昨今、多くの企業でエンゲージメントサーベイをはじめとする従業員意識調査、社員満足度調査、360度診断など、さまざまなサーベイを導入しています。一方で、サーベイを取った後、職場や従業員との関わり方の見直しにつながっていないという企業も少なくありません。
人事部門やラインマネジャーがサーベイを取りっぱなしにせず、サーベイ結果を活用して職場に展開するための活用術をご紹介します。
※本ウェビナーレポートは、2022年6月15日に実施した「エンゲージメントサーベイを効果的に活用し、職場を変えていく方法」の内容をまとめたものです。
<登壇者情報>
株式会社ビジネスコンサルタント ゼネラルマネジャー 藤井包起
目次
- サーベイフィードバックの概要と必要性について
・サーベイフィードバックとは
・従業員エンゲージメントが生産性に影響する
・効果的に活用できている組織は少ない
・「義務的」な意識の管理者層を巻き込んでいくことが鍵
・サーベイ結果を活用する目的や方法を見直し、改善する
・「道具」と「場」をデザインし、サーベイフィードバックの機会をつくる
・サーベイフィードバックミーティングで対話する - サーベイ結果を活用した職場開発、対話の促進方法
・職場開発とは
・職場開発の3つのステップに沿って、職場のメンバーと一緒に取り組む
・職場開発の成功への鍵①:人間心理を理解する
・職場開発の成功への鍵②:対話をする
・対話のコツ:プロセスを扱う - まとめ
サーベイフィードバックの概要と必要性について
サーベイフィードバックとは
そもそも、サーベイフィードバックとは何でしょうか。一言で言えば、サーベイ結果を媒体として問題の共有化を図ることです。また、サーベイ結果を活用して組織をより良くすることが目的です。本テーマである「エンゲージメントサーベイを効果的に活用し、職場を変えていく」ためには、サーベイフィードバックを行うことが非常に重要です。
従業員エンゲージメントが生産性に影響する
最近、多くの組織で従業員エンゲージメントを高める取り組みをしています。組織が永続していくためには、短期的な財務的指標を高めていくことだけでなく、非財務的な指標を高めることが重要です。この非財務的な指標の1つが、エンゲージメントです。では、なぜエンゲージメントを高める必要があるのでしょうか。それは、エンゲージメントを高めることが生産性に影響するからです。
米国のギャラップ社の調査では、エンゲージメントの認識が高い上位25%の組織と下位25%の組織を比べると次のような違いがありました。図の通り、エンゲージメントの認識が高い組織の方が、「顧客ロイヤルティ」「収益性」「営業の生産性」「離職率」「安全事故」「品質」において大幅に上回っているという調査結果が出ています。つまり、エンゲージメントを高めることは、組織の非財務価値を高め、将来の財務価値を生み出すことにつながります。このようなことから、近年、エンゲージメントの施策に取り組んだり、エンゲージメントの指標を開示したりしている組織が多くなっています。
効果的に活用できている組織は少ない
これは私たちのコンサルティング経験からですが、サーベイを効果的に活用できている組織は3割、サーベイの効果を実感している組織は1割程度です。多くの組織でサーベイの効果を高めたいという課題をお持ちではないかと思います。
一方、サーベイをうまく活用できない要因は、実にさまざまです。例えば、「経営幹部や人事、企画部だけの活用に終わってしまっている」「管理者に職場の改善策を提出してもらっているものの、実行されていない」「サーベイ結果の数値を高めることを目的にしてしまっている」「サーベイを活用する、管理者の問題認識のレベルに差がある」といったお悩みです。解決の糸口の一つをご案内します。
「義務的」な意識の管理者層を巻き込んでいくことが鍵
図のように、管理者層の変革意識レベルは、どの会社でも「2:6:2」に分かれると言います。サーベイ結果を「主体的」に活用し、自発的に職場の変革に取り組む管理者は、組織全体の2割程です。あまりサーベイ結果に関心がなく、人事部や企画部から改善策の提出を求められたため、取りあえず提出しているような「義務的」な意識の管理者が6割程です。残りの2割が、催促されないと動かない「批判的」な管理者です。サーベイを効果的に活用するためには、この6割に当たる「義務的」な意識の管理者層をいかに巻き込んでいくかが鍵となります。
サーベイ結果を活用する目的や方法を見直し、改善する
ここで、「サーベイ結果の活用事項とそのレベル」についてご紹介します。 図3の横軸は、サーベイ結果を活用する対象者と活用事項(どのように活用しているのか)を記載しています。縦軸は、活用事項のレベルを示しています。サーベイを効果的に活用し、職場だけでなく組織的にエンゲージメントを高めていくために私たちが目指すのは、レベル4です。そのためには、横軸6番目にあるように「エンゲージメント向上事例・秘訣を管理者間で話し合い、相互アドバイス」を行うところまで取り組むことが大切です。しかし、実際は、右図のレベル1、2で終わってしまっている組織が多いようです。では、どのようにすればレベル4に到達できるのでしょうか。そのポイントをご紹介します。
「道具」と「場」をデザインし、サーベイフィードバックの機会をつくる
サーベイを効果的に活用し、エンゲージメントを高めるためには、「道具」を整えて「場」をデザインすることが大切です。エンゲージメントサーベイを取っただけでは職場は変化しません。図4のように、サーベイ結果はあくまでも「道具」の1つであり、変わるきっかけにすぎません。その「道具」を使って、現実を直視し、個々人が捉えている職場の問題を関係者間で共有したとき、職場は変化することができます。つまり、サーベイ結果を媒体として問題の共有化を図る「サーベイフィードバック」の機会(場)をつくることが大切です。
サーベイフィードバックミーティングで対話する
そしてサーベイフィードバックを行う場をサーベイフィードバックミーティングと呼びます。
サーベイフィードバックミーティングの「場」では、サーベイ結果を開示し、その結果の意味や解釈の仕方を伝えて、多くの人を巻き込むことができます。しかし、サーベイフィードバックミーティングの目的を組織の定量分析にとどめてしまうと、成果は上がりづらいものです。対話を進めるツールとしてサーベイ結果を活用することが大切です。
サーベイ結果を活用した職場開発、対話の促進方法
それでは具体的にサーベイフィードバックミーティングをどのように進めていくのか。サーベイ結果をどのように活用していくのか。この章ではその方法についてご紹介します。
職場開発とは
そもそも、サーベイ結果を活用する目的は、職場をより良くすることです。そして、エンゲージメントサーベイの結果を、職場をより良くする目的で活用すれば、従業員のエンゲージメントも高まると考えられます。 職場をより良くする活動のことを、職場開発と言います。もう少し詳しくご案内すると、職場開発とは、組織の最小単位である職場のライン長(管理職)が中心となって、「職場の問題解決」と「プロセス(関係性)」の改善を職場メンバーと自律的・創発的に協働で行うことです。職場開発には基本的な進め方があり、サーベイ結果を効果的に活用する方法も整理されています。その進め方をご案内します。
職場開発の3つのステップに沿って、職場のメンバーと一緒に取り組む
- サーベイ結果を使って「現状の姿」をつかみます。数値の良い悪いだけを見るのでなく、その数値になった意味合いや解釈についてしっかり共有し対話することがポイントです。
- 「将来の希望する姿」を具体的にします。エンゲージメントが高まっている職場はどのような職場か、どのような職場にしていきたいのかを具体的にイメージすることが大切です。そうすることによって、ひまわり効果(向日性効果)のように、個々人が将来の希望する姿に向けてエネルギーを注ぐことができるようになります。
- 「介入(テコ入れ)」、つまり、現状と希望する姿とのギャップを埋める活動を具体的にします。ここでも、数値の低い項目だけを問題と捉えるのではなく、良いものをさらに高めていくという活動を具体化することも大切です。
また、この職場開発の3つのステップを進める上で大切なことは、「職場のメンバーと一緒に取り組むこと」です。そうすることで、メンバーが当事者意識を持って、組織や職場をより良くしていこうという自覚が芽生えます。
職場開発の成功への鍵①:人間心理を理解する
しかし、職場開発の3ステップに沿って、職場メンバーと一緒に取り組んだとしても、なかなか思うように職場開発が進まないことも多くあります。サーベイ結果を活用し、組織変革や職場開発を進めるためには、まず変化に対する人間の心理を理解しておく必要があります。
そもそも人間は、変化や変革を好む生き物か、好まない生き物かどちらでしょうか?
人は、毎日同じものを食べると飽きてしまい、違うものが食べたくなります。そのため、人は本来、変化に対して好意的な存在だと言われています。しかし、組織変革や職場開発という変化を求める施策に対しては、なかなか適応しようとしません。それは、変化そのものではなく、変化の仕方に抵抗感を持つからです。 図に、変革の際、抵抗が生まれやすい諸原因を記載しています。このような人間心理に配慮し、活動を設計する必要があります。
職場開発の成功への鍵②:対話をする
また、変化に対する人間の心理を理解した上で大事になってくるのが「対話」です。職場の話し合いの中で、自分の気持ちをオープンにできることがとても重要です。近年、「心理的安全性」が注目を浴びました。「知らないと発言してはいけないのではないか」「ばかにされるのではないか」など、不安や懸念があるとオープンに発言できません。自由でオープンな雰囲気をつくり、ネガティブなことも言える「場」であることを参加者に思ってもらうことが、「対話」で一番大事なことです。「議論」は、確信に基づく主張や他者を説得することで、速やかな解決や論理による合意形成を目指します。一方、「対話」は、感情の表出を奨励し、仮説を探索します。どちらかでなく、両方必要です。対話は大事ですが、それだけすれば良いわけではありません。長期的な視点で意味を共有し、論理的な納得と共に、気持ちの上での納得を目指します。
対話のコツ:プロセスを扱う
「対話」で扱うのは、話し合った結果や話している内容(コンテント)だけではありません。職場開発では、参加者の気持ちや、参加者の取り組み姿勢(プロセス)などにも気を配る必要があります。このプロセスは、図8にある3つの面から観察すると効果的です。 参画面では、管理者は対話の中で皆が参画できているかを観察する必要があります。何も話していない人には、質問を投げ掛けて巻き込みます。コミュニケーション面では、対話の中で参加者同士がどのような関係性なのかを観察します。雰囲気面では、対話の雰囲気に気を配ります。真剣な雰囲気か、ざっくばらんな雰囲気かは管理者の表情や立ち振る舞いが影響するので、意識する必要があります。
まとめ
このように、サーベイ結果を効果的に活用するためには、サーベイフィードバックミーティングを、職場のメンバーとともに、職場の上長やライン長が中心となって実施することが重要です。そしてサーベイ結果を活用する際は、職場開発の一環として活用することがポイントです。数値の高い低いだけでなく、なぜそのような数値になったのか、その数値をどのように解釈したのかということをお互いに共有し、対話をすることがとても大切です。その際、ぜひプロセスに気を配った進行をしてみましょう。
弊社がご提供するエンゲージメントサーベイは、①事業の将来性②仕事の意義・貢献③自己成長感④上司の支援⑤人間関係⑥多様な働き方⑦処遇の公平感という7分野21項目で構成されています。他社比較はもちろん、「エンゲージメントの高い人材」と「そうではない人材」との数値を比較することもできます。また、部門別、事業部別といった各社に合わせた属性を設定した数値を出すことも可能です。組織のエンゲージメントを高めるきっかけとして活用いただければと思います。
レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局
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