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中小企業向け「サステイナビリティ」をテーマにした組織変革の始め方

近年では企業活動の取り組みとしても重要視されているサステイナビリティ。しかし、中小企業の経営者の中には、「大手企業には必須だが、自社にはまだ必要ではない」と考える方々もいらっしゃいます。しかし、新しい事業展開や採用、社員のエンゲージメントが高い職場環境の構築など、魅力的な組織へ変革する鍵は、実はこのサステイナビリティにあります。

*本レポートは2023年7月13日に実施したウェビナー(中小企業向け「サステイナビリティ」をテーマにした組織変革の始め方)の一部をまとめたものです。

登壇者:
株式会社ビジネスコンサルタント
イノベーションプロデューサーコンサルタント 内藤 康成

目次

  1. サステイナビリティを切り口に組織変革を始めるべき三つの理由
    理由①求められるサステイナビリティへの対応
     ・ サプライチェーンから外されるリスク
    「サステイナビリティ戦略」は攻めの戦略
    理由②環境や社会課題を起点としたビジネス機会の創出が可能
     ・ビジネスに対する価値観の変化
     ・三つの文脈から本業を問い直し、新たな競争優位性を獲得する
    理由③働いている人のモチベーションが上がり、仲間に入りたい人が増える
     ・働く上で最も重視されていることは「社会や人からの感謝」
     ・これからを支える世代の「サステイナビリティ」に対する価値観の変化
     ・事業の意義や方向性をサステイナブルな観点で社内外に発信できているか
  2. サステイナビリティに取り組むメリット
  3. サステイナビリティを経営に取り入れるための四つのステップ
    ABCDプロセス
    ステップAAwareness
    ステップBBaseline Analysis
    ステップCCreative Solutions
    ステップDDecide on Priorities
  4. 効果的な組織変革 五つのポイント 
    ①社長のコミットメント
    ②多様性を持ったプロジェクトチーム編成
    ③共通項を見いだす対話のアプローチ
    ④思考や行動の幅を広げるポジティブ感情
    ⑤検討プロセス、浸透展開プロセスも形に残す
  5. まとめ

1.サステイナビリティを切り口に組織変革を始めるべき三つの理由

組織変革を始めるに当たり、サステイナビリティは非常に有効な切り口になります。その大きな理由は三つあります。ここでは、サステイナビリティに取り組むべき理由とメリットを解説します。

理由①求められるサステイナビリティへの対応

サステイナビリティ経営が求められている背景には、近年の気候変動や環境問題の深刻化から、消費者ニーズが変化していることや、コーポレートガバナンスコード(以下:CGコード)の改定などが挙げられます。そのため、サステイナビリティへの取り組みが投資先を選ぶ判断材料とされ、今後さらなる情報開示が求められることが想定されます。

サプライチェーンから外されるリスク

2021年6月に改訂されたCGコードにより、上場企業はサステイナビリティの取り組みを開示しなければなりません。この影響はサプライチェーン全体に及んでいます。例えば、すでに自動車や半導体業界では、サステイナビリティに取り組んでいることが取引条件になっています。環境面だけでなく、働く人の人権も取引条件に挙がっており、益々その動きは広がっています。取引先だけでなく、その先の顧客(customer’s customer)のサステイナビリティの取り組みを押さえて、先手で対応することが、取引先に選ばれ続けるために重要です。

「サステイナビリティ戦略」は攻めの戦略

サステイナビリティに関する事柄は、将来的に事業活動に制約をもたらす可能性があります。しかし、これらの課題をチャンスととらえ、他社よりも先に適応することにより、競合他社に先んじて、市場での優位性を築くことが可能です(図1)。

図1 「サステイナビリティ戦略」は攻めの戦略

サステイナビリティへの積極的な取り組みを「攻めの戦略」として位置付けることが、組織変革への第一歩となります。

理由②環境や社会課題を起点としたビジネス機会の創出が可能

二つ目の理由は「環境や社会を起点としたビジネスの機会を創出できる」ということです。

ビジネスに対する価値観の変化

企業評価の基準が大きく変わり、従来の「株主価値」や「共有価値」を中心としてビジネスの拡大を重視する評価基準から、環境や社会を起点としたビジネスの機会を創出する「システム価値」へとシフトしています(図2)。

図2 ビジネスの価値観が変化している

COPYRIGHT Future-Fit Foundation 
出典:https://futurefitbusiness.org/をもとに株式会社ビジネスコンサルタントにて翻訳

同様に、金融の流れも変化しています。日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)が2023年3月に行ったサステナブル投資残高アンケート調査によると、日本のサステナブル投資合計額は約537兆円、総運用資産残高に占める割合は65.3%(前年比+3.4ポイント)になっています。この調査からも従来の大量消費、大量廃棄のビジネスモデルから、社会課題を解決するサステイナビリティ投資へ変化していることがわかります。

出典:サステナブル投資残高調査2023 結果速報https://japansif.com/archives/2757

三つの文脈から本業を問い直し、新たな競争優位性を獲得する

企業は「環境」「テクノロジー」「社会」三つの文脈の観点からビジネスを問い直すことが重要です(図3)。

図3 三つの文脈から本業を問い直し、新たな競争優位性を獲得する

Copyright ©2018 BCon – based on work by FUTURE-FIT FOUNDATION  
出典:https://futurefitbusiness.org/ をもとに株式会社ビジネスコンサルタントにて翻訳

従来の企業中心の事業展開ではなく、前述の社会や環境の変化に焦点を当てた取り組みの中にこそ、新たなチャンスがあります。例えば、IoT(Internet of Things)のテクノロジーは、循環型のサステイナブルビジネスモデルを描く上で必要な技術です。

サステイナビリティを重視することは、ビジネスモデルを見直す上で重要です。環境、テクノロジー、社会という三つの観点を考慮に入れることで、競争において優位性を築き、ビジネスの成功につなげることができます。

理由③働いている人のモチベーションが上がり、仲間に入りたい人が増える

三つ目の理由は、サステイナビリティを軸にすることで働いている人のエンゲージメントにつながり、社外に認知されることで仲間に入りたい人が増えるということです。サステイナビリティをキーワードとした魅力的な会社をつくることは、就職先として選ばれるための重要な要素の一つだと言えます。

働く上で最も重視していることは「社会や人からの感謝」

この点を裏付ける具体的なデータとして、弊社が2011年から12年間にわたり実施している新人社員アンケートの結果を紹介します。このアンケートによると、社会貢献ができるかどうかが、新入社員が職場を選ぶ際の重要な要素であることがわかります(図4)。

図4 2022年度 ㈱ビジネスコンサルタント実施「新入社員アンケート」結果より

このアンケートの中にある「あなたがこの会社(組織)で働く上で最も重視していることは何ですか」という質問は、実質的に「なぜこの会社を選んだのか」という問いです。その問いに対する最も多い回答は「社会や人から感謝されること」でした。長年、同じ回答が続くため、2022年度からは複数選択可能にしましたが、結果は同じでした。自分が取り組んでいる仕事は世の中のためになっているか、他者から感謝されているかを重視していることが分かります。

「2023年度 新入社員アンケート調査結果」

これからを支える世代の「サステイナビリティ」に対する価値観の変化

社員に選んでもらう企業づくりについて考える際に、参考になるアンケートがあります。2022年度に横浜市が行った、環境に対するアンケートです(図5)。

図5 物をレンタルやシェアで利用することについて

出典:「2022 年度 環境に関する市民意識調査の結果(概要)」(横浜市)

アンケート内で「物をレンタルやシェアで利用することについてどのように考えますか」という質問に対し、20歳から29歳までの若者の回答は「すでに利用している」が全体の30.2%と他の年代と比較しても多い結果でした。そこからも若い世代の、サステイナビリティへ関心の高さがうかがえます。

これは、これから就職する世代が持つ新しい価値観です。今後の若手の採用において、企業のサステイナビリティへの貢献メッセージは「刺さる」キーワードとなるのではないでしょうか。

事業の意義や方向性をサステイナブルな観点で社内外に発信できているか

これからは、事業の意義などをサステイナブルな観点で社内外に発信していくことが必要です。次に発信する内容としてMDCVSをご紹介します(図6)。

図6 MDCVS

MDCVSとは組織の持つ上位概念です。M:会社のミッションや使命、D:事業領域であるドメイン、C:大事にしたいことの中核となるコアバリュー、V:向かうべきビジョン、S:ビジョンを実現するためのストラテジー(戦略)を表しています。

サステイナブルな観点で、MDCVSの要素を整えれば、社員は誇れる目的や大きな意義を感じることができます。また、社員の心に火が付き達成感、成長感、充実感を得ることができます。社員が前向きに働くことで、さまざまなアイデアが現場から出てきやすくなります。アイデアを取り入れていくことが創発的戦略であり、それを実現することでイノベーションが促進されます。

ただし、手段や方法論、高い目標を伝えるだけになると、やらされ感や閉塞感につながるため、目的や意義を伝えることが大切です。

2.サステイナビリティに取り組むメリット

弊社が考えるサステイナビリティに取り組むメリットは、以下の五つです。

サステイナビリティに取り組むメリット

1.イノベーションを促進できる

2.マーケットシェアの向上が期待できる

3.コスト削減が実現できる

4.働く人々の生産性向上につながる

5.優秀な人材を採用しやすくなる

次にサステイナビリティを経営に取り入れるステップをご案内します。

3.サステイナビリティを経営に取り入れるための四つのステップ

サステイナビリティを経営に取り入れるための四つのステップをご紹介します。先述したように、サステイナビリティ経営を推進するためにはまずはビジョンを考えることが大切です。

ビジョンから逆算してアクションプランを検討するバックキャスティングの方法で考えていくときの枠組みとなるのが、ABCDプロセスです(図7)。

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図7 サステイナビリティを経営に取り入れるための四つのステップ

ABCDプロセス

ABCDは、各ステップの頭文字からとったものです。文字通りABCDと順に検討を進めます。

①ステップA|Awarenesss

今、サステイナビリティが社会および自社にとって不可欠であることを、まず役員や経営幹部が共通認識をもつ(Awareness:気付く)ことからスタートし、サステイナブルな社会の中で自社の目指す姿(サステイナブルビジョン)を描きます。

②ステップB|Baseline Analysis

組織の現状における課題を検討します。具体的にはサプライチェーン、バリューチェーン、セールスチェーン、そして、販売から廃棄に至るまでの流れを洗い出し、改善方法を考えます。

③ステップC|Creative Solutions

ステップAとBを経て、目指すビジョンを達成するために、どのようなどのような実践が効果的かアイデア出しを行います。

④ステップD|Decide on Priorities

ステップDでは、取り組むべき領域の優先順位を決めてロードマップを作ります。バックキャスティングとフォアキャスティングのアプローチを組み合わせ、労力、人材、資源、資金の配分を検討するミーティングを行うことをお勧めします。現在の事業を考慮し、取り組むべきタスクを明確にし、日常のルーティンワークに取り入れます。

次に組織変革を実際に進めるためのポイントをご案内します。

4.効果的な組織変革 五つのポイント

サステイナビリティを軸にした組織変革を効果的に進めるために重要な五つのポイントは、以下の通りです。

①社長のコミットメント

最初のポイントは、社長が取り組むと決めることです。これは必要不可欠な条件です。特に、サステイナビリティ経営に関しては、今までと違うビジネスの在り方や考え方、ビジネスモデルが変わるなどのインパクトがあるため、これが成功のカギと言えます。

②多様性を持ったプロジェクトチーム編成

二つ目は、多様性を持つプロジェクトチームの編成です。長期的なビジョンや中長期的プロジェクトの立ち上げにおいて、従来よくとられていたのは、特定の階層の人たちから10名~15名選抜するという方法です。例えば、管理職や若手のみで構成するなど、特定の層に絞って検討し、役員陣に提言するのが一般的な流れでした。

しかし、その後の展開や成果、関わる人たちへの影響が最も大きくするのは、さまざまな階層から構成されたプロジェクトチームでした。そのため、多様性を持つチーム編成は組織変革をする上で重要です。

③共通項を見いだす対話のアプローチ

三つ目は対話によるアプローチです。自社の長期ビジョン(サステイナブルビジョン)には明確な答えがありません。そのため、多様な関係性の中での対話が大切です。従来の業務やルーティンワークは、経営層や専門家の指示や伝達によって実現されていました。しかし、サステイナビリティは新しい挑戦のため、さまざまな可能性を引き出していく必要があります。

このため、立場を超えた「対話」が求められます。議論は白黒はっきりさせるものであることに対し、対話は互いの違いから、なりたい姿や共通項を見いだすことが重要です(図8)。

図8 対話

対話の過程では、お互いの気持ちを出し合うと同時に、組織の共通基盤や長期的な視点を持つことも必要になります。自分たちにとってのサステイナビリティを探求していく中で、関係性が育まれ、より良い関係が築けるようになります。

④思考や行動の幅を広げるポジティブ感情

四つ目は、思考や行動の幅を広げるポジティブ感情です。ポジティブ感情を経験すると、思考や行動の幅が一時的に拡大するのだそうです。この概念はアメリカの心理学者バーバラ・フレドリクソンによって提唱された「拡張・形成理論」と呼ばれています。サステイナビリティの取り組みにおいても、ポジティブな感情を喚起し高めるアプローチが重要です(図9)。

図9 ポジティブ感情 拡張・形成理論 バーバラ・フレドリクソン 2001年

喜び、感謝、希望、愛などポジティブな感情は、不安、恐れ、怒りなどのネガティブ感情と対照的です。お互いを認め合い、感謝し、未来への希望を話すことができます。そして、それが受け入れられる経験ができると、思考や行動のレパートリーが増えると言われています。

答えを探すのではなく「お互いの感じていることを受け入れて、共に見いだしていこう」という発想の中では、柔軟性が増し、物事に寛容さが生まれます。そうすると、個人の持っている知的、身体的、社会的資源が促進され、視野が広がって問題に対処できるようになります。

サステイナビリティの取り組み内容を決めたら、ポジティブなエネルギーで、プロジェクトを進める必要があります。そのためには、どのようにポジティブな雰囲気を作り出すかが非常に大切です。

⑤検討プロセス、浸透展開プロセスも形に残す

五つ目は検討プロセスです。多くの企業がSDGsの取り組みをホームページで紹介し、SDGsマークを掲載しています。これだけでも素晴らしいことですが、特に採用の面では、学生たちもSDGsについて学んでいるため、マークを掲載するだけでは企業の取り組みの全貌を伝えるには不十分です。

最近では、サステイナビリティの取り組みの検討プロセスや、職場で実践したことを写真や動画で記録し、オウンドメディアを通じて内外に発信する例が増えています。弊社では、このような取り組みを実現するためのサポートをしています。

企業が取り組みを記録し、社内外に「このように取り組んでいます」と発信することは、その面白さや魅力に引かれた人々が企業に参加したいと感じるきっかけとなります。また、取り組みの発信は採用活動に限らず、取引先に対しても企業の姿勢をアピールする有効な方法です。変革初期から、社内外への発信方法を検討することも、変革をうまく進めるための重要なポイントです。

5.まとめ

サステイナビリティを切り口に組織変革を始めるべき理由やメリット、経営に取り入れるためのステップ、効果的に進めるポイントを解説しました。弊社では、サステイナビリティ実現のための研修やコンサルテーションなどを提供しています。導入をご検討いただく参考になれば幸いです。より詳しい情報や他社の取り組み例などは、弊社ホームページでご紹介させていただいておりますので、ぜひ一度ご覧ください。

レポート作成:株式会社ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局