VUCAやニューノーマルに代表されるように、組織や職場を取り巻く環境は大きく変わっています。これに伴い、管理職の役割や求められる機能も変わってきています。しかし、管理職のマネジメント方法がバージョンアップされていない実態も見られます。
時代とともに変化するマネジメントについて、今までとこれからという観点から整理をし、これからの時代に適したマネジメントにバージョンアップしていくための秘訣をご案内します。
※本ウェビナーレポートは、2022年7月14日に実施した「~管理職育成の今までとこれから~時代の変化に合わせて管理職育成のバージョンアップを図る」の内容をまとめたものです。
<登壇者情報>
株式会社ビジネスコンサルタント ゼネラルマネジャー 片山貴幸
目次
時代の変化とマネジメントの変遷
管理職育成を考える上で大事なことは何でしょうか。それは「時代の変化から組織と管理職に求められること」を把握することです。そしてその上で育成について考えることです。誰もが知る通り、最近は特に変化が大きく、今までの育成方法を修正していくという対応では、不十分な場合があります。
まずは時代の変化を確認しながら、求められることをご紹介していきます。
創発的戦略と早く失敗することが求められる時代
今日、ビジネスを取り巻く外部環境は、早くて複雑で不連続的な変化をしていると言われます(図1)。
今までの環境変化と言えば、緩やかでシンプル、連続性がある漸進的なものでした。変化の仕方そのものが変わっていると言えます。従って、その中で求められるマネジメントも変わることになります。かつては、あらかじめ立てた中期経営計画など「計画的な戦略」の「正確な実行」に重きが置かれました。
しかし、これからは戦略と言えば、「創発的な戦略」が求められます。なぜなら、当初計画を立てた時の環境がすぐ変わってしまい、計画そのものが意味をなさなくなってしまうからです。
この時代で重要なことは、「早く失敗し、早く修正すること」です。急速で大きな外部環境の変化に適応していくために、早期に実行し、失敗を基に状況に合わせた計画に修正することがとても大切です。
バックキャスティング思考で断絶の時代を乗り越える
現代は変化が不連続であることから「断絶の時代」とも言われます。われわれが過ごす社会は5年後〜15年後以内に、人類史上、最も早くて大きい変化を迎えると言われています。現在はちょうど断絶を前にしたタイミングでしょうか。重要なのは、断絶の向こう側でも、価値を生み顧客に選ばれ続けることです。
そのために必要なのが、バックキャスティング思考です。なぜバックキャスティング思考が必要かと言えば、それは断絶の向こう側である未来を起点にして、現在取り組む課題を考えていくことで、持続可能性を高められると考えられているからです。
また、持続可能な組織が求められる時代だからこそ、組織運営やマネジメントも見直す必要があります。
職場内の変化にも適応する
前述の外部環境の変化だけでなく、職場環境や働き方の多様化により、仕事をする職場内にも変化が起こっています(図2)。
そのため、マネジメントの前提を見直し、考え方を変えていく必要があります。ここで重要なのは、従来の仕事の進め方である「何をどのように行うか」という思考から、「なぜ行うか」を共に考えられる組織にすることです。
なぜそれが必要なのかというと、これも時代が背景となります。現代は「正解が無い」時代であり、今まで決まっていたことが変化していく時代です。問題を解決するためには、常に関係者間で目的意識を合わせて、状況を見定めて、これから取り組むべきことを課題形成し続けることです。そのために、「なぜ」という思考がとても大切となります。
組織としては安定的な「20世紀型組織」から、変化に対応できる「自己革新組織」へと成長することが求められます(図3)。
組織は、関係者の多様性を許容しながら、主体性と能力を発揮できるようにマネジメントすることが必要です。
なぜ、組織にこのような変化が求められているのか、その背景を確認していきます。
新しい優位性を生み出し続ける必要がある
テューレーン大学のロバート・ウィギンズ等によれば、近年において競争優位性を持続できている組織は、全体の2〜5%程に過ぎないとのことです(図4)。
安定した優位性を長期的に保つことは非常に困難であり、常に新しい優位性を生み出し続けることが組織には求められるのだそうです。 これが変化に対応できる組織が必要な背景です。
現代の組織では、このダイナミック・ケイパビリティと言われる「変化に対応する自己変革能力」の必要性が高まってきています。そのために、今までの仕組みを時流にあわせて変革し、社内外の資産を活用して新しいビジネスを生み出す人材が必要です。
組織や職場の変化から、これからの時代の管理職に求められること
ここまで、求められる組織や職場について確認してきました。次に、その組織や職場をつくって運営していくために、必要となる管理職像をご紹介します。
これからの時代に求められる人物像
これからの時代に求められる人材像については、「VUCA 変化の時代を生き抜く7つの条件」(著者:コーン・フェリー)が参考になります。そこでは7つの能力が整理されています。
7つとは、①学びのアジリティ②修羅場経験の幅③客観的状況認識④パターン認識力⑤リーダーの役割を担う内発的動機⑥リーダーに適した性格適性⑦自滅リスクを回避する力です。
どの能力も、管理職育成はもとより、広く現代のビジネスパーソンを育成する際にも意識したいポイントです。
これからの時代に求められる管理職像
また、これからの時代に求められる管理職像についても参考例を紹介します(図5)。
「今まで」と「これから」と項目を分けていますが、今までの管理職像を否定しているわけではありません。これからの時代は、「今まで」に加えて「これから」の項目も管理職に求められます。
ただしあくまでもこれらは参考であり、新しいリーダー像に正解となるモデルはありません。組織によって状況も違います。自ら「仮説・実践・検証」のサイクルを回しながら新たな道筋をつくることが、これからの時代の管理職には求められます。
管理職育成をバージョンアップしていくためのポイント
ここまで、管理職育成を考える前提として、時代の変化から組織に求められることを確認してきました。そして時代変化を踏まえて考えられた人材像や管理職像をご紹介しました。では、実際に自組織の管理職育成のバージョンアップをどのように考えれば良いのでしょうか。ここからは、そのポイントを整理していきます。
鍵は、考え方の見直し
管理職育成をバージョンアップする鍵は、管理職の「考え方」を見直すことにフォーカスすることです(図6)。
状況に合っているかどうか、という尺度を持つ
マネジメントは、常に「状況に合っているか」を考えて行うことが非常に重要です。図中の「適」「不適」とは、管理職がマネジメントをする際の考え方と方法が「状況に合っているかどうか」を表します。ものの見方や仮説である「考え方」と「方法」が状況に合っていれば、管理職がマネジメントによって得られる効果は「◎」となり非常に高くなります。
逆に今まで効果があった方法や考え方でも、状況に合わなくなると「×」になります。状況に合っているかどうか、という尺度でマネジメントを見直すことが大切です。
考え方の見直しを推奨するワケ
今までは、外部環境の変化も緩やかでシンプルであったため、「方法論」がしばらく有効でした。マネジメントについても「何をどのように行うか」という「方法」を徹底することで成果を上げられました。「この仕事は、ウチの会社では昔からこうやるんだよ」という部下指導の光景を、目の当たりにすることがあったと思います。
しかし、急速で大きな環境変化がある現代では「考え方」をバージョンアップすることが必要です。なぜなら「考え方」に作用する活動の前提条件(上位の目的や背景、関係者の立場や考え方)が変わるからです。活動の前提条件が変われば、優先順位が変わったり、これまで行っていた方法が使えなくなったりする可能性もあります。例えば近年ではハラスメントに関する関心の増大や法整備から、部下への関わり方を振り返っている管理職の方も多いのではないでしょうか。
「考え方」を見直すことは、新たな「方法」を導入するよりもコストが少なく素早く取り組みやすいことも挙げられます。
では、考え方の見直しをするためには、どうしたらよいのでしょうか。
それには日々の「学習」が有効です。ここからは、状況を捉え直して仮説を考え活動に生かしていく、いわゆる「学習」について考えていきます。
内省思考による学習(HOW TO BE)が効果的
世の中にはさまざまな学習方法がありますが、今回は2つの学習方法についてご紹介します(図7)。
「活動思考による学習」は図6の縦軸に当たります。新しい「方法」を身に付けて新たな行動を取るきっかけをつかむ学習方法です。「内省思考による学習」は図6の横軸に当たります。「考え方」の見直しを促し、新たな行動を取るきっかけをつかむ学習方法です。先の読めないこれからの時代においては、特に「内省思考による学習」による考え方の見直しが有効です。
なぜ有効かというと、私たちが人間であり、しばしば自分がされたことを他者に対しても同様に行ってしまうからです。
例えば、昔の上司や先輩に自分がされた方法で現在の部下に接すると、価値観が違うのでうまくいかないことがあります。そのような時には「なぜ自分はこの方法にこだわっているのか」と問い直すとよいでしょう。
ここから内省思考による学習について、もう少し詳しくご案内します。
内省思考による学習「4つのキーワード」
内省思考による学習には、4つのキーワードがあります。
パーパス(目的、意義、WHY)
パーパスとは目的や意義を示すことを指します。最近ではパーパス経営などのビジネス用語も聞かれるようになり、その注目度も高まってきています。図でマネジメントの主要素として大切な、WHY・WHAT・HOWを思考の段階で表しています(図8)。
今までは②WHATと③HOWのみのマネジメントで成果をあげることができました。企業の管理職研修においても「課題設定力」や「計画実行力」に焦点をあてたものが多かったのではないでしょうか。
しかし、ここまでご案内した通り、今後は内省思考による問い直しが必要になっています。また、目的(パーパス)と目標(ビジョン)を指し示すことが、チームメンバーの動機づけにもつながります。
ところが、この①WHYの問い直しに慣れていない方が非常に多いのが現状です。
そのため、これからの管理職育成では、この①WHYに当たる「なぜこの部門は存在しているのか」「なぜこの業務が存在しているのか」という問い直しに焦点を当てることが大切なポイントです。
ストーリー(物語)
伝えたいことをストーリー(物語)として他者に語ることは、動機づけに非常に効果的です。例えば、事業計画に合わせた実行目標や項目をチームメンバーに伝えるだけでは、動機づけが弱くなりがちです。
一方で、映画を見ているかのようにストーリー仕立てで、思いが感じられるように目的や計画を語るとどうでしょうか。チームメンバーは共感を覚え、目を輝かせて、自分から意味合いを探し出し、自分事として捉えることができるのです。その結果、職場の実践力を高めることにつながります。
素早い仮説検証
仮説と計画、実践、検証のサイクルを早く回し、経験しながら学んで修正していくことが大切です(図9)。
結果が出たときもそうですが、特に意図した結果が出なかった場合は、「計画通り実践したか」「そもそもの仮説や計画は状況に合っていたか」の2つの観点で見直します。
当然ながら、サイクルを早く回せば失敗もあります。そのとき、仮説の検証に役立った、教訓となり進歩に貢献したという失敗は、「歓迎される失敗」として扱います。組織としての経験になり学習に結びついたとして、積極的にリワードすることがポイントです。
レジリエンス(回復力 困難を乗り越える)
レジリエンスとは、ビジネスにおいては「いかなる状況でも最善で最良の考え方を模索し成果につながる行動を選択し、前に進む力」のことを言います。さまざまな考え方ができれば、さまざまな行動ができ、選択の幅を広げられます。 このレジリエンスを強化するポイントは「思考の柔軟性」と「感情のコントロール」です。
事象に対して多角的に考える柔軟性と、状況に押しつぶされないよう気持ちや思いのバランスを保つことを意識することで能力が向上します。レジリエンスは、先天的な資質ではなく後天的に習得可能な能力です。
ロールプロファイルの見直しが必要
ロールプロファイルとは人材像を定義したものです。戦略遂行に必要不可欠なポジションの「遂行責任」「成果指標」「必要な能力」を明確にして一覧化します。管理職の各ポジションに何が求められ何をすればよいかが分かりやすいものとなります。育成に際しては、管理職本人にも、上司や人事にとっても、使いやすいコミュニケーションツールです。
しかし、このロールプロファイルも、時代が変われば見直しが必要になります。なぜかと言うと、環境が変われば戦略が変わり、求められる役割も変わり、成果指標も変わるからです。これを見直さないと、経営方針が変わっているのに、現場の仕事が変わらない、成果につながらないというケースが発生してしまいます。
また、最近では、タレントマネジメントシステムをうまく導入・運用していきたいというご相談も非常に増えてきています。そのシステムにロールプロファイルのデータを投入し、育成に活用することもできます。今一度「これからの管理職」に必要なロールプロファイルを作成することも大切です。
まとめ
管理職教育のバージョンアップの遅れは、中長期的な企業存続のリスクにもつながります。しかし、教育システムの刷新を行おうにも社内に理解者が少ない、結局毎年同じような内容の管理職研修を行っている、という企業も多いのではないでしょうか。
本ウェビナーでは管理職育成をバージョンアップするために三つのことをご案内しました。一つ目は時代の変遷と創発的な戦略が必要となっていること。二つ目は現代の求められる管理職像の参考例について。三つ目は実際にバージョンアップを進めるカギとなる「考え方を見直す」ために重要な内省思考の学習とその四つのキーワードです。
自社の管理職育成は「これから」に対応した内容となっているでしょうか。この機会に今一度、この問い直しを行ってみることをお勧めします。今後の教育・人材育成にお困りの際は、弊社への相談もご一考ください。
レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局