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今の時代に求められるインサイト(洞察・共感型)セールスのポイント

外部環境の変化により、顧客からの期待や顧客の購買行動も変化しています。その変化に合わせ、マーケティング機能の強化やインサイドセールス組織の立ち上げ等、企業が営業組織の改革に取り組んでいます。合わせて、より顧客と密接に関わるためセールスパーソンの強化も求められています。営業組織の改革、セールスパーソンやDX人材の育成を専門とするコンサルタントより、顧客から選ばれる営業組織やセールスパーソンになるためのポイントについてご案内いたします。

*本ウェビナーレポートは、2023年1月30日に実施したウェビナー「今の時代に求められるインサイト(洞察・共感型)セールスのポイント」の内容をまとめたものです。

<登壇者情報>
株式会社ビジネスコンサルタント
ゼネラルマネジャー 山田和秀

目次

1.今、営業組織で何が起きているのか

今、営業組織では一体何が起きているのか。営業組織を取り巻く外部環境と内部環境の変化について見ていきましょう(図1)。

営業組織のキーワードを内外環境で整理した図
図1 営業組織で伺うキーワード

顧客の期待と購買行動に大きな変化

まず、外部環境のさまざまな変化について、大きな動向を四つご紹介します。

顧客の期待が変化

一つ目は顧客の価値提供に対する期待の変化です。過去の顧客の期待と比較して、最近の顧客は、より先を見据えた期待を持っています。例えば、弊社の人材開発の事業でも四半世紀前は「研修をしたい」というニーズが主でした。しかし現在は「研修を通じて成果を出したい」というニーズに変わってきています。これは外部環境の変化によるものであり、顧客の価値観や基準が変化していることを感じます。

購買行動の変化

二つ目は顧客の購買行動の変化です。この変化には、2000年初頭からのWeb技術の発展が背景にあります。今や、顧客は情報収集から購買行動までの6割を営業との接点を持たずに自身で行うようになったと言われています。また、顧客自身が持つ情報量がますます増えてきており、営業担当者が提供する情報を上回る状況が現れてきています。

異業界からの参入

三つ目は異業界からの参入です。異なる常識を持つ参入者が業界に参入することにより、従来の営業活動の当たり前が変化しています。ある業界では、Web業界の参入により、これまで重視されていた関係構築とルートセールスよりも、Web上での提供と簡便な注文が重要視されるようになりました。異業界からの参入者は変化に対応し、情報と価値を提供します。顧客は便利さを求め、Webへと流れます。全く違う業界から全く違う方法でアプローチされて、いつの間にか自分たちの足元が、まさに波に浸食されるように削られていきます。

競争相手との協業

四つ目は、競争相手との協業(アライアンス)です。これまでのライバル社同士が協業を進めることも珍しくなくなり、協業でお互いの強みを生かしながら価値提供しています。この点も競争の軸を変えてきたのではないかと思います。

営業部門の労務構成や属人化から生まれる内部環境の課題

私が最近訪問した印刷会社で、従来の営業手法ではライバルに勝てないという話を聞きました。これまでは数多くの顧客と接点を持って、営業がしっかりと顧客に声を掛けてマッチアップして「こういう印刷がしたい」「こういうパンフレットを作りたい」という受注がスタートしていました。そして、1から10までしっかりサポートするというビジネスモデルでした。しかし「今はそれでは勝てない、ライバルはもう印刷会社ではなくIT会社になっている」という声が聞かれました。

このような状況下で、営業部門の内部環境にはさまざまな課題が生まれています。例えば、人材の多様化や流動化は進んでいるが、労務構成がゆがんでおり生産性が上がらない、ブラックボックス化や属人化によって、営業ノウハウが個人のポケットに入ってしまい組織全体で共有されていないなどの状況です。

問題の本質は、営業組織が変化に対応できていないこと

以上のように、営業組織の周りでは大きな変化が起きていますが、それに対応できない営業組織も少なくありません。この問題の本質は、営業組織が変化に対応できていないことにあり、解決するためには営業組織全体のアップデートが必要です(図2)。

営業組織が変わらないのは部分最適ではなく全体最適で取り組む必要性を記載した図
図2 営業組織の周りでは、何が起きているのか

具体的には、CRMやSFAなどのツールを活用しながら、セールスのDXやマーケティング、インサイドセールスなどの分業化を進める中で、セールスイネーブルメントを実践していく必要があります。これによって、顧客から選ばれ、顧客と共に成功し利益を上げていくことができる営業組織をつくり上げることができます。

つまり、営業組織には変化に適応することが求められており、そのためには部分最適ではない、全体を捉えながらの組織変革が必要不可欠です。営業組織が変化に対応できるようになれば、顧客体験の質の向上やビジネスの成長を実現することができます。

2.営業組織を改革していくための視点

「環境変化や新しいやり方の必要性を感じている。しかし、成功体験に裏打ちされた匠の技を持つ営業組織の幹部に『売り上げが落ちたらどうするの』と言われると二の足を踏んでしまう」。そのような状況の中で、営業組織が変わっていくための視点についてご案内します。

キーワードは『セールスイネーブルメント』

営業組織を変えていくためのキーワードは、セールスイネーブルメントです(図3)。

セールスイネーブルメントについて説明している図
図3 営業”組織”を変えていくためのキーワード「セールスイネーブルメント」

この言葉にはさまざまな捉え方がありますが、弊社は人づくり、組織づくりの見地から「営業活動や営業組織をいかに最適化していくか」をセールスイネーブルメントであると捉えています。営業戦略や重要課題に合わせた人、仕組み、文化を合致性(FIT)モデルでフィットさせ、進化させていくことがセールスイネーブルメントという言葉にふさわしいと考えています。

フレームワークは最適化のために便利なツール

営業活動や営業組織を状況に合致させ、最適化するためには、フレームワークがあると便利です。フレームワークを通して組織を見てみると、今まで無関心だったことに対して関心が芽生えたり、知らなかったことに気付けたり、組織内で話し合う中で論点を共有しやすくなります(図4)。

合致性モデルのフレームワークの図
図4 ”組織”を見るためのフレームワーク「合致性モデル(マイケル・タッシュマン)」

活用しやすいモデルとして「組織の合致性モデル」をご紹介します。このモデルでは、経営リーダーシップと戦略をインプットし、それが重要課題、公式な組織の取り決め(人事制度等)、人材、組織文化の四つの要素に合致すれば、アウトプットである業績や結果が出る、という見方をします。いずれかの要素だけを変えようとしても、他要素と合致していなければ結果にはつながらないという考え方です。

例えば、重要課題を変えようとしている会社があるとします。「今までは顧客とひざを突き合わせた対面の御用聞き営業で活動してきたけれど、これからはWebマーケティングをしっかりしてソーシャルセリングに取り組んでいかなければいけない」。そのように重要課題を新たにした場合、他要素も状況に合致するように調整するということです。従前がフィールドセールス、つまり訪問型の営業組織であれば、新しく公式な組織をマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスといった分業型の組織構造、営業体制にしていかなくては、この重要課題に合致しません。さらに、その課題が遂行できる人材や新しい施策を受け入れる組織文化も必要になります。

重要課題を推進する人事制度の構築が必要

セールスの仕組みについて再考し、従来型の評価制度が限界だと気付いた会社もあります。例えば、先ほどの印刷会社の例では、分業しながらチームセリングに取り組んでいくことを重要課題にしました。しかし、現場の営業の方々からは「それをやっても評価されない。頭では理解できるが、これまでの業務を続けた方が、評価が高まる」という声が上がりました。人は評価で行動を決めます。評価制度は、上記の図4では「公式な組織の取り決め」に当たります。新しい課題を遂行した人を評価する制度にしなければ、人は行動を変えません。

成功の仮説がつくる組織文化が変革のブレーキに

重要課題を遂行するためには、組織文化にも向き合う必要もあります。組織の文化形成は、マネジャーや幹部の成功体験から生まれる「成功の仮説」に大きく影響されます。例えば、訪問件数増加が業績向上につながるという成功の仮説を持つ企業では、訪問件数を減らして質を向上させる方向への転換が困難です。同様に「当社の製品はこの技術があるから競争相手に勝てた」という「成功の仮説」を持つ企業では、顧客中心の発想が制約されます。20世紀型の組織は変革に対応しにくく、成功の仮説に縛られるため、組織トップが変革を望んでいてもこれまでの組織文化から脱却することは困難です。

営業組織改革がうまく進まない5つの視点

営業組織の改革がうまく進まない視点は五つあり、合致性モデルで整理してお話しします。これらは弊社がよく頂くご相談でもあります。一つずつご案内します(図5)。

合致性モデルと各コンポーネントの視点をまとめた図
図5 営業組織の改革がうまく進まない5つの視点

視点1:業績向上仮説が明確になっていない

これは営業組織のあるべき姿や使命、目的が再定義されていないということです。そこを点検することで、何が必要か分かり、新戦略が生まれます。

視点2:新戦略を遂行する業務に集中できていない

これは、そのための仕事の取り組み方ややるべきことが明確になっているか、業務フローがしっかりとできているか、ということです。事務処理やオペレーションに追われて、なかなか取り組みたいことができていないという事態に陥っていると、プロフィッタブルの時間がつくれないことになります。戦略に対してどのように業務をシフトしていくかという視点も必要になります。

視点3:新戦略・重点課題を遂行できる人材不足

これは、重点課題や新戦略をうまく展開する人材が不足しているということです。

視点4:経営幹部や拠点長の規範チェンジができていない

これまで慣れ親しんだ方法から、管理職自身が脱却できていないということです。部下は管理職の言うことでなく行動をみます。

視点5:評価や報酬・ツールやシステムの力を活かせていない

結果に対する評価や報酬体系になっていないことから、結局精神論になってしまうことや、ツールやシステムが部分最適な考え方で導入されていることが考えられます。

ここからは、この五つの視点の中でも、最近、特に関心が高まっている「セールスパーソンのリスキリング」に関連する三つ目の視点に焦点を当ててご案内します。

3.顧客共創時代に必要なセールスパーソンの能力

顧客と共に価値創造していく、顧客価値共創の時代と言われる現代において、セールスパーソンにはどのようなセールスの能力が必要なのでしょうか。

営業はインサイト(洞察・共感型)セールスの時代へ

今の時代に必要なセールスパーソンの能力という観点から考えてみましょう。今、業績を上げているのは「インサイト・洞察型」営業です(図6)。

御用聞き営業~ソリューション1.0と2.0の定義、顧客の前提、KPI、能力を比較した図
図6 「ソリューション1.0」から「ソリューション2.0」へアップデート

実際、コンサルティングの中では、業績を上げている営業担当者は、この力に長けていると感じますし、多くの顧客も共感や洞察力が重要であると認識しています。

ただし、いわゆる御用聞き営業が不要だということではありません。御用聞きは入場券です。相手の言うことをきちんと聞くことができないと、問題を捉えることができず「問題解決型」営業になることはできません。「問題解決型」は「インサイト(洞察・共感型)」の前提です。洞察して顕在化した問題を解決するために必要になるものです(図7)。

ソリューション2.0をインサイト・洞察型営業として定義を記載している図
図7 「インサイト(洞察・共感型)」営業とは

実際、コンサルティングの中では、業績を上げている営業担当者は、この力に長けていると感じますし、多くの顧客も共感や洞察力が重要であると認識しています。 ただし、いわゆる御用聞き営業が不要だということではありません。

御用聞きは入場券です。相手の言うことをきちんと聞くことができないと、問題を捉えることができず「問題解決型」営業になることはできません。「問題解決型」は「インサイト(洞察・共感型)」の前提です。洞察して顕在化した問題を解決するために必要になるものです。

4.セールスパーソンのトレーニング方法

これからの時代の営業に必要な共感力や洞察力、想像力です。ここでは、それらの能力を育むトレーニングをどのように考えていけば良いのかについてご案内していきます(図8)。

現状の問題と希望する姿に対応したトレーニングとコンサルテーション例の図
図8 代表的なトレーニング&コンサルテーションのパターン

前述の通り、人材育成だけで問題が解決する訳ではありません。多面的に現状の問題を捉えて施策を考えることが重要です。図8は弊社が提案するトレーニングやコンサルテーションの例として、組織、拠点、個人という分類でご案内しています。

①組織では、新事業や新製品を作り上げるコンサルテーション、新しい価値提供をしながら新しい文化をつくっていきたい、社員の意識を「モノからコトへ」に変えていきたいという組織変革のための組織開発に取り組むパターンが代表的です。

②拠点では、個人主義や拠点サービス低下の状態に対して、拠点の営業力を開発していくという部門開発に取り組むことが代表的なパターンです。

③個人では、マネジャーや営業担当者の意識改革やスキル開発に取り組みます。「インサイト(洞察・共感型)」営業になるために顧客への共感を深める枠組みを学習するトレーニングもあります。ただし、基礎力として「御用聞き」「問題解決型」の能力が必要な場合は、順を追ってトレーニングを進める必要があるでしょう。

5.まとめ

今回は、営業組織をアップデートするための枠組みをご案内しました。一般化する枠組みを持つと、これまでは体験、経験だけで組織運営をしていたなと気づくことが多いと思います。そして、今、なぜ「インサイト(洞察・共感型)」の営業が必要なのか、それを実践するためにどのような能力が必要なのかをお話ししてきました。弊社では、組織、拠点、個人、各レベルのさまざまな観点でお手伝いが可能ですので、お気軽にお問い合わせください。