人的資本経営が注目される中、組織としてキャリア自律に対し、正しい理解の促進が求められています。本ウェビナーでは、以下のようなお悩みにお答えします。
- 「キャリア」という概念に対して、社内での理解に違いがあり過ぎる
- キャリアの話題を管理職が扱いにくいものと捉えてしまっている
- 「キャリア自律」という言葉だけが先行してしまい「離職が進むのではないか」という見方をする管理職がいる
一人一人のキャリア自律と組織の成長を両立させていくために必要なことは何なのでしょうか。組織として取り組む施策だけでなく、上司と部下それぞれが日々何に取り組むと効果的なのかについてご紹介します。
※本ウェビナーレポートは、2022年11月29日に実施したウェビナーの内容をまとめたものです。
<登壇者情報> 株式会社ビジネスコンサルタント コーディネーターコンサルタント 土橋 るみ
目次
意外と知らない「キャリア」の定義
今、「キャリア」という言葉は、さまざまな文脈からよく聞く言葉になっています。弊社が組織のキャリア自律推進をご支援する中で感じるのが、この「キャリア」という言葉の捉え方の幅広さです。これが組織の取り組みの中で、ボタンの掛け違いとなると、大きな障壁として作用してくることもあります。まずは今どのように「キャリア」を捉えるべきなのかを考えていきます。
「キャリア」の本来の意味合いは「前に進むこと」
「キャリア」という言葉に、どのようなイメージを持つでしょうか。以前は、キャリアアップのように「偉くなる」「出世する」「垂直的に上に上がっていく」というイメージを持つ方が多くいました。このようなイメージは仕事が人生そのもの、一社で定年まで働くという従来の働き方を反映しています。
キャリアの語源は、フランス語の”carriere”(競馬場)、イタリア語の”carrier”(馬車)等と言われています。いわゆる車輪があって動くものです。現代では”car”(車)に当たるでしょうか。また、中世のヨーロッパでは走る道、公道を意味していました。そして人がたどる道、その軌跡、遍歴を意味するようになったと言われています。
このような語源からキャリアとは、自分がたどってきた道のりに残る”轍”を意味します。過去から現在につながる経験、得てきたこと全てです。そして、現在から未来に向けての展望とも言えます。
つまり、本来のキャリアという言葉の中には上がっていく(UP)という概念はありません。前に進むということを意味しています。
キャリアに関する前提の変化とその潮流
キャリアの捉え方は時代と共に変遷しています。キャリアを捉える前提も変化しています(図1)。
従来、キャリアは組織が用意するものでした。近年は、自律的に個人が探索するものになっています。
また、メンバーシップ型雇用から近年では複線型、横、斜めに進むジョブ型が主流になりつつあります。報酬も昇格・昇進による金銭的な外的報酬だけではなく、心理的幸福(Well-Being)のバランスも求められています。それに伴い、社内だけではなく社外とのつながりも重視されています。
また、キャリアに対する個人の認識も変わっています。2017年にリンダ・グラットン著書の”ライフ・シフト”(東洋経済新報社)がベストセラーになりました。書籍では主に次の2点がメッセージされていました。1点目は、多様なステージへの移行可能性があるため主体性が重要だということ。2点目は、金銭的な有形資産と経験、知識、人的ネットワーク等の見えない資産とのバランスが重要だということです。この書籍は、今もあらゆる世代から圧倒的な支持を得ています。
人生を前に進める努力のプロセスがキャリア・オーナーシップ
2017年は、経済産業省で「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」が立ち上がった年でもあります。設立目的は「人生100年時代」を踏まえ、社会全体として人材の最適配置の実現を検討することです。この研究会の2018年度の報告書ではアクションプランが提示されています。この中で「個人」である働き手の課題で”キャリア・オーナーシップ”が言及されています(図2)。
引用:経済産業省「我が国産業における人材強化に向けた研究会」報告書 2018年https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20180319001_1.pdf
報告書では、人生100年時代に必要な能力開発をパソコンの基盤である「OS」と「アプリ」に例えています。この「OS」にキャリア・オーナーシップ”を位置付けています。一人一人が納得のいくキャリアを築くために、自律的に行動することが重視されています。
キャリア自律を促進する「カギ」とは
では、働く個人がキャリア・オーナーシップを持つために、組織としては何をすべきなのでしょうか。ここからは、キャリア自律を促進していく具体論についてご案内していきます。
従業員エンゲージメントを高める必要性
2022年4月~9月に弊社でエンゲージメントサーベイを約50社、1万6000人に実施しました。その結果、全21項目中最も低い数値で否定的な反応を示したのが、将来キャリアに関する質問「自分の組織の中で、将来のキャリアを明確に描けていますか」でした。
このことから、キャリア自律を推進するためには、個人に対してエンゲージメントを高めるアプローチをしつつ、キャリアを描く働き掛けを周囲が行う必要性が考えられます。
必要と考える理由の一つは、働く個人の力だけでは組織の中でキャリアが描けないと考えられること。もう一つは、キャリア・オーナーシップを持っている社員は、組織にエンゲージメントを感じていないと、組織を離れてしまう可能性があることです。
三位一体こそキャリア自律のカギ
そこで、弊社の考えるキャリア自律のポイントは、組織・上司・部下(本人)の三位一体です(図3)。
組織が、部下(本人)に対して組織として求めることをメッセージしたり、キャリア教育の機会を提供したりする話は、よく耳にします。しかし、個人から上がってきた自己申告に対して組織から反応がない、遂行がなされないということもよく聞きます。実際に遂行していくためには、個々人の意向をどのように上げていくか考えたり、調整したりするために上司の力が必要になるのではないでしょうか。
上司が調整役として機能することにより、組織内でのキャリア実現の可能性が高まります。そのため、本人と組織が一体となるだけでなく、本人と組織、そして上司が三位一体となって進める必要があると考えます。
三位一体には三つの溝がある
しかし、弊社はこれまでのご支援経験から、この三位一体には、三つの溝があると考えています(図4)。
1、組織と上司の溝
キャリア自律の促進において、上司が何を担うのか明確でないケースが多いです。1on1ミーティングの実施方法はわかっても、キャリアについてどのように相談に乗ればよいのかわからないということがあります。また、今日的なキャリアの理解ができない場合も多いです。上司の世代はキャリアを「垂直的に上がっていく」ものと理解しています。部下(本人)が自律的なキャリアについて考えたとしても、上司が理解できないことがあります。
2、部下(本人)と上司の溝
キャリアについて率直に本音で話せていないという溝です。日常、頻繁に行われている1on1ミーティングは、業務内容が話題の中心になりがちです。部下(本人)は不安があり相談したくてもできず、組織での将来キャリアを描けません。その結果、自分のしたいことはこの組織ではできない、上司は自分の話を聞いてくれないと考えてしまいます。
3、組織と部下(本人)の溝
キャリアパスのイメージが持てないという溝です。縦のライン、部署の中で育つので部署の外の情報が無く、組織の中で水平的な広がりを持ってキャリアをイメージできない場合が多いです。また、自己申告したポジションに必ずしも異動できるとは限りませんが、前述したように自己申告に対して反応がないといったことこそ溝になっていきます。
これらの溝を埋めていくことが、三位一体でキャリア自律を推進していく上で重要です。
組織のビジョンについて「ストーリー」で語り、自身のキャリアについて「言語化」する
組織と本人とをつなげる重要な役割を担うのは上司です。そこで、ここからは特に焦点を絞り、上司と本人の溝を埋めるための効果的な方法をご紹介します。
上司はストーリーでビジョンを語る
一般的に上司が方針を伝える際、左脳的な表現を使用する傾向にあります。左脳的とは、目標数字やKPI指標を用いて重点課題などの施策を論理的な伝え方です
一方で、右脳的とはイメージで心に訴える伝え方です。物語が生き生きとした言葉で語られるため、聞き手の想像力をかき立てます。この右脳的に話すことをストーリーテリングと言います。以下、ストーリーテリングの三つの効果をご紹介します。
- 頭に情景が浮かび、言葉を超えた情報が伝わる
- 込められた意図や意味合いを自らの経験や価値観に照らし合わせて解釈しようとする
- その結果、自分事化するので共感を持つ
ストーリーテリングを用いる際は、エベレスト・ゴールを設定することが効果的です(図5)。
出典:Kim S. Cameron 2013『Parcticing Positive Leadership Tools and Techniques That create extraordinary results』Berrett-Koehler Publisher,Inc.
上司はストーリーテリングを用いて経営ビジョン、部門方針を語ることで、部下(本人)は目標との連鎖を意識することができます。組織ビジョンへの共感は、部下(本人)の「その組織での将来キャリアの明確化」に寄与します。そして部下(本人)のエンゲージメントを高めます。
部下(本人)はキャリアを言語化して伝える
部下(本人)はキャリアを言語化して伝えることが重要です。ここでキャリアを言語化する方法を紹介します。言語化するためには、自分の歩んできたキャリアを一本の線で表すキャリアラインチャートをお勧めします(図6)。
経験から何を得たのか、自分の価値観、人からどのような影響を受けたかを棚卸しします。言語化することで整理されますし、上司や周囲の人からの客観的な意見を通してキャリアを見直すことができます。自分自身が不安に思っていることに気付けますし、相手もそれを知ることができます。
また、これまでの仕事内容や経験と、そのときに身に付けた能力(知識、技術、資格、考え方、情熱の源、周囲からの期待、対人関係など)を洗い出すことも有効です。自分が身に付けてきたことの確認をするために効果的です。
キャリア面談では上司は聞き役になる
キャリア面談での「上司」の注意点をご紹介します。上司は、部下との面談前に次のことを明確にする必要があります。一つは、現在の期待だけでなく、中期的な期待は何かということ。もう一つは部下の成長につながる仕事や役割、チャレンジしてもらいたいこと。そして、成長の支援となるような経験とは何かです。これを「広げる、深める、回す」の観点で整理します(図7)。
キャリア面談の具体的な流れは、上司と部下が互いに次のステップで期待や認識を言語化します。
- 現状やキャリアに対する思いを共有する
- 期待を共有する
- 一緒に計画を考える
- 次の約束をする
面談では、上司は部下の話を聞くのが「7割」と意識し、聞き役に徹しましょう。
キャリア自律を支援するソリューション
組織・上司・部下(本人)が三位一体となりキャリア自律を促進する取り組みとして、弊社では大きく五つの取り組みのご支援が可能です(図8)。
今回は図中③「キャリアを共に創る」にある“eラーニング”のプログラムをご紹介します。すき間時間に、そもそもの「キャリア」の考え方を確認したり、ご自身の経験や能力の棚卸しをしたりすることにお役立ちできます。
参考動画
15分でわかる!「eラーニング│キャリア開発プログラム」ご紹介動画
1分ほどの動画で概要ご確認いただけます。
まとめ
キャリア自律を実現していくために、今回は上司と部下が明日から取り組めることにフォーカスしてご案内しました。現代は、一人一人が「自らのキャリアはどうありたいか、いかに自己実現したいか」を意識し、行動を取る「キャリア・オーナーシップ」を持つことが大切です。その実現のためには、組織と上司と働く本人(部下)の三位一体が必要です。中でも、上司は「キャリア」の概念を刷新し、部下と対話していくことが求められます。その際、部下・上司がお互いのキャリアに対する考えを言葉にすること、上司は特に聞くことを意識することが効果的です。
まずは、組織の中で「キャリア」の意味合いを考えたり、対話の機会をつくったりすることから始めてはいかがでしょうか。
レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局