エンゲージメントは、誓約、約束、婚約などを意味する英単語です。一般的には、個人や団体が特定の活動、コミュニティーへの熱意、関与度合いを指します。関連する言葉として、人事領域では「従業員エンゲージメント」という言葉がよく用いられるようになりました。本記事では「従業員エンゲージメント」に焦点を当て、その意味と重要性、向上のための四つの施策を紹介します。従業員のモチベーションや生産性を高めた実際の取り組み事例から、エンゲージメントの向上が組織の成長と発展にどのように貢献したかを解説します。
目次
1.エンゲージメントとは
「エンゲージメント」という言葉は、英語で誓約、約束、婚約などを意味します。一般的には、個人や団体がある活動、仕事、コミュニティーに示す熱意や関与の度合いを指すことが多いです。そして現在、「従業員エンゲージメント」という用語は、人事分野で極めて重要なキーワードになっています。
従業員エンゲージメントとは
従業員エンゲージメントとは、従業員の組織に対する共感や信頼の度合い、コミットする意欲を指します。エンゲージメントの高い従業員は、一般的に生産性が高く、創造性が豊かで、職場の雰囲気をよくする傾向にあると言われています。そのため組織内では、従業員エンゲージメントは特に重要な概念です。
エンゲージメントを高めるには、従業員が仕事に意味を見いだし、達成感を持てる職場環境が必要です。適切なフィードバックと評価、キャリアの成長機会の提供、良好な労働条件も、エンゲージメント向上の重要な要素です。
従業員満足度と従業員エンゲージメントの違い
従業員満足度と従業員エンゲージメントは、組織の人材活用において重要な概念です。これら二つの概念は、関連しているものの、それぞれ独自の特徴を持ち、組織運営の成果に異なる影響を及ぼします。ここでは従業員満足度と従業員エンゲージメントの違いについてご紹介します。
従業員満足度とは、従業員が自分の職場や職務にどの程度満足しているかを表す指標です。従業員満足度は、給与、福利厚生、職場環境、職場の文化、上司や同僚との関係など、多くの影響を受けます。従業員満足度が高い場合、通常、離職率の低下や職場のモラル向上などの肯定的な結果に結びつきます。従業員満足度を高めるためには、適正な報酬体系、良好な職場環境、キャリア開発の機会などを提供することが重要です。
一方、従業員エンゲージメントが高い社員は、自分の仕事に情熱を持ち、組織の目標達成に向けて積極的に努力します。これは、社員が組織に対して持つ熱意、貢献、モチベーションの程度を反映しています。
つまり、従業員満足度は、職場の環境、条件、人間関係に対する従業員の満足や幸せを意味し、従業員エンゲージメントは、仕事や組織への熱意や情熱の程度を指します。
組織は、従業員エンゲージメントと従業員満足度の両方を高めることで、組織のパフォーマンスを向上させることができます。これらの違いを理解し、それぞれを効果的に高める戦略を実施することで、組織は競争力を高め、持続可能な成長を実現することができます。
2.なぜ従業員エンゲージメントが重要なのか
ここでは従業員エンゲージメントが組織にとって重要である理由をご紹介します。
定着率の向上
事業の持続的な成長のために人材の流出(離職)防止が求められています。優秀な人材が離職すると生産性が低下し、事業の持続的成長にブレーキがかかります。そのため、特に若手や中堅社員が定着するための職場環境や報酬体系、労働条件の整備が求められます。
価値観の多様化
近年、働き方や仕事に対する価値観が多様化してきました。さまざまな価値観を持つ従業員がやりがいを感じて働くためには、従来のマネジメント方法では対応が難しくなっています。それぞれの従業員が目指す目標と、組織が目指す目標が重なる部分を見つけ、それを拡大することが求められています。
キャリア自律
VUCA※1の時代において、多くの従業員は目先の業務に追われ、将来のキャリアプランについて十分に考える機会を持てずにいます。その結果、不確定な将来に対して漠然とした不安を抱えています。
管理職もまた、日々の業務に忙殺され、部下のキャリアサポートに十分な時間を割けないのが実情です。このような状況では、上司と部下の間で定期的な対話を行うことが、不安を和らげ、将来への明確なビジョンを共有する上で極めて重要です。
対話を通じて、従業員は自己のキャリア目標に対する認識を深め、管理職はそれをサポートする具体的な方法を模索できます。
※1:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字。予測ができない将来を表す言葉。
人間関係の希薄化
テレワークをはじめとする働き方の多様化により、人間関係の希薄化が進んでいます。その結果、気軽に誰かに相談することができず一人で悩みを抱え込んでしまうことも少なくありません。そのため、組織の心理的安全性を高め、悩みを共有しやすい環境を整えることが重要です。
人的資本経営の実現
人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出す人的資本経営は、中長期的な企業価値向上につながる経営の在り方として、注目を集めています。従業員エンゲージメントは人の能力を発揮する前提となるため、人的資本経営の基盤となります。
2023年1月の「企業内容等の開示に関する内閣府令」改正により、2023年度3月の決算期より人的資本の一部情報開示が要求されるようになりました。この改正は、金融商品取引法第24条に基づき「有価証券報告書」を発行する約4,000社の企業が対象ですが、その他の企業含め人的資本経営の重要性を一層強めています。
3.従業員エンゲージメント向上の効果
2020年に米ギャラップ社が実施をした調査によると、エンゲージメント指数が上位25%の組織と下位25%の組織を比較した結果、離職率、安全事故、ロイヤルティー、収益性をはじめエンゲージメントの向上が組織にさまざまな利益をもたらすことが明らかになりました(図1)。
「The Relationship Between Engagement at Work and Organizational Outcomes」
2020 Q12® Meta-Analysis: 10th Edition
https://www.mandalidis.ch/coaching/2021/01/2020-employee-engagement-meta-analysis.pdfを参考に作成
生産性の向上
エンゲージメントの高い従業員は、仕事に情熱を持ち、職務に誇りを感じて取り組みます。それは、チームにポジティブな影響を与え、組織全体の生産性と働く環境の質を向上させることにもつながります。
離職率の低下
従業員エンゲージメントが高いと、彼らが長期に亘って会社にとどまる可能性が高まります。離職率は下がり、採用コストの削減や経験豊かな従業員の維持につながります。
職場環境の改善
従業員エンゲージメントの向上は職場環境の改善にも貢献します。自分の意見が尊重され、価値ある一員として扱われる職場では、チームワークが良くなります。さらに、エンゲージメントが高い職場はストレスが少なく、従業員の健康と幸福感にもよい影響を与えます。
4.従業員エンゲージメントを高める四つの施策
エンゲージメントを向上させる施策はいくつかありますが、ここでは代表的な施策を四つご紹介します。
現状把握
エンゲージメントの向上には、まず正確な現状把握が必要です。エンゲージメントサーベイは、従業員の満足度、職場に対する情熱、会社への忠誠心などを調査するための有効な手段です。サーベイを定期的に実施し、従業員の声を聞くことで、問題点を特定し、改善策を講じることができます。
人材育成、研修会
マネジメント層対象
マネジメント層の育成は、組織全体のエンゲージメント向上に不可欠です。マネジャーの言動はチームメンバーのエンゲージメントを左右するため、彼らが効果的なリーダーシップを発揮することが重要です。リーダーシップ研修やコーチングを通じて、マネジャーのコミュニケーション能力やチーム運営スキルを強化します。
若手層対象
キャリアパスの明確化、スキルアップのための研修などを通じて、若手従業員のキャリア開発をサポートします。これにより、若手従業員の職場への帰属意識やキャリアに対する期待感を高めることができます。
ビジョン浸透
組織のビジョンを理解し、共感することで、従業員は自分の仕事が会社の目標達成にどのように貢献しているかを認識できるようになります。働く意味合いを理解し共感することで、エンゲージメントの向上につながります。
人事制度の見直し
公平で透明性のある評価制度や適切な報酬体系、キャリアアップの機会は従業員のモチベーションを高めます。従業員一人一人のポテンシャルを引き出す仕組みの構築、やりがいや働きがいを感じることができる人事制度への改革が重要です。
これらの施策を通じて、従業員エンゲージメントを向上させることは、組織全体の生産性の向上や離職率の低下につながります。従業員一人一人が熱意を持って仕事に取り組める環境を用意することが、組織の成功に不可欠です。
5.取り組み事例
ここからは、弊社のエンゲージメント向上施策に取り組んだお客さまの事例を三つご紹介します。
事例1 定着率向上(カーディーラー)
テーマ:ビジョンの浸透化で離職ゼロへ
成果
・トップダウンではなくボトムアップの施策展開が増加
・離職率の低下
◆入社5年目まで27.7%→8.2%
◆サービス部門12.9%→2.7%
◆事務職22.2%→0%
ソリューション
セルフエスティーム※2の考え方を教育によって浸透するプログラムの実施
STEP1 社内活性化のための社内トレーナーの育成
STEP2 階層別の職場活性化研修の実施
STEP3 社内トレーナー主導で店舗ごとに研修プログラム実施
※2 自分自身を誇りに思い、他者からも十分に認められるであろうという自尊心や自負心
事例2 職場環境の改善(小売業)
テーマ:メンター制度確立と導入支援
成果
ソリューション
1.メンター制度の導入(初年度に5店舗のみ試験導入)
事務局とBConが協働してメンター制度ガイドブック作成
メンターの役割の明確化
面談の回数、頻度のアップ、チェックシート活用
2.運用教育
店長とメンターに半日間の運用教育を実施
メンターには関わり方の改善に関する研修を実施
各店舗にて学習したことを生かして展開へ
事例3 価値観の多様化への対応(製造業)
テーマ:Well-being独自指標づくり
成果
・わが社にとってのWell-beingの定義づけ
・ 策定メンバーのエンゲージメント向上、当事者意識の醸成
ソリューション
STEP1 指標づくり
STEP2 全社アンケート
STEP3 役員との対話
STEP4 全社展開
6.まとめ
従業員エンゲージメントの向上は、定着率の向上、キャリアの自律、人的資本経営の実現などに深く関わっています。エンゲージメントが高まると生産性が向上したり、離職率が低下したり、職場環境が改善されます。エンゲージメント向上のためには、現状を把握するサーベイの実施、人材育成、ビジョンの浸透、人事制度の見直しなどが効果的です。従業員エンゲージメントを向上させることは、組織の持続的な成長と競争力の強化に不可欠です。組織におけるエンゲージメント向上の取り組みを進めるにあたって、この記事が参考になれば幸いです。
レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報サイト事務局