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自組織の未来を創る!イノベーティブな組織風土の醸成

「セキュリティのクマヒラ」と呼ばれ、業界をリードする株式会社熊平製作所。市場から圧倒的な信頼を得ている背景にあるのは開発力です。市場で選ばれ続け、コアコンピタンスである開発力をさらに高めるため、同社の設計開発部門では、未来を見据えた取り組みをしています。本ウェビナーでは、同社の専務取締役川中基至様にご登壇いただき、イノベーティブな組織風土の醸成に向けたヒントをコンサルタントとの対談形式でお届けします。

*本レポートは2023年2月20日に実施したウェビナー「自組織の未来を創る!イノベーティブな組織風土の醸成」の一部をまとめたものです。記載の情報はウェビナー当日時点のものです。

<登壇者情報>
・ゲストスピーカー 
株式会社熊平製作所 専務取締役 川中基至 様
・コーディネーター
株式会社ビジネスコンサルタント イノベーションプロデューサーコンサルタント 内藤康成

1.熊平製作所とは

設計開発部門に特徴を持つ老舗のセキュリティメーカー

川中 基至様の写真

川中 基至様(以下:川中):熊平製作所の川中と申します。私どもは広島にあるセキュリティメーカーで、私は設計開発部門を担当しています。当社の特徴は、従業員483名のうち150名を超える人数を有する設計開発部門があることです。

当然その分人件費が高くなる構成なのですが、コスト競争に陥らず、他社にない特徴のある製品、あるいは他社にできないカスタマイズなどを展開しています(図1)。

クマヒラグループ会社案内の図
図1 クマヒラグループ会社案内

<株式会社熊平製作所の会社案内> https://www.kumahira.co.jp/
1898年創業。金融機関向けの金庫扉や貸金庫、文化財施設などの重要施設や研究所、原子力発電所等で必要となる、頑丈な扉などの設計開発。国内の金融機関の約8割がクマヒラ製の金庫扉を利用。現在はセキュリティゲート、入退室管理システム、映像録画システムや鍵管理システム、液体検査装置などの開発に注力。セキュリティシステムのサブスクリプションサービスにも参入し、顧客ニーズに合った製品開発、サービスを展開している。本社は広島市、従業員483名。

2.取り組みに至った当時の背景・問題認識

内藤 康成(以下:内藤):最初に、2020年当時お伺いした取り組みの背景をご案内します(図2)

取り組みに至った背景・問題認識の図
図2 取り組みに至った背景・問題認識

アイデアの創出、メンバー主導に課題

内藤:熊平製作所様のメイン事業は金庫の製造・開発でしたが、銀行の統廃合などもあり、新たな製品開発を展開している中で、更なる新しいテーマの必要性を感じていらっしゃいました。川中専務からお話を聞いて強く記憶に残っているのは「面白いアイデアが出ないんだよ」「発案はトップからで、メンバー主導になっていない」という内容でした。実際に現場ではどのようなことが起きていたのですか?

川中:アイデアのヒントやこれからの流行について発案するのは、当社や販売会社の上層部でした。若い世代が自立し、逆に上層部に良いアイデアを言ってくれるような人間がもっと出てきてくれないと困るなという思いから、BConさんにご相談した次第です。

3.具体的な取り組み内容

3カ年の展開ステップ:イノベーティブな組織風土の醸成を目指して

内藤:それでは、2020年度~2022年度の3カ年、熊平製作所様で取り組んできた展開のポイントをご紹介します(図3)。

3カ年の取り組みの展開ステップの図
図3 3カ年の取り組みの展開ステップ

目的は三つでした。一つ目は、お客さまの認識していないニーズ、困り事を見つけ、お客さまに訴求できるフレームワークを習得すること。二つ目は、公開講座を通じて、会社・自組織の「箍(たが)」に気付き、創新型マネジメントの啓発を図ること。そして、三つ目は現メンバーを巻き込んだ活動を通じて、顧客視点で開発アイデアが生み出されるようなイノベーティブな組織風土、規範の醸成を図ることでした。手法だけでなく、それを引っ張るリーダーのリーダーシップ開発というポイントを念頭に置いて、川中専務との打ち合わせを何度も重ねながら一緒につくり上げてきた3年間だったと思っています。

1年目|顧客視点での発想:アイデア発散、収束の手法を習得

内藤:1年目のテーマは「製品開発アイデア出しプロジェクト」でした。イノベーティブな組織風土の醸成を目指すため、まずお客さまのニーズを理解し、訴求できる枠組みの習得を目的としました。このプロジェクトのキーワードは「場と道具」。場をつくっていくために必要なリーダーを選任していただき、リーダーシップ啓発と、その人が中心になって職場で展開するためのアイデア出しをしていくという流れで取り組みました(図4)。

2020年度プロジェクトの流れの図
図4 2020年度プロジェクトの流れ

まず、皆さんで共通言語を持ちたかったので、第1回の研修会では、フレームワーク習得ということで、顧客価値の理解を深める枠組みをご紹介しています。作り手視点に偏らず、お客さまの困り事を見つける枠組みでしたが、初めて受けた印象はいかがでしたか?

川中:市場やお客さまの困り事を解決するということは、私としては当たり前のことでした。社員に何か新しい製品を考えてほしいと言うと、手段と方法から入って、その手段や機能をどんどん積み上げていくような企画になることが多く「お客さまの困り事」が置き去りになっていきます。方法論に偏りがちな開発者の目を覚ますのにちょうど良い手法だと思いました。

研修は社員の個性をより理解できる貴重な機会

内藤:リーダーにはイノベーティブなリーダーシップを啓発するために、弊社の公開講座にも参加いただきました。これは、異業種で集まり、アイデアを発散し、収束して実現化していく一連の手法を習得する講座です。基本的なコンセプトを講座でお伝えし、それぞれの職場に戻って、リーダーを中心に実際に使っていただいています。顧客視点に立つことと、公開講座で学んだITS※1という手法を用いてアイデアを出し、製品の発表会を行うことが1年目の取り組みでした。

その後、フォローミーティングの研修をオブザーブされていた川中専務のご様子が印象的でした。参加したメンバーがお互いにフィードバックし合う様子を、とても興味深くご覧になっていましたね。

川中:はい、非常に興味深かったですね。研修という場ですと、普段の業務中では見られない彼らの様子や発言があり、「そんなことを考えていたのか」と感じることができました。例えば、フィードバックでこれまで言われたことのないことを言われ、当事者がどのようにリアクションするのか。その様子は、社員それぞれの個性が分かる手掛かりになるのではないかと考えています。このような研修は、本ウェビナー視聴者の皆さんにもお勧めです。

内藤:製品発表が1年目の締めくくりでしたが、初年度の発表会の内容に対して、専務のご感想、評価はいかがでしたか?

川中:参加者に対しては、研修で学んだ手法が活用できるようになれば良いなと考えていました。しかし、実際にはお客さま視点から脱線する者も多かったですし、ニーズの価値や重要性が本人たちの空想でしかなく「本当にニーズがあるのか」と疑問を抱くアイデアも多かったですね。やはり企画アイデアでインパクトを与えるのは、実際に対象となる方々の声、あるいはデータがないと信ぴょう性のない、単なる思い付きになってしまうのではないかと感じました。

※1 ITS(イノベーティブ・シンキング・システム)
顧客価値の創造を目指し、アイデアの発散から収束、企画立案までの一連を体系化した方法論

2年目|製品のサービス化:戦略を検討する枠組み習得

内藤:ここからは、1年目の2020年度の状況を踏まえて、2021年度にどのようなプログラムを実施したかをご案内します。(図5)

2021年度プロジェクトの流れの図
図5 2021年度プロジェクトの流れ

もともと単年の予定だったところ、もう1年実施することを決めた理由は何でしょうか?

川中:企画のレベルを向上させたかったことと、研修を通して販売会社や市場の話をもっと聞ければいいなと思ったこと、そして1回ではなかなか身に付かないと考えたことです。

内藤:そこで、よりバージョンアップするため、2020年度で学んだフレームワークを生かし「製品のサービス化」という考え方を加えて2年目の取り組みを考えました。以前よりもアイデアの幅が広がる、あるいはアイデアが出てくるということはありましたか?

川中創出されるアイデアは多かったですね。1人50個、100個出せと言われて実際に出てきていたので、アイデアを出す訓練にはなったかなと。サービス化という切り口でのアイデアの量が増えたと思いました。

3年目|自走化:社内の力で変革を推進する体制を構築

内藤:3年目は視野を広げることに取り組み、製品開発部全体に広げ、内部展開できることを模索しました(図6)。

2022年度プロジェクトの流れの図
図6 2022年度プロジェクトの流れ

具体的な内容は、コミュニケーションの活発化がイノベーティブな組織文化の醸成につながるという仮説に基づいて、川中専務と共に考えました。3年目も続けようと専務が意思決定されたのは、どのようなお考えからですか?

川中:初年度から参加している18名が意識して実践してきたことを、若い社員にも展開していきたいと考え、新しいメンバーを加えて48名に拡大しました。彼らが新しい人と取っ組み合いをして、リーダーとしての資質を磨いたり、あるいは自分たちでやってきた手法を実践したりするためには、2年ではまだまだ駄目だと感じたというのが本音です。以前から参加しているメンバーが、他者に教えることができて初めて身に付いたと言えると考えました。

内藤:そのような中で社内に広げる手段としてご提案したのが、ITSのライセンスを取得し内製化するという発想です。ITSライセンスを取得することにより、社内で自由にアイデア創出の手法などを、弊社を介さずに利用できるようになります。

それを目標に、初年度から参加している14名の方々にITSライセンス※2を取得していただきました。14名がライセンスという道具を手に入れ、社内で展開できることを主眼にした取り組みです。現在は発表会を来週に控えた下期ですが、専務が社内実施の様子をご覧になっていかがですか?

川中:上期のアイデアコンテストでは、まだ少し空想的なアイデアが多かったと思います。それは本人たちも実感したようで、下期からは、自分の興味を持ったテーマに関係するお客さまに直接連絡を取る、あるいは販売会社に協力してもらうなどの行動が見られました

ターゲットをかなり絞り込めるようになっていたと思いますね。上期で自分たちのテーマを絞り込み、下期は絞り込んだテーマに対して調査、ヒアリング、アイデアの検討ということがかなりできているのではないかと思います。

内藤:驚いたのは、直接現地に出向かれていることですよね。ただ単に販売会社に話を聞きに行くだけでなく、リサーチして、近くの大学に行き、実際にユーザーとなる可能性のある方の所へ「これ困っていませんか?」と聞きに行く行動力はすごいなと思いました。

川中:販売会社だけに依存していてもうまくいかないことに少しずつ気付き始めていましたし、実際にお客さまを直接訪問しヒアリングをしたら意外とすんなり受け入れてくれて話を聞かせていただけた。自分たちの考えを聞いてもらえて、それを評価してもらうことの面白さを感じていたようです。お客さまのお困り事に対して、本当に困っているかどうかを自分の目や耳で確かめなければいけないと、2年半を通してかなり実感し3年目の後半で実行に移すことができたと思います。

※2 ITSライセンス取得講座
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4.取り組みによって得られた成果・社内の声

内藤:この後は、3年間のプログラムの実践を通して、実際に職場でどのような成果があったかというお話を川中専務から教えていただきます(図7)。

取り組みによる成果の図
図7 取り組みによる成果

顧客の困り事からアイデアを発想する意識が社員に浸透

川中:一つの手法を習得し、それによって企画できるようになったことは成果の一つですね。また、モノや手段からアイデアを発想するのではなく、顧客ニーズや困り事から発想しなくてはならないのだという意識はかなり浸透した気がします。

空想からの発想ではなく「そのニーズは本当に存在するのか」「そのニーズは重要なのか」「本当に役に立つのか」ということですね。それらを実際に顧客にヒアリングして、確証を得ることの重要性を彼らが認識したことも大きな成果だと思います。

内藤:他にはどのような成果を感じられましたか?

川中リーダーの成長ですね。異業種交流を通して、普段あまり指摘されないことを言われることで目が覚めた部分はあると思いますし、リーダーと部下との関わり方も認識できているのではないかと思います。最後はやはりコミュニケーションですね。チーム内のミーティングで、最初は話さなかった人もいましたが、後半はみんなが発言して意見を出し合うことができたようです。コミュニケーションの活性化は図れたと思います。

リーダーの話の聞き方、部下の発言にも大きな変化

内藤:社内の声はいかがですか?

川中:リーダーの部下からは、リーダーの話の聞き方が変わってきたという声が聞かれます。自分の意見をガンガン言うタイプだったリーダーが、いろいろ聞いてくれるようになったと。逆にリーダーの上司からは、リーダーが自分の考えを言えるようになったと聞いています。

以前はメンバーを集めても受け身で話を聞く一辺倒で、自分のアイデアをなかなか言わない、人の意見を集めて何とか収束させようとするケースが多かったのです。しかし、取り組み後はまずは自分の考え方を言って、最終的な落としどころをちゃんとイメージしてミーティングを行うようになったので、ダラダラと長い会議が無くなったようです。

今後は若手へもどんどん展開していき、開発部門150名全員で新しい開発テーマのミーティングや話題ができるような風土ができればいいなと思っています。

5. 質疑応答

内藤:セミナーの最後に、受講者から質問をいただきましたので一部ご紹介します。

Q. 開発部門独自で取り組んだ理由はありますか?

川中:弊社は開発部門が150名おり、企画から設計・開発、製造・施工・アフターサービスのサポートまで一貫して業務を行っています。まずは部門での風土づくりの狙いがあったので、同じ業務をしている開発部門での実施を計画しました。ただし、実際は1年目、2年目18名中3名は他部門からも参加してもらっていましたね。

Q.外部を活用して取り組もうと考えた理由は何でしょうか?

川中:イノベーティブな文化を作り上げる方法について考えていましたが、現実的には部下との日常業務を通じて、お客さまの困り事を解決するアイデアを創発する重要性について話をすることしかできていませんでした。

そのような時に、内藤さんから「企画力の向上については手法がある」と教えていただきました。一方通行の研修は多くの企業でPRされていますが、研修に行って2~3時間話を聞くだけで身に付くとは到底思えません。研修を受け、それを実践してまた研修を受けるというふうに、年間を通して実践と研修を繰り返すプログラムはないかと相談したところ、内藤さんがプログラムを作成してご提案くださったのでお願いするに至りました。

6.まとめ

内藤と川中様の写真

内藤:イノベーションを起こすためには「場と道具」が重要です。道具への理解を深め、それを活用する場をつくる。そのためにはリーダーがどのように道具を使うか、どのように場所をつくるか。さらに風土として醸成していくためには、その道筋や体制をきちんと作ることがとても大切です(図8)。

図8 まとめ

取り組みの初期に外部コンサルタントを活用し、研修という場をつくることで、素早い知見の習得や機運作り、関係者での共通認識の形成が促進できます。

ただし、風土として定着するためには、徐々に社内の力で変革を推進する体制へ移行することが必要です。私どものような外部コンサルタントが介入し続けると、社内にノウハウが蓄積されません。組織内に推進体制を構築するためには、熊平製作所様のように、社内で推進していくリーダーを選抜し公開講座で育成したり、ITSライセンスを取得して自由度高く道具を使えるようにしたりすることが、非常に効果的です。

社内のリーダーが、苦労しながらもアイデア案出や収束の手法を活用し、職場で企画ミーティングなどを自律的に展開していく。その中で成功体験が生まれ、自社ならではのノウハウが蓄積され、イノベーティブな組織風土がつくられていくと考えます。

マナバン編集部より:
本セミナー後、熊平製作所では予定していたアイデアコンテストが実施されました。その後、川中専務より内藤宛てに「アイデアコンテストは成功でした」とうれしいメッセージをいただきました。

最後になりましたが、セミナーにご登壇にいただき川中専務には心より感謝申し上げます。

レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局

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本ウェビナーレポート内容に関連するBConの公開講座
ITSライセンス講座