「生きがい・やりがい・働きがい」というサブタイトルを作ったのも、最初のマスタープランを作成した18名のメンバーです。

久保江:結果として他社と比較しても、3快活動の進行は特にスムーズだったことが印象に残っています。

8.今後どのような組織にしていきたいですか?

“働きやすさ”と“働きがい”を両立し、“社員幸福度”(Well-being)の高い組織へ

ホクショー株式会社北村社長インタビュー風景⑤

社員の幸福感が高まると、創造性や生産性が向上するという研究結果があります。このため、社員の幸福度(Well-being)の向上に注力する大手企業が増えています。

重要なのは、

1)創造性や仕事の生産性を高めるポジティブ感情(Positive Emotion)
2)期待役割の理解と成長を実感するエンゲージメント(Engagement)
3)社内外において敬愛と信頼に結ばれた人間関係を高めること(Relationship)
4)仕事の意義と目的を理解して社会への貢献を感じること(Meaning and purpose)
5)高い目標を成し遂げる達成感(Achievement)

だと言われます。

第71期からは『SDGs(持続可能な開発目標)に貢献 “社員幸福度“(Well-being)の向上』を全社スローガンに掲げています。当社では仕事は楽しくなければならないと定義をし、”社員幸福度”(Well-being)の向上に引き続き取り組んでいきます。

政府が閣議決定した男女共同参画白書では「男性は仕事、女性は家庭」といった雇用慣行や生活の在り方の「昭和モデル」から脱却し、誰もが家庭と職場の両方で活躍する「令和モデル」への移行が提唱されています。弊社が設定した女性社員比率の目標は20%以上で、現在の女性社員比率は20.3%になりました

より多くの女性が管理職に就任することを願っていますし、さらに今期、健康経営優良法人2024では、中小企業法人部門の上位法人に与えられる「ブライト500」を獲得しました。“働きやすさ”と“働きがい”を両立し、“社員幸福度”(Well-being)を高め、100年企業に向けて進んでいきたいと考えています。

ホクショー株式会社北村社長インタビュー風景⑥

<編集後記:事務局より
全社一丸となり、働き方改革「3快活動」を成功させたホクショー。北村社長の果断なリーダーシップのほかに「会社全体の一体感」も成功のポイントだったと、当時の弊社営業担当者は振り返っています。

2年間で7%を超える賃上げの他にも、コロナ禍でのテレワーク手当の導入、週次の社長通信の発行など、ホクショーの経営姿勢は常に社員ファーストです。経営層と社員の間の信頼関係が、取り組みに対する前向きな一体感を形成する上で、大きく寄与したのではないでしょうか。

また、お忙しい中、取材を快諾頂きました北村社長には、インタビュー時には記事の草案を作成してお持ち頂いたり、社史はじめ多くの資料をご提供頂いたり多くの暖かなご協力を頂きました。心より感謝申し上げます。

企業プロフィール

ホクショー株式会社のロゴ

ホクショー株式会社
本社所在地:石川県金沢市
事業:垂直搬送機、仕分け搬送機、各種自動化装置をはじめとした物流自動化機器の製造販売およびメンテナンス
社員数:360名(役員15名を除く)
webサイト: https://www.hokusho.co.jp

レポート作成:株式会社ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局

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