近年、多くの企業が女性活躍推進とダイバーシティに注力しています。これらは企業の成長と社会的責任を果たす上で重要な要素となっています。本記事では、女性活躍推進に注力する背景からダイバーシティとの関係性、女性活躍推進に取り組むメリットや課題、導入事例などについて解説します。人事担当者や責任者の皆さまが推進を検討する際の参考になれば幸いです。
目次
- ダイバーシティとは
- 女性活躍推進とは
- ダイバーシティと女性活躍推進の関係性
- 女性活躍が推進される背景
- 女性活躍推進法 (改正2022年4月)のポイント
- 先進7カ国最下位。日本のジェンダー・ギャップ指数
- ダイバーシティ経営における女性活躍推進の課題
・①女性の活躍推進の目的が明確でない
・②男性中心であり女性管理職を育成する風土がない
・③ロールモデルがいない
・④家事や育児との両立が難しい
・⑤女性側の意識改革も必要 - 女性活躍推進を企業が進めるメリット
・①多様な人材の確保や定着につながる
・②業務の改善が期待できる
・③企業イメージがアップする - 女性活躍推進のポイントと事例
・ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンとは
・インクルージョンのカギとなる「エクイティ」
・エクイティへの障壁は「アクセス」
・女性リーダーシップ開発プログラムと事例 - まとめ
1.ダイバーシティとは
ダイバーシティ(Diversity)は、直訳すると「多様性」を意味する言葉です。一般的に組織や集団が多様な背景や価値観を尊重し、それを積極的に生かす取り組みのことを指します。
多様性として捉えられる対象には、性別、年齢、人種、民族、障がいの有無、体格など表層的で認識しやすい要素に加えて、価値観、能力、スキル、経験、働き方、嗜好(しこう)性、宗教、心情などといった深層的な要素も含まれます。
弊社でも、「集団や組織に多様性を重視する方針があり、多様性を認め高めようと取り組むこと」と考えています。
多様な人材が共存し、それぞれの視点や強みを生かすことで、新しいアイデアが生まれます。これにより組織全体の創造性や生産性の向上につながると期待されています。
2.女性活躍推進とは
女性活躍推進は、働く場面で活躍したいという希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会を実現するための一連の施策のことです。具体的には、女性の採用拡大、管理職への登用、働きやすい職場環境の整備などが挙げられます。
これは、女性の持つ多様な視点やスキルを組織の成長に生かすとともに、社会的なジェンダー平等を実現するための重要なステップです。
3.ダイバーシティと女性活躍推進の関係性
女性活躍推進は、ダイバーシティの一環として位置づけられます。ダイバーシティが組織全体の多様性を重視する概念であるのに対し、女性活躍推進は性別の多様性に焦点を当てています。女性の参画や登用を促進することで、組織内の視点やアイデアが多様化し、イノベーションや問題解決能力の向上が期待できます。
つまり、女性活躍推進はダイバーシティを具体的に進めるための重要な施策の一つと言えます。
4.女性活躍が推進される背景
日本では少子高齢化により、生産年齢人口の減少が深刻な課題となっています。
その解決策として、これまで十分に活用できずにいた女性の労働力に注目が集まっています。このような背景から、2016年4月1日に「女性活躍推進法」が施行され、企業には女性の活躍推進に向けた行動計画の策定や情報公表が義務付けられました。
この法律は、女性が個性や能力を活かして働ける社会の実現を目的としています。国や地方公共団体、一般事業主に対し、具体的な取り組みを求めています。
また、女性の活躍状況が優良な企業には、厚生労働大臣から「えるぼし」の認定が与えられます。認定企業は、Lをかたどった認定マーク「えるぼし」を商品や広告、名刺、求人票などに使用できます。「えるぼし」の「L」は「Lady(女性)」「Lead(手本)」「Laudable(称賛)」を意味しています。
参考:厚生労働省|女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html
5.女性活躍推進法 (2022年4月改正)のポイント
2022年4月の改正により、女性活躍推進法はさらに強化されました。主なポイントは以下の通りです。
対象企業の拡大
行動計画策定義務の対象が、従業員301人以上から101人以上の企業に拡大されました。これまで努力義務とされていた中小企業にも、行動計画の策定と情報公表が義務付けられます。
情報公表項目の追加
女性管理職比率や男女の平均勤続年数の差異など、より詳細なデータの公表が求められます。特に、男女賃金差異(男性労働者平均賃金に対する女性労働者平均賃金の割合)の算出および公表が必須となりました。
認定制度の充実
女性活躍推進に積極的な企業を評価・認定する制度が拡大され、「プラチナえるぼし」認定が新設されました。これは、既に「えるぼし」認定を受けている企業の中で、特に優良で高水準の取り組みを行っている企業に対して与えられます。
これらの改正により、より多くの企業が女性活躍推進に取り組むことが期待されています。
参考:厚生労働省|女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html
6.先進7カ国最下位。日本のジェンダー・ギャップ指数
日本のダイバーシティ推進の状況は、世界的に見ても課題があります。ジェンダーの観点では、世界経済フォーラム(WEF)が2024年6月12日に発表した「Global Gender Gap Report 2024」のジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)によれば、日本は146カ国中118位と低迷しています。この指数は経済、教育、健康、政治の4分野のデータから算出されます。
日本は前年の125位から7つ順位を上げましたが、先進7カ国の中では最下位にとどまっています。「教育」「健康」の値は世界トップクラスですが、「政治」「経済」の値が低く、女性管理職の割合や賃金格差が問題視されています。この結果は、ダイバーシティ推進がまだ十分に進んでいない現状を示しています。
参考:世界経済フォーラム「Global Gender Gap Report 2024」https://www.weforum.org/publications/global-gender-gap-report-2024/
▼日本の女性役員や管理職の登用状況、女性リーダー育成の基本を確認したい方は、こちらもご覧ください▼
ウェビナーレポート|女性リーダーが育つ組織 5つのポイント
7.ダイバーシティ経営においての女性活躍推進の課題
ダイバーシティ経営については、経済産業省が以下のように定義しています。
多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営
出典:ダイバーシティ経営の推進(経済産業省)
ダイバーシティ経営の一環として女性活躍を推進する中で、さまざまな課題を解決する必要があります。主な課題として5つご紹介します。
①女性の活躍推進の目的が明確でない
女性の活躍を望む企業は多いものの、どこから着手すべきか分からず、具体的な目的や意義を明確にしていない企業も少なくありません。成功している企業は、影響や目標を明確化し、「〇年後までに女性管理職の比率を〇%に引き上げる」といった数値目標を設定しています。
目標が不明確だと施策が形骸化する恐れがあるため、まずは自社における女性の活躍を定義することが重要です。それには、女性活躍推進法に基づく報告項目を参考に、管理職数や勤続年数、満足度などの指標を設定することよいでしょう。
②男性中心であり女性管理職を育成する風土がない
男性中心の企業風土には、出世や業務を性別で区別する慣習が残っている場合があり、女性がキャリアを築くうえで障害となっています。こうした環境では、女性のモチベーションが低下しやすく、成長の機会も限られています。
また、「土日の会議(ゴルフ)」や「時間外の情報共有」といった慣行が、女性にとって働きにくい要因となっています。男性中心の働き方や慣習が女性の活躍を阻んでいる一方、成功している企業は意識改革を進め、風土を改善しています。
③ロールモデルがいない
女性管理職が社内に多くいれば、若手女性社員にとって具体的なキャリアの参考になります。しかし、女性管理職が少ない、またはいない場合が多く、目標とする人物像を描きにくい状況です。
また、管理職に対して「残業が多い」「緊急対応が大変そう」といったネガティブなイメージを持たれることもあります。このような場合、性別を問わず管理職が新しい働き方を率先して実践することで、そのイメージを払拭するきっかけになります。
身近に適切なロールモデルがいない場合でも、他部門や社外に目を向ければ、さまざまなリーダーを見つけることができます。部分的に参考になる「パーツモデル」を活用する考え方も有効です。
④家事や育児との両立が難しい
家事や育児との両立が難しい理由はいくつかあります。まず、家事や育児は女性が担うべきだという固定観念です。次に、管理職に昇進することで伴う責任の増加に対する不安があります。さらに、長時間労働や柔軟な働き方が欠如している点も挙げられます。
現在でも男性の育休取得率は13.97%※と低いため、男性はこれまで以上に育児や家事に積極的に参加することが望まれます。性別に関係なく家事や育児を共有する意識が広がることで、女性も職場で活躍しやすくなるでしょう。育児中の女性がキャリアアップしやすい環境を整えることは、企業の人材不足解消にもつながります。
※参考|「令和3年度雇用均等基本調査」(厚生労働省)chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/06.pdf
⑤女性側の意識変革も必要
「自信がない」といった理由でキャリアアップに消極的な女性もいます。制度や環境が整っていても、管理職を目指す意欲が低く、興味を持たず活用しないことがあります。また、望む働き方を維持するために昇進を諦めるケースも見られます。
このギャップを埋めるためには、柔軟な働き方やキャリアの選択肢を提示し、管理職のやりがいを伝えるなど、女性社員の意識を変えるための丁寧なコミュニケーションが必要です。
8.女性活躍推進を企業が進めるメリット
女性活躍推進には、企業にとってさまざまなメリットがあります。主なものを3つご紹介します。
①多様な人材の確保や定着につながる
女性の活躍を推進することで、優秀な人材の確保が期待できます。性別を問わず多様な人材を採用することで、組織に新たなスキルや視点が加わり、問題解決力や革新性が高まります。育児や介護、休職後の復帰支援の制度を整えるなど、誰もが働きやすい環境を整えることが重要です。
それにより優秀な人材の確保や定着率の向上ができ、長期的なキャリア形成が可能となります。さらに、結婚や出産後の再就職を目指す方や、ライフイベントを控えた世代にも魅力的な環境を提供できます。
②業務の改善が期待できる
多様な視点やアイデアが組織にもたらされることで、業務プロセスの見直しや効率化が進みます。さらには女性目線の新しいアイデアやサービスの開発などが期待できます。異なる経験や価値観を持つメンバーが協働することで、新しい問題解決の方法が生まれ、組織全体の生産性が向上します。
③企業イメージがアップする
ダイバーシティに積極的な企業として社会的評価が高まり、ブランド価値の向上につながります。女性活躍推進を行うことで、消費者や投資家からの信頼を得やすくなり、CSR(企業の社会的責任)やESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)への取り組みとして評価されます。
9.女性活躍推進のポイントと事例
ダイバーシティ経営における女性活躍を推進するためには、「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)」という視点が重要です。
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンとは
ダイバーシティ(Diversity)とダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の関係は、DE&Iがダイバーシティに「エクイティ(Equity)」と「インクルージョン(Inclusion)」を加えた概念であることです。エクイティとインクルージョンは次のような意味です。
エクイティ(公平性)
誰もが機会や情報、リソースに誰もが公平にアクセスできるように、積極的に障壁を取り除くこと。組織が提供する機会やツールの調整が求められる。
インクルージョン(包摂性/包含性)
多様な人材一人一人が、その組織や集団に帰属感を持ち、同時に自分らしさを認められていると感じられ、他者との違いを強みとして生かせるよう取り組むこと。
ダイバーシティが「多様な人がいる状態や、その状態を目指すこと」であり、インクルージョンを「(それらの)人の力を生かしている状態や、その状態を目指すこと」だとすると、エクイティは「そうした状態をつくるための環境整備」と言えます。
インクルージョンのカギとなる「エクイティ」
エクイティを理解するために、似ている概念である、平等(イクオリティ)と対比して考えてみます(図1)。
平等(イクオリティ)は全員等しい支援をすることです。図1では同じ高さの台を与えています。例えば、「希望する従業員は全員、新規事業開発のプロジェクトに参加できる」などです。しかし、平等にしても、家庭の事情などでうまく対応できない人(機会にアクセスできない人)は、参加を諦めてしまうということが起こり得ます。
一方、公平(エクイティ)は、一人一人の固有のニーズに合わせ、ツールやリソースを調整し、誰もが機会を得られるように障壁を取り除いていくことです。
例えば、新規事業開発プロジェクトへの参加において、リモートワークや柔軟な勤務時間を導入したり、全工程でなく一部参加を認めたりすることで、家庭の事情で通常の勤務が難しい従業員も参加しやすくなります。
制度面だけなく、心理面での障壁を取り除くことも必要です。ハラール対応、勤務時間内のサラートなど国籍、人種、宗教、民族への理解し対応することや、小学校6年生まで育児短時間勤務取得の期間延長なども、日本の企業が取り組んでいるエクイティの例です。
「社会構造の違い」が顕在化してきたことから、その不均衡さを是正するために、法整備だけでなく、各社では規定の改正などを通じて、エクイティの実現に取り組みつつあります。
エクイティへの障壁は「アクセス」
エクイティへの最大の障壁は、物理的、心理的な要因によってアクセスを妨げられることです。
例えば、機会へのアクセスでは「これは男性社員向けだから」「この職場では以前からこうしているから」といった制限があります。また、情報へのアクセスでは「育児休業中や介護休業中は情報システムにアクセスできない」や「人的ネットワーク(仲間内)に入らないとアクセスできない」といった障壁があります。
これらの障壁を取り除くことで、多様な人材が機会にアクセスし、挑戦し、活躍することができます。
女性リーダーシップ開発プログラムと事例
女性一人一人が公平に活躍できるよう、育成の機会は重要です。ここでは弊社の女性限定のリーダーシッププログラム開発公開講座WLP(Women‘s Leadership development Program)と事例をご紹介いたします。
公開講座WLP
WLP(Women‘s Leadership development Program)は、参加者を女性に限定した実践型のリーダーシップ開発プログラムです。必要なリーダーシップの概念を理解した上で、実際に経験の幅を広げるための計画を作成し、職場実践に取り組みます。
▼詳しくはこちら|株式会社ビジネスコンサルタントHP▼
公開講座WLP(女性リーダーシップ開発プログラム)
事例紹介|株式会社オーテック
WLPにご参加されたお客様に、ご感想を伺いました。
“WLPは女性たちの研修で、これからのリーダーに向けた内容ですし、参加者の方々にすごく共感していただけることが多く心理的安全性が高い研修なので、安心して受けてもらいたいと思います。”(記事より)
公開講座WLPご参加者の声(株式会社ビジネスコンサルタント公式サイト):
WLPで見えた「自分らしさを生かしたリーダーシップ」という道筋
10. まとめ
女性活躍推進とダイバーシティは、企業の成長戦略において欠かせない要素です。多様な人材を活用し、その能力を最大限に引き出すことで、新たな価値を創造できます。そのためには、男女問わず、全ての人にとって働きやすく、活躍できる環境づくりが重要です。弊社では、人材育成や組織改革の支援を通じて、企業のダイバーシティ経営、女性活躍推進をサポートしています。ぜひお気軽にご相談ください。
レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報サイト事務局