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目標管理(MBO)はくだらない?うまくいかない理由と成功ポイント、事例紹介

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目標管理(MBO:Management by Objectives)は、成果を評価する管理手法の一つとして広く用いられています。しかし、MBOをうまく運用できずに「時代遅れ」「くだらない」と不満を持つ声もあるようです。
本記事では、MBOがくだらないと言われる背景うまくいかない理由について探っていきます。また、MBOを成功させるポイントについて事例を交え解説します。

 

1.目標管理(MBO)とは

目標管理(MBO: Management by Objectives)は、1954年にピーター・ドラッカーが著書『現代の経営』で提唱した概念です。以来、多くの企業で採用されています。

ドラッカーは、「企業は真の意味でチームを組織化し、各メンバーの努力が企業全体の努力となるような体制を築きあげなければならない」とし、さらに「各メンバーの企業に対する貢献は、それぞれに異なっているとはいえ、その目指す目標は共通のものでなければならない」と説いています。

そして、「この目標による管理の最大の利点は、自らの行為を統制することが可能となることであり、結果、自己統制は働く意欲を盛り上げ、最善を尽くそうとする熱望を起こさせることになる」といっています。

参考:「現代の経営」P.Fドラッカー

目標管理(MBO)の活動は、Plan、Do、Checkで表すことができます(図1)。

目標管理(MBO)の一連の活動の図
図1 目標管理(MBO)の一連の活動

上司と部下が、部下の目標を双方の同意にもとづき設定し、部下は、必要な上司の指導を得ながら主体的に仕事を遂行し、その目標の達成を振り返り、新たな目標に挑戦するというプロセスです。

関連コンテンツ:目標管理(MBO)とは?目的やメリット、運用方法、注意点を解説!
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目標管理(MBO)の目的

ではこの目標管理(MBO)には、どのような目的があるのでしょうか。主な目的としては、以下の4つが挙げられます。

①企業の目標達成

企業のビジョンや戦略に基づいた具体的な目標を設定し、その達成に向けて企業全体が一丸となって取り組むことを促進する。

②従業員のモチベーション向上

従業員が自分で目標を設定し、達成に向けて努力することで、仕事に対するモチベーションやエンゲージメントを向上する。

③パフォーマンスの評価とフィードバック

目標達成度に基づいて従業員のパフォーマンスを評価し、適切なフィードバックを行うことで、従業員の成長をサポートする。

④コミュニケーションの強化

目標設定プロセスを通じて、経営陣と従業員の間のコミュニケーションを強化することで、企業全体の結束力を高める。

目標管理制度(MBO)のメリットとデメリット

目標管理には適切に運用された場合、多くのメリットがあります。

例えば、目標を明確にすることで、従業員は達成すべきことが明確になります。これにより、方向性が定まり、効率的に業務を遂行することが可能です。また、目標や達成度の可視化により公正な評価が可能となり、全体の成果が向上します。そして、目標の達成が正当に評価され、自社に貢献していると実感することで従業員のモチベーションが高まります。

一方で、MBOにはデメリットも存在します。

例えば、管理職の負担増、個人と組織目標の不一致、目標の建前化、職種による目標設定の困難さ、および高すぎる目標による従業員の過度なプレッシャーが挙げられます。

これらは管理職のストレス増加、目標達成の困難、不公平感やモチベーションの低下を引き起こし、組織全体の効果を損なうことがあります。特に成果の数値化が難しい職種では目標設定と評価の齟齬が生じやすく、従業員と上司間の不信感を招くリスクもあります。

このように、目標管理にはメリットとデメリットが存在するため、運用する際には目的を理解した上で取り組む必要があります。

関連コンテンツ:MBO、OKR、KPI、KGIの違いとは?目標管理手法を解説
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2.目標管理制度(MBO)がくだらないと言われる背景

目標管理は、ドラッカーによって提唱されて以来、多くの企業で活用されてきましたが、現代のビジネス環境においてはその有効性に疑問を持つ声もあるようです。ここでは、MBOがくだらないと言われる背景について探っていきます。

価値観の多様化による企業と個人の目標の不一致

昨今、MBOがくだらないと言われる理由の一つは、価値観の多様化による企業と個人の目標の不一致です。現代の労働市場では、価値観や働き方に対する考え方が多様化しています。従業員が求めるキャリアパスや仕事に対する期待がそれぞれ異なるため、従来の一律的な目標設定は効果的でないことがあります。

例えば、ある従業員は自己成長や学びを重視し、他の従業員はワークライフバランスを優先するかもしれません。こうした個人の価値観が多様化する中で、企業が設定する目標と従業員の個人目標が一致しないケースが増加しています。

この不一致は、従業員のモチベーション低下やエンゲージメントの低下につながる可能性があります。従業員が自身の目標と企業の目標との間に乖離を感じると、達成意欲も薄れてしまいます。そのため、MBOが従業員一人一人の価値観や目標を適切に反映できない場合、その制度自体が形骸化し、効果を発揮しにくくなるのです。

企業からの押し付けになりやすい

また、MBOは企業からの押し付けになりやすいという批判もあります。MBOは元々、従業員と企業が協力して目標を設定することを目的としています。しかし、実際には企業側からの一方的な目標設定が行われることも少なくありません。これは、トップダウン型の企業において顕著であり、経営陣が決めた目標がそのまま従業員に押し付けられる形になりやすいのです。

このように、従業員の意見や希望が反映されない状況では、目標達成の意義を感じられず、形式的に目標を追うだけになってしまいます。さらに、従業員の成長やスキルアップに対するサポートが不足していると、MBOは単なる業績評価のツールに過ぎず、従業員の長期的な成長につながりません。

これらの背景から、MBOがくだらないと言われている可能性があります。

3.目標管理(MBO)がうまくいかない理由

MBOを導入しても、運用に失敗するケースがあり、その原因はさまざまです。ここでは、MBOがうまくいかない主な理由を4つご紹介します。

目標が曖昧になっている

MBOがうまくいかない理由の一つは、目標設定が曖昧であることです。明確で具体的な目標が設定されていないと、従業員は自分が何を達成すべきかを理解できません。

例えば「売り上げを上げる」という目標は、具体性に欠けています。この目標を「次の四半期で売り上げを10%増加させる」にすることで、従業員は目指すべき方向を明確に把握できます。目標が不明確だと、達成基準も曖昧になり、評価も困難になります。

目標を設定する際、現場の意見が反映されにくい

MBOでは、目標設定がトップダウンで行われることが多く、現場の意見が反映されにくいという問題があります。経営陣は戦略的視点から目標を設定しますが、従業員は日々の業務から見た実務的な視点を持って目標を設定する傾向にあります。この視点の違いが、意見の反映を難しくしていると考えられます。

また、現場の業務負担が既に高い中で、さらに高い目標が設定されると、達成は困難であり、計画倒れとなってしまうでしょう。

目標達成のための振り返りの場がない

目標達成には、定期的な振り返りとフィードバックが重要です。しかし、MBOの運用において、このプロセスが省略されることがあります。

期中の定期的な振り返りの場がないと、進捗状況の確認や問題点の洗い出しが十分にできず、目標達成のための改善策を講じることができません

適正に評価されていない

MBOに限ったことではありませんが、公正な評価を行うことが重要です。評価基準が曖昧だったり、公正な評価が行われなかったりすると、従業員は努力の成果が認められないと感じ、モチベーションが低下します。分かりやすい定量的な成果だけでなく、質的な貢献やチームワークも評価することが大切です。

特に、上司が経験したことがない職種の評価をする場合、その職種特有の業務内容や難易度を理解できず、適切な目標値や評価基準を設定できないことがあります。また、自身の経験に基づく主観的な評価が強くなり、客観的な評価が難しくなるなどの問題もあります。

4.目標管理(MBO)の成功ポイント

MBOを成功させるためには、4つの成功ポイントがあります。評価期間を期初、期中、期末の3つに区切り、MBOの展開に沿って成功ポイントを具体的に解説します(図2)。

目標管理制度の展開と成功ポイントの図
図2 目標管理制度の展開と成功ポイント

目標の明確化

期初において重要なポイントは、目標の明確化です。目標が具体的で測定可能であることは、成功への第一歩です。

例えば、SMART(Specific:具体的な/Measurable:測定可能な/Achievable:連携した/Relevant:現実的な/Time-bound:期限を定めた)の法則※1に基づいて目標を設定することで、従業員は自分の役割と期待される成果を明確に理解することができます。

また、具体的な目標設定は、従業員のパフォーマンス向上につながります。方向性を示すだけでなく、日々の業務の中での優先順位も付けやすくなります。さらに、この期初の段階で、目標を達成するための具体的な手順や必要なリソースも上司が明示しておくと、部下がどのように行動すればよいかが分かり成果につながりやすくなります。

※1 SMARTの法則|出典:「Practicing Positive Leadership Tools and Techniques That create extraordinary results」2013年 Berrett-Koehler Publisher,Inc. Kim S. Cameron著

SMARTの法則」には複数のパターンがある
SMARTの法則は、1981年に「Academy of Management Review」に掲載された、米国のコンサルタントであるジョージ・T・ドラン博士の論文「There’s a S.M.A.R.T. way to write management’s goals and objectives」で初めて提唱されました。
Specific(具体性), Measurable(計量性), Assignable(割り当て設定), Realistic(現実的), Time-related(期限)の五つの要素に沿って明確な目標を設定することで達成の可能性が高まると言われています。
その後、有識者によってより使いやすいよう単語が変更され、さまざまなパターンが存在します。

目標のすり合わせ

企業の目標と従業員の目標をすり合わせることは重要です。これにより、従業員は自分の仕事が企業の成功にどう貢献するかを理解し、やりがいを感じます。上司と部下が定期的にコミュニケーションを取り、共通の認識を持つことが大切です。

このプロセスでは、双方向のコミュニケーションが重要です。上司は部下の意見や提案を積極的に聞き入れ、目標設定に反映することで、従業員のエンゲージメントを高めることができます。目標のすり合わせが効果的に行われると、チーム全体の連携が強化され、企業全体のパフォーマンスが向上します。

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定期的に振り返る場の設定

定期的な振り返りの場を設けることは、進捗状況の確認と必要な調整に不可欠です。従業員は達成度を把握し、改善点を見つけられます。上司は業務理解を深め、フィードバックを提供して部下の成長をサポートできます。

振り返りの場では成果評価だけでなく、具体的なアクションプランを議論し、目標達成に向けた次のステップを明確にすることが重要です。これにより、目標達成への意識が高まります。

公正な評価

期末では、公正な評価が重要です。明確で一貫性がある公平な評価基準は、従業員のモチベーションと信頼関係の構築につながります。

定量的な指標と定性的な評価を組み合わせ、職種ごとの基準に基づいて評価を行いましょう。評価プロセスを透明にし、フィードバックを積極的に行うことで、従業員は納得し、次の目標に向けてモチベーションを維持できます。

また、上司の評価に関するスキル向上も重要です。360度フィードバックシステムを導入し、同僚や部下、他部門のマネージャーからのフィードバックを収集する例もあります。

以上、4つのポイントを押さえることで、MBOは従業員の成長とエンゲージメントを促進する強力なツールになります。成功には継続的な見直しと改善が必要で、企業全体で一貫した取り組みが求められます。

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5.目標管理(MBO)運用サポートの取り組み事例

では実際に、目標管理(MBO)を効果的に運用するために、各企業ではどのような取り組みをしているのでしょうか。ここでは、MBOを効果的に運用するための具体的な取り組み事例を3つご紹介します。

事例1 目標のすり合わせによる目標達成の体制づくり(専門商社)

業界・組織規模

専門商社(1,000名)

背景・ねらい

これまでの目標管理(MBO)運用では、目標のブレークダウンと連鎖が不十分で、コミットメントを十分に引き出せておらず、結果として目標達成や従業員の成長感につながっていないという問題意識がありました。

対象層・取り組み概要

そのため、以下の取り組みを展開しました。

①本来の目標管理の意味合いを再度理解して、ストレッチ目標を設定する
②目標のブレークダウンと連鎖を、事業部から部門へ、部門から課のレベルまで徹底して見直す

対象層:事業部長・部長・課長
展開方法:半日間×約20回(事業部ごとに実施)
     弊社コンサルタントのファシリテーションにより進行
     人事部門と事業部門とが協働して実施

結果

結果として、研修における話し合いの過程で事業部のマネジメント層がお互いの目標を認識しあって、各部の目標にコミットすることができるようになり、目標達成への体制をつくることができました。

事例2 目標管理運用のマニュアル作成と浸透教育(金融業)

業界・組織規模

金融業(100名)

背景・ねらい

目標管理の効果的な運用とさらなる浸透化のため、部下の自主性を引き出すこと、管理者層の部下への関わり方が課題でした。

対象層・取り組み概要

目標管理運用についてのマニュアルを作成し、その後管理者層に対して浸透教育を実施しました。具体的には、以下の取り組みを行いました。

対象層:管理者層
展開方法:1日間×年3回、マニュアル作成および研修講師を弊社にて担当

・第1回(期初):目標設定
目標の「落とし込み」だけではなく部下の自主性を引き出す進め方や関わり方について具体的に学習

・第2回(上期末):上期の振り返りと下期の目標修正
課題に対して、うまくいっていること、うまくいっていないこと、その要因を見直し、下期の目標修正に反映

・第3回:期末評価
人材育成にどのようにつなげるか、そして翌期の新しいチャレンジにつなげるべきことは何かを検討

結果

管理者層が部下に関わるべきタイミングに合わせて、この取り組みを実施した結果、管理者層の部下への関わり方が大きく改善されました。本事例と同様の取り組みは複数社にて実施しています。

事例3 eラーニングによる学習(運送業)

業界・組織規模

運送業(3000名)

背景・ねらい

業務や組織構成の都合上、集合研修を実施することが困難であったため、被考課者の中でMBOを運用する前提となる目的の認識や心構えが不均一でした。

対象層・取り組み概要

集合せずに目標管理に関する学習の場を提供できるeラーニングによる教育を展開しました。

対象層:被考課者
展開方法:eラーニングコンテンツを弊社にて作成

①目標管理は自己成長のための取り組みであること
②自己成長には自分で決めた目標に挑戦することが重要であるということ

を第一に情報提供し、共通認識の形成を図る

結果

eラーニングを活用することで、多くの被考課者に対して、学習の場を提供することができ、共通認識の形成が図れた。

6.まとめ

目標管理(MBO)は、企業の目標達成に有効な手法ですが、現代のビジネス環境では課題も多く存在します。しかし、柔軟性の確保、長期的視点の導入、効果的なコミュニケーションを通じて、MBOを成功に導くことが可能です。MBOの運用に当たっては、目標の明確化やすり合わせ、定期的な振り返りや公正な評価などのポイントを押さえながら、企業全体の目標達成をサポートすることが重要です。具体的な取り組み事例を参考に、自社に適した運用をすることで、組織と従業員双方の成長につなげることができるでしょう。
本記事が少しでも皆さまのお役に立てますと幸いです。

レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報サイト事務局

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