昨今、働き方改革や新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、「集合研修」や「現場の人員のみに頼ったOJT教育」といった従来の教育の形を見直す企業が急増してきました。
この動きの中で、受講者に都合の良い時間・場所で学習ができ、またその学習データの管理などもできるLMS(学習管理システム)やeラーニング、マイクロラーニング配信アプリといったオンライン学習ツールはますます注目度を増しています。
しかし、このようなツールは導入するだけで受講者が積極的に学ぶことはほぼありません。
実際に、新しいツールを導入したものの受講率が伸びなかったため早々に利用を打ち切るといった企業も多く見られます。
受講率を上げるためにはツール選びだけでなく、管理者側の工夫が必要です。
本テーマでは、受講率を上げる工夫の中でも特に管理者が見落としがちな、受講者が最初につまずくポイントを回避するための手法をご紹介します。
目次
オンライン学習ツール導入時によくあるトラブル
受講者が利用しない理由
オンライン学習ツールが社内に定着しない要因はさまざまですが、弊社にご相談いただく企業では、特に受講者から以下のような声が上がっています。
見たいコンテンツがどこにあるか分からない
•ログインページを開くURLが分かりづらい場所に掲載されている
•サイト内のコンテンツが整理されておらず、探しにくい
→導線が雑然としている
忙しくて受講できない
•業務に追われて物理的に時間が足りない(と感じる)
•普段の業務よりも受講の優先度が低いため、時間を割かない
→受講目的が不明確である
→学習する意義が伝わっていない
上記の課題を解決するためのポイントをご紹介します。
受講ステップとつまずきやすいポイント
先程ご案内した問題点は、いずれも受講者目線で考えると学習ページにたどり着く前の段階(学習コンテンツを「見に行く」段階)で起きています。
ツールを選定する中では予算やセキュリティー要件、そして学習教材のスペック(コンテンツの質や量)などを吟味するのはもちろん重要ですが、受講率を上げるためには、まずは受講者が受講ページにアクセスするまでにつまずかないような工夫をしましょう。
これからの項目では受講者のつまづきを解消するためのコツをご紹介します。
受講者のつまずきを解消するための
コツ1「迷子にならない導線」を用意する
受講者視点で使いやすさを考える
いくら学習内容(教材の質)が良いとしても、その画面にたどり着くこと自体が快適でなければ受講率は伸び悩んでしまう可能性があります。
まずは、受講画面までの画面遷移を迷わずできることを最低条件として考えましょう。
契約するベンダーによって、導線の一部であるトップ画面のデザインなどが自社で自由に編集できるか、もしくは、それをベンダーに依頼する場合がありますが、いずれにせよ受講するまでの間をできるだけ簡単に分かりやすくすることが重要です。
実際に、この点を確認するためには、商品の比較検討時にそのツールの管理画面だけでなく、実際に受講者が操作する環境を体験して、次ページのような「迷わない導線」が作れるかどうかを確認すると良いでしょう。
迷子にならない導線とは?
迷わない導線は3つのポイントがあります。
- 文字だけでなくビジュアルでも伝える
・サムネイル画像やアイコンでメッセージができれば、ぱっと見ても内容が想像でき、親しみやすい - 受講ページまでの画面遷移が単純で分かりやす
・トップページをカテゴリーごとにきちんと分類し、サイトの階層構造を把握しやすくする
・受講優先度の高い順や推奨する学習する順などでルールづけされた配置にする - 検索機能が充実している
・得たい情報を索引やキーワード検索で探せる機能が充実していると便利
「迷子にならない導線」がある画面の例
受講者のつまずきを解消するための
コツ2「受ける目的」を明確に伝える
受講者のつまづきを解消させるためには”動機付け”が重要です。
効果的な動機付けについてご紹介します。
大人の学習の特徴と動機づけ
成人学習の動機づけの理論であるP-MARGE(※)という考え方にあるように、大人は「自分が学習をするべき理由」を明確に求めるという特徴があります。
特に、コンテンツの内容が受講者の普段の業務に直結しないような場合は、受講の動機づけのきっかけを与えることが不可欠です。
P-MARGE:成人学習の特徴
学習内容が、自身の役割や業務に関連し実務に活用できると認識すると、大人は学ぶ必要性やメリットを感じて動機づけられ、学習意欲が高まると言われています。
※ 一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会「Chapter7 教育研修の学習効果を高める」, 〈https://www.iibcglobal.org/ghrd/stepbystep/advance/advance-chapter07.html#note01〉
事務局からの動機づけ
動機づけをする方法として、一つは学習目的を事務局からメッセージするという手法があります。また、ただ言葉で伝えるよりも、以下のように教育施策に組み込むなどの工夫ができれば受講率を高める一つの工夫になります。
・期限を設定する
・未完了者には事務局からリマインドメール(自動配信メールよりもメッセージ性が高まる)
・簡単な確認テストを入れる
・資格の取得・維持として利用する
・受講テーマごとにそのコンテンツの対象者を明記する
・受講者の役職や適性によってトップ画面に表示されるコンテンツを変える(対象によって情報を絞る)
学習目的をメッセージし、受講者が一目見て分かるようにすることが重要です。
次に受講画面の例をご紹介いたします。
意図が伝わる受講画面の例(研修で使わない場合)
職場の関係者からの動機づけ
もう一つ動機づけに関わる重要な要素として、強制力(外圧的な力)が働くかどうかという点が挙げられます。
最終的には、受講者自らが自主的に学習するようなツールにしたいという目的があるとしても、導入初期の時点では受講者が慣れるための仕組みを作っておくのが望ましいでしょう。
もちろん、強すぎる強制力によって、受講者本人にとってあまりにも負担になるという事態は避ける必要がありますが、適度に他者からの働き掛けを利用するなどして、学習せざるを得ない機会を設けて長期間ツールを利用しない状態になるのを防ぐといった手を打つのも効果的です。
・受講完了率や成果物の情報を受講者のOJTリーダー、上司へ伝達
・上司の評価に部下の学習ツール活用度合いを絡める
・日報や週報で定期的にログイン
・階層別研修の事前、事後課題
・受講必須の定期試験を実施
受講者のつまずきを解消するためのコツ まとめ
コツ①「迷子にならない導線」を用意する
- 文字だけでなくビジュアルでも伝える
- 受講ページまでも画面遷移が単純でわかりやすい
- 検索機能が充実している
コツ②「受ける目的」を明確に伝える
- 事務局からの動機付け
- 職場関係者からの動機付け
本テーマではオンライン学習ツールの受講率を向上させる工夫についてご紹介いたしました。受講者の学習を促進するためのヒントにしていただけますと幸いです。
レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局