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浸透・定着施策であるコンプライアンス研修のトレンド

弊社のコンプライアンス分野における実績は約20年間で800組織を超えます。本レポートでは社内への浸透・徹底を促す施策である「コンプライアンス研修」のトレンドについてご紹介します。

*本レポートは2022年10月20日に実施したウェビナー「浸透・定着施策であるコンプライアンス研修のトレンド」の一部をまとめたものです。

<登壇者情報>
株式会社ビジネスコンサルタント
コーディネーターコンサルタント 岡部 寿也

2022年9月26日に実施したウェビナー(800組織以上の実績からひもとく コンプライアンス施策の「今まで」と「これから」)では、コンプライアンス活動の変遷と最近の傾向を取り上げました。(詳しい内容はこちら)

コンプライアンス活動は、「不祥事防止・法令遵守」というハード面のアプローチではなく、「相手・社会の期待・要請に応える」というソフト面のアプローチが、最近の焦点になっています。

コンプライアンス違反を防ぐ効果的なアプローチとして、コンプライアンス研修があります。効果的な研修を考えるために、まずどのような職場がコンプライアンス違反を生みやすいのかをご案内します。

コンプライアンス違反を生みやすい職場の特徴

弊社はこの20年間で、不祥事が起きた現場に対する再発防止教育としてさまざまな取り組みをご支援しています。事案内容はさまざまですが、一体なぜ事象が起こったのかをお客さまにお伺いして、わかってきたことがあります。内容を問わず不祥事を起こす現場には、共通した特徴がありました(図1)。

コンプライアンス違反を生みやすい職場の特徴の図
図1 コンプライアンス違反を生みやすい職場の特徴

それぞれどのような特徴なのか、一つずつ確認していきます。

1.業績・利益や効率優先の考え方が過度に強い

ここ最近を振り返ると、データ改ざんや品質偽装、粉飾決算など、組織ぐるみの違反が露見して大きな社会問題になっている事例が多くあります。これは皆さんもご認識のことと思います。違反を起こした組織は、特定の事業部や部門、会社などさまざまです。

しかし、いずれのケースでも高いプレッシャーが、我慢できない程のストレスになったことが原因です。納期や品質のために、自組織の都合で判断し、物事を合理化し、どんどん視野が狭くなっていく。「やむを得ない」と追い込まれ、一線を越えてしまった、ということです。

2.相互けん制が働かない

「実は、違反に気付いていたんですよね」
弊社は再発防止教育の中で、研修の講師を担当することも多いです。研修講師の仕事では、多くのお客さまと会う機会があります。その際、研修の休憩時間に、冒頭のようなお話が伺うことがあります。

「声を上げたんですか?」「注意しましたか?」と聞くのですが、当該部門や本人に対しては注意をしていないという方がほとんどです。このように、コンプライアンス違反があっても見て見ぬふりをする、相互けん制が弱くなっているという要因もあります。

相互けん制が働かない理由として、仕事の属人化が考えられます。長く同じ部門に勤務する担当者に対して、他者からのチェックが入っていなかったということです。組織によっては少数精鋭で運営していて、代わりが効かないというケースがあります。その対策として、ジョブローテーションは有効です。

3.上司部下の信頼関係の欠如、コミュニケーションの悪さ

直属の上司や管理職が現場に対して対面でフォローや声掛け、聞き取りを行っている職場では、違反が出ていないという実感があります。

コミュニケーションの手段がほとんどメールやチャットなど、活字のみのやり取りに陥ってしまっている職場は違反を犯す危険性が高いです。実際にミスや事故も多く、コンプライアンス違反もよく出るという実感があります。

4.個人のコンプライアンス意識、使命感の薄さ

組織には、仕事にやりがいが持てない、モチベーションが下がっている社員がいることもあります。さまざまな理由から、やらされ感で仕事をしているという状態です。

このような状態にはリスクがあります。「気付いていたけれど、私には関係ない」「どうせ報告しても聞いてくれない」という気持ちや、何のためにこの仕事をやらされているのか分からないといった捨て鉢な気持ちになり、自ら違反に手を染めてしまうというケースもあります。

総じて、ポイントとしては、コンプライアンスに関する知識が職場や社員に無かった、または仕組みが無かったということが原因ではないということです。

上記の4項目の中で、自組織に当てはまるものはあるでしょうか。万が一、当てはまるものがある場合は、今後、コンプライアンス違反につながる可能性があります。ハード面の整備やチェックが厳しく行われていても、上述のようなことが原因で違反が起きてしまいます。

そのため、「コンプライアンス違反を生みやすい職場の特徴」を意識して、研修の設計をすることをお勧めします。

コンプライアンス研修の今までとこれから

それでは、これからのコンプライアンス研修の内容は、どのように考えればよいのでしょうか。検討するにあたり、コンプライアンスの導入期・展開期、そして変革期・定着期の各時期課題・研修内容・活動の焦点をまとめました(図2)。

コンプライアンス研修の今までとこれから
導入期・展開期→変革・定着期の図
図2 コンプライアンス研修の今までとこれから

取り組みの課題と活動の焦点

まず、各時期の取り組みの課題についてご紹介します。
導入期・展開期は、不祥事防止や法令遵守の発想でした。体制の立ち上げ、マニュアル作り、ヘルプラインの設置などを運用し、チェックの強化、内部統制の厳格化などに重点を置きました。

しかし、これらを実践してきたコンプライアンス部門が、変革・定着期においては重点課題を変えています。健全な職場風土の形成、コミュニケーションの活性化、職場の問題解決能力の向上、マネジメントや個人の在り方の見直しなどに重点を置いています。

活動の焦点は、ハード面を整備し運用しながら、ソフト面の充実へシフトしていくことです。これからは、組織風土、コミュニケーション、マネジメントの改善など、ライン主導の取り組みが中心になっていきます。

今後のコンプライアンス研修の内容を考える

コンプライアンス研修の内容は、どのような変遷があるのでしょうか。今までは、法令等の知識付与が外せないポイントでした。つまりインプットが求められたので、一方的な講義形式の研修やeラーニングがよく用いられました。または随時、法改正があったタイミングで注意喚起をするという方法で徹底することもできました。

ただ、変革・定着期においては、同じ内容で成果を上げることは難しくなってきました。なぜなら、違反の原因が変容しているからです。実際、企業で行うコンプライアンス研修の内容は変わってきています。

職場風土やコミュニケーションの在り方をテーマにする、双方向の参加型スタイルを狙う、部門を超えたコミュニケーションの機会をつくる、などが最近のトレンドです。参加者の方々からは、「他部門と意見交換できたことがとても良かった」いう声が共通して挙がってきています。また、これらの声を受けて、研修の事務局からは、さらに「動機づけや気付きの機会の場にしていきたい」というご要望をよく受けます。

ここからは、実際にコンプライアンス研修を設計するために押さえておきたいポイントについて、もう少し細かく見ていきましょう。

コンプライアンス研修を設計するポイント

研修を設計するポイントは二つあります。一つは「コンテントとプロセス」です。もう一つは「2つの学習アプローチ」です。順にご案内します。

コンテントとプロセス

弊社は全国、および海外でも研修の仕事を数多く手掛けています。ここ1~2年を振り返り、コンプライアンス研修の内容を改めて点検、分析してみると、以下のような内容を取り扱っていることがわかりました(図3)。

コンテントとプロセスを表した図
図3 コンプライアンス研修を設計するポイント

研修を設計するポイントとして、まず「コンテント」と「プロセス」についてご説明します。コンテントとは、知らなくてはいけないことです。業種や業界で必要な法令や、改正された法令の周知などは必須という現実があります。管理者向けであっても一般社員向けであってもそのような話題を取り扱います。ただ、それだけではなかなか実効性が上がりません。そのため、プロセス、つまりマネジメントやコミュニケーションの話題も取り扱っています。

コンテントとプロセス、どちらかだけでなく両方の良いバランスでカリキュラムを組み立て実行することが効果的です。それにより、知識が深まり、具体的に職場をどのようにマネジメントする必要があるのかなど、違反を生みやすい職場の原因にリーチできる内容になります。

2つの学習アプローチ

研修を設計するもう一つのポイントは二つの学習アプローチです。一人一人が職場でコンプライアンスを実践・定着するためには、二つの学習アプローチで研修を設計する発想が大切です(図4)。

2つの学習アプローチの図
図4 2つの学習アプローチ

弊社がコンプライアンス研修で焦点を当てているのは「複雑で曖昧な状況下で、どのような判断をするべきか」ということです。判断力は単なる知識では磨けません。そのため、ケースのディスカッションや実習、自己判断を盛り込み、振り返りや相互フィードバックなど、いろいろな技法を活用しています。How to do(活動思考)も大事ですが、How to be(内省思考)も併せて両面から探求していきます。

How to do

How to doはどのように行うか、ということです。知識・技術・手法・テクニックを身に付けて、新たな行動を取るきっかけをつかむことを目的としています。コンプライアンス実践はどのようにすればうまくいくのか、どのような方法が正しいのか、また、コミュニケーションの技法なども含まれています。How to doでは、知識のインプットが大きなウエートを占めています。

How to be

一方でHow to be は、どうあるか、です。職場においてなぜそのような行動を取ってしまうのか、なぜそのようなことにこだわるのか、何を思い込んでいるのかなど、気持ちの部分にフォーカスします。業界慣習や会社の歴史などのメンタルモデルが影響して、発想として身に付いてしまっている場合、そこ自体を内省しないとなかなか行動変容がすることができません。

それでは、これらのポイントをどのように研修へ組み込めばよいのでしょうか。

コンプライアンス研修の事例

弊社では、お客さまのさまざまな要望にお応えしながら、コンプライアンス研修を実施しております。そこで、具体的にどのような研修内容にすればよいのか、参考として一例をご紹介します。

実施形式

これまでの弊社の実績では、研修の所要時間は1回あたり1.5時間~7時間です。7時間は1日研修ということで、9時~17時ぐらいで企画するパターンが多いです。短時間の研修では、1.5時間の講演会形式もあります。

しかし、おすすめは一方的に話を聞くだけでなく、実習を行う参加形式です。参加者の声を聞くと、参加形式の方がより自分事として捉えやすい実感があります。また、コロナ以降、数としてはオンラインで実施しているケースが圧倒的に多いという実感があります。

プログラム例

以下は管理者向け研修のタイムスケジュールとして、実際ご要望の多い内容例です。標準日数は半日~2日とありますが、実際には研修を半日~1日で実施するケースが多いです(図5)。

プログラム例の図
図5 コンプライアンス研修のプログラム例

1日の流れをご案内しましょう。

オリエンテーションで全体像について講義をします。「コンプライアンス違反を生みやすい職場の特徴」にも触れます。その後に自己診断、価値観記入へと続きます。ケースの学習にはかなり時間をかけます。昼食後はケースの解説、そして午前中に取った診断の集計と分析について深掘りをします。違反の原因究明、再発防止、違反予防のポイントへと続きます。

ケースの学習は具体性があり、価値があるものです。しかし、自分事にするためには自分の職場に当てはめる、管理者の役割について考えるなどの職場への落とし込みがとても大事です。

そのために、午後の後半では、弊社が考える「コンプライアンス実践における管理者の役割」を活用します。日ごろの自分自身の管理者行動を点検し、相互コンサルテーションに取り組みます。このように多くの時間を実習に使うことで自分事になっていき、研修の効果が高まると考えています。

実習中心のカリキュラムは、オンラインでも実施可能です。その場合は参加者アンケートを研修中に採り、集計してグラフで見せる、途中で動画を挿入するなど、さまざまな手法で参加者に熱心に取り組んでもらえる内容にすることも大切です。

まとめ

コンプライアンスの徹底が、知識のインプットだけでは難しくなってきています。違反の原因が、コンプライアンスに関する知識や仕組みが無いから、ということではなくなってきているからです。職場にある価値観やコミュニケーションの状況こそ、違反に関係してきています。コンプライアンス研修も、一方的な講義形式でなく双方向性を持った内容へのニーズが高まっています。

ただし、研修内容は自組織の状況に合っていることが効果を上げる前提です。まず、「違反を生みやすい職場の特徴」をチェックリストにして、自組織の職場について考えていただくとよいのではないでしょうか。

ご不明な点やお困りのことがあれば、お気軽にお問い合わせください。本レポートが、今後、コンプライアンス研修を企画する一助となれば幸いです。

レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局

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ウェビナーレポート
800組織以上の実績からひもとく コンプライアンス施策の「今まで」と「これから」