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800組織以上の実績からひもとく コンプライアンス施策の「今まで」と「これから」

弊社では800組織以上を対象に、コンプライアンス推進のテーマにおけるコンサルティングや研修を実施してきました。本セミナーではその経験から「今まで」と「これから」の施策についてひもといていきます。

※本ウェビナーレポートは、2022年9月26日に実施した『800組織以上の実績からひもとく コンプライアンス施策の「今まで」と「これから」』の一部をまとめたものです。

<登壇者情報>
株式会社ビジネスコンサルタント
コーディネーターコンサルタント 岡部 寿也 

コンプライアンス活動に関する企業の困り事

弊社がコンプライアンス領域において、ご支援を始めたのが2000年。それ以来、800を超える組織のご支援をして参りました。まずは現在、お客さまとやりとりをする中で聞こえてくる困り事をまとめました。自組織ではどのように捉えているか照らし合わせながらご覧ください。

コンプライアンス活動に関する企業の困り事(外部)

まず、外部のコンプライアンス企業に関するお困り事をご案内します。

コンプライアンス活動に関する企業の困り事(外部)
・法改正への対応
・エンゲージメント、心理的安全性、インテグリティ―との関連
・コーポレートガバナンス、人的資本経営への対応
・サステイナブル経営、SDGs、ESGsとの関連
・目的や活動のアップデート

法改正への対応

一つ目は法改正への対応です。法律に準拠して、社内でどのように周知していくかということです。ここしばらくは、パワハラ防止法(※)の施行に対して、教育や仕組みの整備の取り組みが多いです。直近では、公益通報者保護法がより厳しく改正され、それに対応した研修を実施したいというご相談も受けています。
(※)正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」

エンゲージメント、心理的安全性、インテグリティーとの関連

エンゲージメント、心理的安全性、インテグリティーも今後押さえておくべきテーマです。コンプライアンス推進を考える上で、外せない関連テーマになってきています。個々人に対してどのようにアプローチしていくのか、職場風土にどのように介入をしていくかを考えていくことになります。

取り組みの要請元はさまざまです。全般的な話では経団連(※)を初め、経済団体からの場合もあります。また、業種によっては、監督官庁からこの話題が出てくることもあります。社内であれば他部門、グループ経営は、親会社というケースもあります。
(※)一般社団法人 日本経済団体連合会

コーポレートガバナンス、人的資本への対応

コーポレートガバナンスコードの中で、コンプライアンス経営をどのように実現していくかも考えていく必要があります。そして人的資本経営も同様ですが、実践したコンプライアンス活動の取り組みをどのように情報開示していくか考えていくことが重要です。

サステイナブル経営、SDGs、ESGとの関連

サステイナブル経営、SDGs、ESGはコーポレートガバナンスコードの文脈からは将来に向けてのリスク管理という言い方もできるでしょう。そして、それが将来のリスク管理だとすれば、現在のリスク管理の焦点は、コンプライアンスという解釈ができます。SDGs、コンプライアンスそれぞれの部署がバラバラに取り組んでいると、整合性を取ることができません。例えば、人権問題などさまざまな要素が共通事項として入っていますので、一緒に考えていくことが大切です。

目的や活動のアップデート

今後の活動を考えたときに、さまざまな面でアップデートをする必要があるという話をお客さまから伺います。例えば、コンプライアンスに取り組む目的や、活動の年間スケジュールの考え直しが挙げられます。それらをアップデートしなければ、今後の対応が難しくなります。

コンプライアンス活動に関する企業の困り事(内部)

続いて、組織の内部に目を向けたときのお悩みを挙げていきます。

コンプライアンス活動に関する企業の困り事(内部)
・仕事の形態、価値観の変化
・活動のマンネリ感の払拭
・低減しないコンプライアンス違反
・効果の測定
・管理者の自分事化
・目的、活動の再定義

仕事の形態、価値観の変化

業種や職種にもよりますが、テレワークが増え、一人で仕事をする機会が増えています。その結果、会社や仕事に対する考え方が変化したり、帰属意識が薄れたりと、企業観、仕事観が変化しています。そのような中、どのようにコンプライアンス活動を進めていけばいいのかを考えている組織が増えています。これまでの延長線上の活動では対応が難しくなっています。

活動のマンネリ感の払拭

年間スケジュールで、企業倫理月間のように毎年恒例の行事を実施するのはよいことではあります。しかし、実施することが目的になっていることも多いです。このような問題に対して、弊社としては研修を受講する社員の皆さまはあまり気にしていないという実感はあります。しかし、企画・実施している担当部門の方が、代わり映えない内容に問題に認識を持ち、このままでよいのかと見直しを検討されています。同様に、コンプライアンス委員会も毎年決まった実施をしているが、このままでよいのかという話題は多くあります。

減らないコンプライアンス違反

コンプライアンス事案が無くならず、困っている会社が多いです。弊社の実感ベースですが、「コンプライアンス違反0」や、「違反の撲滅」など強い言葉でメッセージを出したにも関わらず、なかなか違反は減らないという現実もあります。

効果の測定

どのように効果の測定をするのかお悩みの組織は多いです。一つはコンプライアンス違反、事象、通報事案がどれほど減少したかは測定指標として見ていく必要があります。しかし、施策の効き目がどれほどあったのかが測れていないため、次の施策の検討が難しくなっています。コンプライアンスの意識調査などで指標が測れるとよいのですが、なかなか測れず困っている企業も多い実感があります。

管理者の自分事化

部門のライン管理者の「他人事」にしていては施策の実行は不十分です。日常業務の中に施策が組み込まれ、当たり前にできている状態をつくることが大切です。そのためには管理者に施策を「自分事化」してもらうことが大切です。活動を担当部署任せにしたり、社内のコンプライアンス違反の事象を横展開で情報共有されても「うちの部門は大丈夫だ」と人ごとにしたりすることが多いです。

目的・活動の再定義

外部に対する困り事と同様に、社内を見つめてみてもこのままの活動でいいのかを見直して活動を修正する必要があります。

コンプライアンス活動の変遷

ここ20年余りで、コンプライアンス活動推進への企業の取り組み方は、随分様変わりしています。大きなトレンドを「~期」という呼び方で段階に分けてご案内いたします。自組織がどのような段階にあるのかつかむことができ、活動のご参考になるのではないでしょうか。

コンプライアンス活動の変遷の図
図1 コンプライアンス活動の変遷(どのようなことに取り組んできたのか)

導入期(2000年~2003年頃)

弊社の支援実績から導入期は西暦2000年から2003年頃と考えています。導入期はコンプライアンス体制の立ち上げ、倫理行動基準の策定・公布、キックオフセミナーの三つが主要な取り組みでした。導入期は、経団連や、経済団体からの要請があり、各組織で計画を立てて推進体制をつくっていました。取り組みのきっかけは、他組織の不祥事を見て、危機感を持ったという話が圧倒的に多いです。コンプライアンスの型を作らなければならないと取り組み始めたのが導入期でした。

展開期(2003年~2004年頃)

2003年~2004年頃を展開期と弊社は呼んでいます。世間ではCSRや内部統制という言葉を使い始めた頃です。内部統制の例が分かりやすいと思いますが、より細かく組織が社員を統制するようになり、チェックが増大したのが展開期の特徴です。周囲の要請もあり、厳重な仕組みで運用しステークホルダーに説明しながら迷惑を掛けないように取り組んでいた段階です。

図1の下方に導入期・展開期(ハード面のアプローチ)と記載しています。この導入期と展開期の活動の焦点は仕組み作りです。社員に対して活動していることをメッセージするために、体制や仕組みを作って運用していました。それに内部統制も加わり、かなり厳重に取り組んでいた段階です。まず体制をつくる必要があるので、多くの組織ではスタッフ主導で進めざるを得ませんでした。

ただ、これまできめ細かくさまざまな仕組みを作り運用してきた組織が、実際にコンプライアンス違反を撲滅できたかと言うとそうではありません。そのため、このような方法だけでいいのか、という問題意識がここに来て出てきました。

このような背景もあり、 導入期・展開期の「不祥事防止・法令遵守」というハード面のアプローチではなく、変革・定着期の「相手・社会の期待・要請に応える」というソフト面のアプローチが、最近の焦点になっていきます。

変革・定着期(2015年頃~現在)

変革・定着期の特徴は、ハードの運用とソフト面の充実です。法務・コンプライアンス部門から、コミュニケーションを活性化させたい、問題解決力を向上させたいというご相談が増えています。

また、ラインマネジメントの現場力、ライン管理者の自分事化もとても重要なテーマになってきました。個々人の持つセルフエスティーム(自尊心)の向上も重要です。なぜ重要かというと、セルフエスティームの向上するアプローチが違反の低減にとても効き目があることも分かってきたためです。

組織のさまざまな問題

海に浮かぶ氷山のモデルを使って組織のさまざまな問題を考えていきます(図2)。

組織の様々な問題を表した図
図2 組織内のさまざまな問題

見えやすい問題

青線(海面)の上にある部分が、見えやすい問題です。コンプライアンス事案、ハラスメントの通報、事故・品質不良などの重大インシデントは見えやすい問題です。

見えにくい問題

見えやすい問題の原因究明をするために、図2の海面の下にある問題を見てみます。例えば社員の遅刻、欠勤が増えているとしましょう。こちらは何かの兆候とも捉えることができます。対人関係がギスギスしている、従って悪い情報が上がってきていないなどです。心理的安全性がないために、お互いにフィードバックすることができないので、けん制機能が働かない。信頼関係がない。そして、数字面で過度のプレッシャーを抱えて風通しが悪くなる。働きがいや生きがいを感じることができない。問題やお互いのことに無関心になる。

このような問題は、仕組みでは統制できず、見えないことが多いものです。図2の海中で深くなればなるほど問題発見がしにくなります。
  
これは各組織の原因究明のプロジェクトからも聞くことですが、ソフト面のアプローチが必要な職場は、この深い部分に起因してさまざまな問題が連鎖して発生しているということが多くあります。

目に見える問題に対処するアプローチだけではなく、深い部分まで踏まえた対処が必要です。それをどのように企画に取り込んでいくかが変革定着期において、コンプライアンス部門の腕の見せどころです。 

コンプライアンス違反を予防するポイント

社会心理学の著名な研究者であり、コンプライアンスの意識調査などでも弊社が提携している岡本浩一教授(※)の研究成果をご紹介します。違反を予防するポイントを社会心理学の面から研究し、特定されたものです。その話題に入る前に、まずは以下図の左側をご覧ください(図3)。

(※)東洋英和女学院大学教授 文部科学省主導の不祥事予防研究のリーダーを務め、組織風土による違反防止等の研究に従事

個人的違反、組織的違反を表した図
岡本浩一氏(独)科学技術振興機構社会技術研究開発センター
社会心理学研究グループリーダー平成13年~16年より

図3 コンプライアンス違反を予防するポイント

コンプライアンス違反には個人的な違反と組織的な違反の二つがあります。タイプが異なると対処も異なるという有名な考え方です。どのようなことで違反が出やすかったり、出にくかったりするのか四つの切り口があります。

個人的要因

自尊心、組織・ブランドに対する誇りなどが下がってしまうと、違反に手を染めやすくなります。職業的自尊心は、平たく表現すると仕事に対するやりがい、充実感など自分の仕事に対して誇りが持てるかということです。最近の言葉を使うと、エンゲージメントを高めるという言い方になります。
 
個人的要因がまず予防ポイントを考える上でのスタートラインになります。

マネジメントの納得性

直属上司との人間関係が一人一人のやりがいや充実感に大きく作用していることが一般的に分かっています。従って、上司との人間関係を良好にすることが、違反を予防するという観点で大切です。ここではマネジメントの納得性と記載していますが、部下からの視点では受けているマネジメントに納得感があるかどうかと考えてください。

また、現場では操作することは難しいかもしれませんが、給与に対する満足度もマネジメントの納得性に影響してきます。

次に、負担というのは、仕事に対しての高負担を指しています。精神的な負担もあれば、業務量的な負担もあります。業務量を納得しない状態で増やされたときに、このくらいであれば手を抜いて構わないかとか、違反しても構わない、ということも現実にあります。

コンプライアンス活動の現状認知

コンプライアンスツールの浸透度ですが、皆さまの組織でもコンプライアンスのハンドブック、簡易版のカードやポスターやなどでコンプライアンスの周知徹底をされていると思います。そのようなツールがどれくらい浸透しているか、社員の目線でどれぐらい触れる機会があるかということです。

しかし、ツールを配っているだけ、壁にポスターを貼っているだけでは浸透しません。ツールを活用して話し合う機会があるかどうかの調査をすると、話し合う機会がある職場では違反の発生が少ないことが分かっています。逆に話し合うことがあまりない職場は、違反やコンプライアンス上の気になるようなことがある、という回答が多くなりします。

処分の厳しさは、コンプライアンス違反を起こしやすい文化の醸成に影響します。例えば、権限がある方がコンプライアンス違反をした際に、適切な処分が下りればさらなるコンプライアンス違反を食い止める可能性があります。

組織風土

組織風土に対してどのように対処をしていくかが、コンプライアンスの取り組みを企画立案する上でとても大事になります。命令系統明確性の風土から現場主導の風土というのは、違反を抑制する風土と言われています。命令系統明確性の風土は、指示命令系統がはっきりしています。例えば、報告連絡相談ができている。マニュアルが絶えずブラッシュアップされている。という分かりやすい風土を指しています。これは個人違反も組織違反も出にくい風土と言えます。

前向き挑戦的な風土、独自性重視現場主導の風土はコンプライアンス違反とはあまり関係ないように見えます。しかし、個人的要因の職業的自尊心に因果関係があることが分かっています。前向き挑戦的風土、独自性重視現場主導という風土を醸成すると、一人一人のやりがい、充実感が高まって結果として違反をしない風土ができます。

属人的な組織風土、過度な成果主義的な風土は違反のタイプで行くと、組織ぐるみの違反を起こしやすくなることが研究で分かっています。属人的組織風土は、岡本先生の研究の肝であるとわれわれは認識しています。

一言で言うと、トップダウンが強い、物事の判断基準が内容ではなく、誰が言ったかが大きなウエイトを占める場合に属人的組織風土の要素が強いです。上司が言うことは絶対に逆らうことはできないという風土が強いと、組織ぐるみの違反が出やすくなります。

過度な成果主義とは業績や納期、利益のプレッシャーが強過ぎると違反してでも成し遂げなければならない。このような意識が強くなり違反が起きます。

まとめ

コンプライアンス活動はハードアプローチとソフトアプローチの両方をバランスよく取り組むことが重要です。そのためにはコンプライアンスの定義を幅広く捉え他部門とも連動し、現場の管理職が自分事として取り組みをしていくことが必要です。自組織の本質的な課題を認識し、正しいアプローチをするために本記事が少しでもお役に立てますと幸いです。

レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局