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タレントマネジメントシステムとは?検討のポイントや自組織にあった選び方

タレントマネジメントシステムは、組織の重要な資本である、人材の活用を強化するツールです。しかし、多くのツールがある中で「どう選んだらいいかわからない」というご担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、苦労して導入してもそれだけでは効果は発揮されません。システムの機能を十分に理解し活用することで、組織の競争力を高めることができます。本記事では、タレントマネジメントシステムの基本機能とその重要性、適切なシステムの選び方について解説します。

 

1.タレントマネジメントとは

まず「タレントマネジメント」の定義や求められる背景を簡単にご説明します。タレントマネジメントとは、戦略的に組織内で人材(タレント)の能力やスキルを生かす人材マネジメントです。

弊社では「人的パフォーマンスと人材価値の持続的な向上を目的として、タレントマネジメントシステムなどのHRテクノロジーを用いて効果的な人材活用を実現する、一連の取り組み」と定義しています(図1)。

タレントマネジメントモデル図
図1 弊社が考えるタレントマネジメントとは

ミッションやビジョン、経営戦略など組織の上位概念を前提として、人材活用と人材価値向上を通して、パフォーマンスの最大化していく一連の取り組みであることを表しています。

タレントマネジメントが求められる理由

経済のグローバル化、技術革新などに対応するため、多様な人材のスキルを最大限活用するタレントマネジメントの重要性が増しています。

経済のグローバル化

経済のグローバル化に伴い、市場の変動への迅速な対応が求められています。外部の変化に対応するためには社員のスキルを正確に理解し、効果的に活用することが重要です。この過程には、社員の能力を評価し、適切な人材育成を行うことも含まれます。また、個々の社員が持つ特有のスキルを把握し、組織内での最適な役割を割り当てることも、組織の成功に不可欠です。

技術革新

人工知能(AI)といった技術革新が加速し、既存のスキルだけでは変化に対応し切れなくなっています。そのため、新たなスキルが必要とされ、新たに求められる仕事や今後必要がなくなる可能性のある仕事も出てきました。この技術革新に適応するためには、既存社員の能力を正確に把握し、人材の育成と配置を行うことや、企業に必要なスキルを持った人材を採用する必要があります。

労働市場の多様化

働き方の変化により、雇用形態、国籍、労働時間が異なる社員が増え、労働市場が多様化しています。そのため、多様なバックグラウンドを持つ人材を理解し、その能力を最大限に活用することが必要です。

人的資本経営

人的資本経営とは、従業員の能力や経験を貴重な資産とみなし、その価値を最大限に高める経営手法のことです。人材をイノベーションの核にする人的資本経営と、タレントマネジメントは直結しています。人的資本を戦略的に利用し、組織の競争力を向上させるために、タレントマネジメントは必要不可欠です。

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人的資本経営とは?背景や取り組み方、メリットなど基本を解説人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え積極的に投資し、その価値を最大限に生かすことで企業価値を高めていく経営手法です。この記事では、日本国内外での人的資本を巡る動き、注目される背景、取り組むメリットや具体的な取り組み方まで、人事担当者が知っておくべき基本的な情報を網羅して解説します。...

次に、タレントマネジメントを効果的に行うツールである、タレントマネジメントシステムについてご紹介します。

2.タレントマネジメントシステムとは

タレントマネジメントシステムとは、社員の情報や能力など、人事関連のデータを一元管理するシステムです。システムにはさまざまな種類があり、それぞれの機能が異なります。効果的に活用するためには、それぞれのシステムの特性や機能を正しく理解し、自組織の目的に合っているかを見極めることが重要です。

タレントマネジメントシステムが必要とされる背景

大規模な企業や多拠点の企業では、社員の情報をきちんと管理することが困難です。Excelでの管理は、初期段階では便利かもしれませんが、社員数が増え、データが複雑になるにつれて、更新の手間が増え、情報の正確性を保つことが難しくなります。

また、情報の重複や、誤った情報の共有といったミスが発生しやすくなり、これらは企業の効率性や信頼性に直接影響を及ぼします。

タレントマネジメントシステムを活用することで、これらの問題を解決できます。このシステムは、社員の情報を一箇所に集約し、簡単にアクセスできるようにすることで、企業が社員のスキルや実績を正確に把握し、適切な位置づけや育成を行うことを支援します。

さらに、公平かつ透明性の高い評価システムを構築することが可能となり、社員のモチベーション向上や、優れた人材の引き留めにもつながります。

このように、タレントマネジメントシステムは、大規模な組織の人材管理をシンプルかつ効果的にするための必須ツールと言えるでしょう。

タレントマネジメントシステムの基本的な機能

タレントマネジメントシステムに備わっている機能は多岐にわたります。ここでは基本的な機能(一例)についてご紹介します。

人材情報の一元化

社員の個人情報、職務歴、スキルなどの人事情報を一つのデータベースに集約することができます。これにより、今まで別々に管理されていた情報を一元化し、効率的な人事管理につながります。

以下は、弊社が2023年8月25日から9月8日にかけて、実施した「タレントマネジメントシステムの導入状況」を調査したアンケートの結果です(図2)。

調査概要

調査実施者 :株式会社ビジネスコンサルタント

調査期間  :2023年8月25 日〜9月8日

調査方法  :Web によるアンケート方式

調査対象者 :上場および非上場企業の人事責任者・担当者

有効回答者数:420 件

「タレントマネジメントシステムの導入状況」に関するアンケート結果図
図2 タレントマネジメントシステムを導入した目的は
弊社実施「タレントマネジメントシステムの導入状況」に関するアンケートより

タレントマネジメントシステムを導入済みの組織に「導入目的は何ですか」と質問したところ、導入した目的は 「人材情報の一元化」が 回答数83件と最も多く、以下「人材の適正配置」「人事業務の効率化」「人事考課シート等のデジタル化」の順でした。このアンケート結果から人材情報の一元化」が多くの組織にとってタレントマネジメントシステムの導入目的であることが明らかになりました。

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弊社が実施した「タレントマネジメントシステムの導入状況」に関するアンケートでは、400組織以上の方にご回答いただきました。その調査結果をダウンロード資料としてまとめました。
https://trend.bcon.jp/report-talent-management-system-survey23/

ダッシュボード

ダッシュボードは、職場ごとの基本情報、社員のパフォーマンスの発揮状況や、勤務状況などを視覚的に表示する機能です。管理職は組織の人材管理を一目で確認できるため、チームや個別の社員の成果と成長を追跡し、戦略的な意思決定を行うことが可能です。

人事考課業務のシステム化

人事考課のプロセスをシステム化することで、目標設定から上司のフィードバックまで、社員の成長を一貫してサポートできます。1on1など面談の記録も残すことができ、人事異動の際にシステムを通じて社員情報を確認することができます。

アンケート機能

タレントマネジメントシステムでは、従業員満足度やエンゲージメントなどの調査をアンケート機能で実施することができます。タレントマネジメントシステムは、アンケート結果を自動的に即座に集計し、回答内容を集約することが可能です。

3.タレントマネジメントシステム導入のメリット、デメリット

タレントマネジメントシステムにより、組織の業務効率と生産性の大幅な向上が期待できます。しかし、導入過程では課題に直面することもあります。ここではタレントマネジメントシステムを導入した際のメリットとデメリットをご紹介します。

メリット

タレントマネジメントシステムは、適切な人材の採用、育成、評価、配置を一元的に管理し、効率的な人材戦略を実現することができます。さらに、社員のモチベーション向上や才能の発掘に寄与し、組織の競争力を強化します。また、データに基づく意思決定が可能になり、戦略的な人事管理を実現することができます。

適切な人材配置ができる

社員のスキル、経験、業績を基に、最適なポジションへの配置を検討することができます。組織の戦略に合わせた人材配置を素早く検討することができます。

個々人の状況に合わせた人材育成ができる

社員のスキルとキャリアを把握することにより、個々人の状況に合わせた人材育成を行うことができます。また、研修の実施状況なども一覧で確認することができるため、研修計画にも活用することができます。

後継者育成の課題解決ができる

社員情報が一元化されているため、システム上で戦略に合わせて必要な人材を探し出し、組織体制の計画に活用することができます。多くの組織が共通して直面する後継者やリーダーの育成の課題解決に役立てることができます。

デメリット

タレントマネジメントシステムの導入により、組織の人材管理は革新されますが、初期には作業負荷の増加や組織内での適応問題が生じるデメリットもあります。データの統合やシステムのカスタマイズ、システム操作方法の共有などの課題を克服することが重要です。

導入時に作業負荷がかかる

導入時にExcelや他のシステムで管理されていたデータを一元化するため、作業負荷が一時的に増加します。さらに、自組織に適したシステムのカスタマイズ、社員への操作指導、問い合わせ対応などの業務が必要になります。

組織内への浸透が難しい

タレントマネジメントシステムの導入後、組織内に浸透させるには、社員の理解と参加を促進することが重要です。社員から、フィードバックをもらいながら、すでに導入している組織の事例などを参考に社内展開を検討する必要があります。

4.タレントマネジメントシステムの選定ポイント

タレントマネジメントシステムを一度導入すると、他のシステムへの乗り換えは容易ではありません。そのため、導入時には自組織の優先事項を設定し、最適なシステムを選ぶことが重要です。以下では、その選定ポイントを紹介します。

自組織の導入目的に沿っているか

タレントマネジメントシステムの選定に際して最も重要なのは、システムを通じて何を実現したいかを明確にすることです。多機能を備えるシステムを選んでも、それらが目的に合わないものであれば意味がありません。自組織の導入目的に合ったシステムを選ぶことが重要です。

図2と同様のアンケートで、タレントマネジメントシステム未導入の組織対象に「導入を検討する際に貴社で想定される課題は何ですか?」と質問した結果、約6割が「導入目的の明確化」が課題であると回答しました(図3)。

「タレントマネジメントシステムの導入状況」に関するアンケート結果図
図3 導入を検討する際に想定される課題
弊社実施「タレントマネジメントシステムの導入状況」に関するアンケートより

この結果から、多様な機能を持つシステムを導入する際、目的を明確にすることの重要性が顕著に表れています。

セキュリティーは自組織の求めるレベルが担保されているか

社員の個人情報を集約するためタレントマネジメントシステムを選定する際、自組織のセキュリティー要件が満たされているかの確認は非常に重要です。導入要件は早めにシステム部門に確認する必要があります。

ソフトウエアの稼働方式がオンプレミス型かクラウド型か

タレントマネジメントシステムの導入方法には主に二つの方式があります。一つは自組織サーバー内にシステムを構築するオンプレミス型。もう一つはインターネットを経由して利用するクラウド型です。オンプレミス型の特徴は自組織に合わせてカスタマイズが可能で、セキュリティーも高いレベルで担保されます。クラウド型は月額費用を支払って利用することが多く、導入のハードルも比較的低いのが特徴です。

自組織の課題を解決できる機能が備わっているか

自組織の課題を解決できる機能の有無を確認することが重要です。機能によっては追加で費用が発生する場合もあるため、基本機能とオプション機能の両方を確認することが大切です。また「タレントマネジメントシステムの導入状況」に関するアンケートの「導入した際の選定基準は?」という質問に対して最も多かった回答は、機能の充実でした(図4)。アンケート結果からも機能の充実が選定の基準として高いことが分かります。

「タレントマネジメントシステムの導入状況」に関するアンケート結果図
図4 導入した際の選定基準は
弊社実施「タレントマネジメントシステムの導入状況」に関するアンケートより

操作性が優れているか

システムの操作性は、シンプルで直感的なものが望まれます。複雑すぎると、社員が利用を避ける可能性があるため、研修や操作マニュアルなしで直感的に理解できるデザインが推奨されます。

サポート体制は整っているか

システム導入後のフォローアップや技術サポートが十分かどうかの確認も重要です。問題が起きた時に、すぐに適切なサポートを受けられるか、システムの更新やメンテナンスが適切に行われているかも、重要な判断基準です。サポート体制が整っていると、システムを長期的に安定して稼働することが可能になります。

5.タレントマネジメントシステム活用の3段階

タレントマネジメントシステムの基本機能や、選定するポイントを紹介してきました。導入検討の際には、導入後の段階を理解することも大切です。タレントマネジメントシステムを導入してすぐに組織課題の解決につながるわけではありません。弊社は段階を踏みシステムを活用することが重要だと考えています。ここで、三つの段階に分けて活用方法を紹介します(図5)。 

図5 タレントマネジメントシステム活用の3段階

第1段階「データの一元化」

タレントマネジメントシステムにアクセスすれば見たいデータが全て見られる段階です。人事基幹システムの人材データ、紙、Excelのデータ、各職場で保有するスキルや経験などが一元化されている状況です。

第2段階「業務の効率化」

これまで手作業で行っていたことをシステム化することで、生産性を高める段階です。評価制度の仕組みの改善、資格取得やスキルアップのための自己申告、アンケートへの回答、研修への申し込みなどが一元管理できるようになっている状況です。

第3段階 「組織課題の解決」

データの分析と機能の活用による組織課題の発掘と解決ができている段階です。実現したいことに沿ったデータをタレントマネジメントシステムに投入し、戦略に合った人材の発掘や異動配置、社員の能力開発ができている状況です。また、現場のマネジメント力強化、エンゲージメントの向上にも活用し「人的資本経経営」が実現できている段階です。

第1段階と第2段階は、情報をシステムに集約しているだけの状態で、タレントマネジメントが実現されているとは言えません。多くの組織はまず第2段階を目指します。3段階目「組織課題の発掘と解決」へ進むためには、タレントマネジメントシステムの機能を理解し、組織の戦略実行に活用することが求められます。

6.タレントマネジメントシステム、各社の機能比較(例)

タレントマネジメントシステム市場は拡大しており、導入を検討する際には複数のツールを比較することが一般的です。自組織に合ったツールを導入するには多様な視点からの比較が重要となります。

以下に導入時によく比較検討される三社のツールを機能別に評価しました(図6)。

タレントマネジメントシステムで比較検討されることが多い三つのツール比較の表
図6 比較検討されることが多い三つのツール比較

先ほど紹介した段階ごとの機能と特徴を説明しています。ツールの特徴と自組織での活用目的を照らし合わせ、導入の判断にお役立てください。

7.まとめ

人的資本経営の重要性が高まる中、多くの組織がタレントマネジメントシステムの導入や検討を進めています。しかし、導入だけではなく、組織のビジョンと戦略の再確認、その後の活用や組織戦略への適用も大切です。適切な選択と効果的な活用で、タレントマネジメントシステムは本来の価値を発揮します。まずは自組織の目的を明確にし、適切なタレントマネジメントシステムを選択しましょう。


レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局

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