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人事のDX推進に向けたポイントと具体的施策

人的資本経営の実現、戦略的人事、人材のデータ活用等、今、人事部門への期待や役割は大きく変わってきています。実現に向けて目標を掲げたものの、具体的施策に落とし込めていないといったお悩みを多く伺います。本セミナーでは、人事のDX*1を推進・実現するための全体像をお伝えすると共に、具体的な施策にどのように落とし込んでいくのかについて、事例を交えてご案内します。*1 DX:Digital Transformation

※本レポートは、2022年12月15、16日に実施したウェビナー「人事のDX推進に向けたポイントと具体的施策」の内容をまとめたものです。

<登壇者情報>
株式会社ビジネスコンサルタント 
執行役員/ヒューマンキャピタル&サーベイソリューション部長 瀬戸貴士 
デジタルコラボレーションセールスチームリーダー 小西智也 
デジタルコラボレーションセールスチーム 長谷部英寿

人事部門に求められる役割の変化

”人事のDX”というと何を思い浮かべるでしょうか。言葉のイメージから“人事部門の業務効率化”を連想する方も少なくないかもしれません。”人事のDX”への期待を確認すると共に、今の人事部門に求められる役割について考えていきたいと思います。

DXへの期待は、業務改善だけではなく経営課題の解決

昨今、人事部門を取り巻く環境は変化しています。人材市場の変化から、採用や定着率向上に対応すべく、関連業務で忙しくしている担当者の方も多いのではないでしょうか。

また、人事部門の業務範囲は、領域を拡大しています。働き方改革や感染症への対策もそうでしたが、今は人的資本経営への対応の必要性も高まっています。

一方、人員はなかなか増えません。そのため、人事部門は給与・労務・採用・育成といった既存業務の効率化が求められています。そこで、まず取り組まれることが多いのがDXによる業務効率化です。しかし、ややもすると、効率化だけが目的になりがちです。

DXにより既存業務を効率化し、経営課題の解決を進めることこそが、求められています。

今、求められるのは組織変革推進者としての役割

ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授は著書の中で、「かつての人事管理部門が『成すべきこと』を重視してきたのに対して、新しい人材経営部門では『達成すべき成果』に視点を移すべき」と主張しています(図1)。

人事部門に求められる役割の図
図1 人事部門に求められる役割
参考 デイビッド・ウルリッチ 1997 『MBAの人材戦略』 日本能率協会マネジメントセンター P317をもとに㈱ビジネスコンサルタントが作成

提唱されて四半世紀が経過していますが、人材がますます経営にとって重要な存在になっている今、改めて指針となる考え方ではないでしょうか。

タレントマネジメントシステムでできることと活用のポイント

では、どのようにすれば、求められる役割を果たすことができるのでしょうか。その問題解決のためには、タレントマネジメントシステムの活用が効果的です(図2)。

タレントマネジメントシステム活用の全体像の図
図2 タレントマネジメントシステム活用の全体像

特に効果的に活用するために、3つの段階で考えることをお勧めします。

第1段階は「データの一元化」です。効率化によって削減された時間や人手を他で活用するために、見える化をする段階です。

第2段階は「業務の効率化」です。エクセル上の集約作業による業務負荷を、システムで運用することで削減します。生産性の向上を図る段階と言えます。

第3段階は「組織課題の解決」です。データ分析と機能の活用により、戦略上の課題発見と解決をします。人的資本経営の実現を念頭に置きながら、経営戦略の遂行に貢献していく段階です。

ただし、どの段階にあっても、重要なのは経営課題の解決という視点です。特に今日、人的資本経営の推進は、人事のDXを進める大きな目的になり得るのではないでしょうか。

3つの視点と5つの共通要素と7つの問い

人的資本経営の実現について、指針となるのは人材版伊藤レポート2.0です。しかし、「どう進めたらよいのか」という相談もよくいただきます。各企業が推進するときに重要となる「3つの視点と5つの共通要素」について、進めるための観点をご案内します。

「3つの視点」を実現する観点

人材版伊藤レポート2.0では、経営戦略と連動した人材戦略に存在する「3つの視点」と、人材戦略の具体的内容として「5つの共通要素」が示されています。まず「3つの視点」に基づいて、弊社が着目している観点をご紹介します(図3)。

「3つの視点と5つの要素」を踏まえた、取り組みの着眼点の図
図3 「3つの視点と5つの要素」を踏まえた、取り組みの着眼点
参考 人材版伊藤レポート2.0(総務省)をもとに㈱ビジネスコンサルタントが作成 ※URLは文末参照

ポイントは、自社の組織の上位概念が明確かどうかです。視点1で扱う経営戦略は、視点3で扱う企業文化と同じ組織の上位概念です。互いに大いに関わりがあるため、視点3から考え始めることをお勧めします。企業の大事な価値観である企業文化や経営戦略を含めた企業の上位概念を確認した上で、視点1に進みます。

視点3

まず、視点3では、企業文化として定着するために、現在の企業文化と今後必要となる未来の企業文化を明らかにします。経営幹部に次のように質問すると明らかになっていきます。「わが社のミッション、ビジョン、バリュー、パーパスは何ですか」「わが社は何屋ですか」などです。ただ、実際に質問してみると、全員が全く同じ回答をすることはまずありません。組織に長くいる人たちに聞いても回答が違うように、企業文化は捉えることが難しい概念です。企業文化は人に大きく作用するので、組織と人の成長に貢献しているかどうかなどを明らかにします。

視点1

視点1は、経営戦略と人材戦略を連動させるための「人材の見える化」です。どのような役割適性を持った人材が、どの部署、階層に何人いるのか、従来事業を支えているハイパフォーマー人材の特徴は何かを把握します。

視点2

視点2は、人材に関する、現状(As is)とありたい姿(To be)のギャップを把握します。「人材の見える化」で現状とありたい姿とのギャップを定量的に把握します。この視点1と2は、具体的には次の要素1~5の取り組みとなります(図4)。

「5つの共通要素」を実現する観点

「3つの視点と5つの要素」を踏まえた、取り組みの着眼点の図①
「3つの視点と5つの要素」を踏まえた、取り組みの着眼点の図②
図4 「3つの視点と5つの要素」を踏まえた、取り組みの着眼点
参考 人材版伊藤レポート2.0(総務省)をもとに㈱ビジネスコンサルタントが作成 ※URLは文末参照

要素1「動的な人材ポートフォリオ」

共通要素の1~5の中で最も重要なのが、この要素1です。経営戦略上これから必要になる人材と、現段階で組織にいる人材とのギャップを明らかにすることで、経営と人材の戦略上の連動状況を確認できます。

この人材ポートフォリオでは、ロールプロファイルという方法で職務に連動する役割や専門性、コンピテンシーを明らかにします。職務等級制度などの役割定義書や職務記述書とは異なり、ラインがマネジメントできるレベルの行動や能力、スキルを明らかにします。そして、この人材ポートフォリオを採用や配置、異動、サクセッションプランに活用します。

要素2「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」

要素2のキーワードは「多様性はイノベーションを生む」です。人材ポートフォリオを用いてもう一歩踏み込み、新卒一括採用からキャリア採用へのシフト、女性活躍推進の強化や外部組織への出向などに取り組むことです。ワールドカフェやfuture searchなどの組織開発の手法を取り入れるのも効果的です。

要素3「リスキル・学び直し」

要素3では「DX」がキーワードです。戦略的な学習計画と職場ノウハウの蓄積です。このためには、人材開発部門主導のLMS(Learning Management System)にある学習内容と人事部門主導のTMS(Talent Management System)にある学習タイミングが連携されたプラットフォームづくりなどが必要です。

要素4「従業員エンゲージメント」

要素4では、エンゲージメント調査だけでなく、ジョブクラフティング(job crafting)にも取り組むことが求められます。後者は、会社は大好きだけど自分の仕事がマッチしていなくてモチベーションがダウンするケースへの対応です。つまり、従業員自らが作業、人間関係、仕事への認知を見直せる機会や場を提供するのです。

要素5「時間や場所にとらわれない働き方」

要素5では、フレックス制、裁量労働制、テレワーク推進だけでなく、インサイドセールスの立ち上げといった組織構造の変革が必要です。

「7つの問い」で課題を整理する

また、人的資本経営の実現のためにわが社はどのような取り組みが必要か、次の”7つの問い”に答えることで整理ができます(図5)。

わが社の未来:7つの問いの図
図5 わが社の未来:7つの問い

もし、この”7つの問い”に一つでも不安があれば、企業理念、企業の存在意義、そして企業文化の定義について十分に検討する必要があります。

“攻め”の人的資本経営の出発点、人材ポートフォリオ

先述した人材版伊藤レポート2.0「3つの視点」のうちの視点1では「人材の見える化」に取り組みます。そこで活用できる人材傾向分析と背景にある分析モデルをご紹介します。

「人手が足りない」の真相

人は相手のことを見たいようにしか見ないと言います。逆に言えば、見なければいけないことは見えていない。これは私どもが、さまざまな組織で人材傾向分析をご一緒して実感していることでもあります。

例えば「人が足りない」とか「こういった人材が必要だ」といった要望はよく出てきます。しかし、実際に弊社が分析をお手伝いすると、「いない」と言っていた人材は組織にいることがほとんどです。

なぜこのようなことが発生するのでしょうか。例えるなら、サッカー日本代表クラスの人材にサッカーではなく、囲碁をさせているようなものです。つまり、人材の能力・スキルと配置がマッチせず、いないように見えているのです。その要因は多くの場合、人材を適切に見る枠組みが、組織に備わっていないことです。

人材傾向分析データを人的資本経営に活用する

では、どのように人材を見ればよいのでしょうか。弊社では、パフォーマンスは能力・意欲・考え方の掛け合わせであると考えています。これを人材を見る切り口にしています(図6)。

人材を見える化する切り口の図
図6 人材を見える化する切り口

そして、弊社の人材傾向分析はこの「能力」に焦点を当てています。「能力」をコンピテンシーで見える化するので、採用・配置・能力開発に活用できます。

弊社が人的資本経営を支援する際は下図のように、人材傾向分析を出発点として進めます。動的な人材ポートフォリオは、中期経営計画を時間軸として1サイクルとし、プロセスをマネジメントすることで実現します(図7)。

人的資本経営の全社展開の図
図7 人的資本経営の全社展開

人材傾向分析では、弊社の人材モデルを用いて「人材を見える化」します。人材モデル(傾向)は6つあります(詳細はこちら)。この6つのモデルは蓄積されているデータを教師データとして分析をします。これによって人材を客観的に見ることができます。しかし、このような複雑な分析には、タレントマネジメントシステムが必要不可欠です。

システムを活用した具体的イメージ

人材傾向分析を出発点とした弊社の支援概要をご紹介しました。弊社は、分析モデルの提供やコンサルテーション以外にタレントマネジメントシステムの導入や運用も含めてご提案ができます。ここでは弊社が提供している株式会社プラスアルファ・コンサルティングのタレントパレットの概要をご紹介します。

タレントパレットのご紹介

弊社は2019年から、株式会社プラスアルファ・コンサルティングの販売代理店です。販売パートナーとして、機能を共同開発したりウェビナーを共催したりしています。タレントパレットには、多くの機能があります(図8)。

タレントパレットの主な機能 2023年1月現在の図
図8 タレントパレットの主な機能 2023年1月現在

タレントパレットの機能

タレントマネジメントシステム活用の段階に沿って機能をご紹介します。
第1段階である「データの一元化」では、タレントパレット上で画面の顔写真をクリックすれば関係する全ての情報が見られます。インターフェースはシンプルで分かりやすくなっています。

また、第2段階の「業務の効率化」では、タレントパレットの機能を使いながら、業務の簡略化を行います。例えば、フォルダリング機能を使えば健康診断のフォルダに受診率、受診未予約、受診済み、受診結果の提出有無などが簡単に収集できます。

そして、第3段階である「組織課題の解決」では、人材の活用状況を確認できます。例えば、分析モデルやコンピテンシーと人事データ(業績、役職、部門などの属性)を掛け合わせて見るなどです。個人でも分析結果を閲覧でき、啓発が必要な項目を確認したり、対応する学習プログラムの学習を進めたりできます。

まとめ

社会環境の変化により、人事部門が担う主要役割のバランスが変わりつつあります。人材がますます経営にとって重要になっているため、経営視点を持って組織変革を推進する役割へ期待が高まっているのではないでしょうか。役割を発揮するためにはDX、とくにタレントマネジメントシステムの活用が効果的な手段です。システムの活用を経営課題に位置付けること、特に人的資本経営の実現を念頭に置いて進めることが重要です。

一方、実際には、システム導入や人的資本経営に取り組むべき理由は組織ごとに異なります。人的資本経営を進行する観点もご紹介しましたが、自社の経営課題に対して、人事としてどのように解決に取り組むか、どのようにシステムを活用するか整理することが重要です。もしご不明な点がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

参考(図3,4)
人材版伊藤レポート2.0(総務省)を基に㈱ビジネスコンサルタントが作成https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220513001/20220513001.html

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レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局

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