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コンプライアンスの意味とは?違反事例、なぜ起こるのか背景を解説 

コンプライアンスの意味とは?違反事例、なぜ起こるのか背景を解説 

ニュースで企業の不祥事に関する報道が後を絶ちません。企業が持続可能な成長を遂げるためには、コンプライアンスの徹底が不可欠です。本記事では、コンプライアンス活動に携わる担当者向けに、コンプライアンスの意義、違反が生じる原因、そしてコンプライアンスを厳守するための取り組みについて紹介します。

1.コンプライアンスとは

コンプライアンス(compliance)は直訳すると「法令遵守」を意味し、法令や規則、社会的な規範を守り、倫理的に行動することを指します。しかし、企業にとってのコンプライアンスは単なる法令遵守にとどまらず、広範な企業活動における倫理的行動を含みます。

弊社はコンプライアンスを狭義と広義の二つの意味で整理しています。それぞれの意味について詳しく説明します(図1)。

コンプライアンスの狭義と広義の図
図1 コンプライアンスの狭義と広義

狭義のコンプライアンス

狭義のコンプライアンスとは、法令やルールの遵守を指し、企業運営の基本的な要素です。企業は、労働基準法や個人情報保護法など、さまざまな法律や規制を守らなければなりません。法令を遵守することは、企業の信用を守り、法的リスクを回避するための基本条件です。

また、就業規則も重要であり、従業員が守るべき職場のルールやマナーを定めています。これに従わない場合、内部トラブルや労使関係の悪化を招く可能性があるため、企業は適切な教育を通じて規則の遵守を促す必要があります。

広義のコンプライアンス

広義のコンプライアンスとは、単に法令遵守にとどまらず、社会的要請や相手の期待に応えることを意味します。企業や組織は、明確な違法行為でない場合でも、社会的に適切でない行動を判断し避けることが求められます。また、企業倫理の確立と実践も重要で、これは法的義務を超えた道徳的基準に基づく行動を指します。企業は透明で公正な行動を取り、ステークホルダーの信頼を得ることが不可欠です。

2.内部統制とコンプライアンス

内部統制は、企業の業務が効率的かつ効果的に行われること、財務報告の信頼性が確保されること、そして法令や規則が遵守されることを目的としています。一方、コンプライアンスは、企業が法令や規則、社内規定を遵守することを指し、その範囲は倫理的な行動にも及びます。これら二つの概念は密接に関連しており、互いに補完し合いながら企業の健全な運営を支えています。

内部統制とは

企業の経営戦略や事業目的を組織として有効に機能させ、達成していく仕組みを指します。言い換えると、企業が業務を適正かつ効率的に遂行するために、社内に構築され運用されるプロセスのことです。

内部統制の目的

内部統制を行う目的を四つご紹介します。以下目的は金融庁が「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」の中で定めています。

①業務の有効性、効率性
事業目標達成のため、業務の有効性および効率性を高めること

②財務報告の信頼性
財務諸表及び財務諸表に重大な影響を及ぼす可能性のある情報の信頼性を確保すること

③事業活動に関わる法令などの遵守
事業活動に関わる法令その他の規範の遵守を促進すること

④資産の保全
資産の取得・使用・処分が正当な手続き・承認の下で行われるように資産の保全を図ること

内部統制の一環として、企業はコンプライアンス体制を整備し、適切な監視と評価を行います。これにより、法令違反や不正行為の発生を未然に防ぐことができます。内部統制は、企業が健全な運営を維持するための重要な要素です。

次に、コンプライアンスが重視される背景について見ていきましょう。

3.コンプライアンスが重視される背景

コンプライアンスが重視される背景には、企業の社会的責任や法令遵守が強く認識されるようになってきたことがあります。2000年以降の20年余りで、企業のコンプライアンス活動は「導入期」「展開期」「変革・定着期」と段階的に進化してきました(図2)。

コンプライアンス活動の変遷の図
図2 コンプライアンス活動の変遷

導入期(2000年~2003年頃)では、他組織の不祥事が引き金となり、危機感から倫理行動基準の策定や体制構築が急務となりました。展開期(2003年~2004年頃)には、CSRや内部統制が注目され、企業がステークホルダーに対して説明責任を果たすため、厳密な運用が求められるようになりました。

しかし、これらの取り組みだけでは不祥事を完全に防ぐことはできず、組織内部の意識改革の必要性が高まってきました。現在の変革・定着期では、法令遵守の「ハード面」に加え、組織風土の改善やラインマネジメントの強化、従業員の自尊心向上などの「ソフト面」の取り組みに焦点が当たっています。

800組織以上の実績からひもとく コンプライアンス施策の「今まで」と「これから」弊社では800組織以上を対象に、コンプライアンス推進のテーマにおけるコンサルティングや研修を実施してきました。本セミナーではその経験から「今まで」と「これから」の施策についてひもといていきます。※本ウェビナーレポートは、2022年9月26日に実施した『800組織以上の実績からひもとく コンプライアンス施策の「今まで」と「これから」』の一部をまとめたものです。...

4.類似した言葉との違い

コンプライアンスと類似した言葉がいくつかあります。ここではコーポレートガバナンス、CSR、インテグリティとコンプライアンスの違いについてご案内します。

コーポレートガバナンス(企業統治)

コーポレートガバナンスは、弊社では企業経営を規律するための仕組みと捉えています。企業経営を担うのは経営者であり、基本的には経営者(代表取締役だけでなく、経営を執行する役員全体)をどのように規律するかが課題となります。

コーポレートガバナンスは、企業の透明性や健全性を確保し、主に株主や投資家の利益を保護しながら、企業価値の向上を目指します。一方、コンプライアンスは法令や規則、企業倫理の遵守を指し、より広範な意味を持ちます。

CSR(企業の社会的責任)

CSRはcorporate social responsibilityの略称で、企業が社会に対して果たすべき責任を包括的に捉えた概念です。CSR活動には環境保護、地域社会への貢献、従業員の福利厚生などが含まれます。コンプライアンスは、CSRの一部として位置付けられることが多く、特に法令遵守や倫理的行動の側面に焦点を当てています。

インテグリティ(誠実さ)

インテグリティ(integrity)とは、誠実さ、真摯(しんし)さ、徳性などを意味し、倫理的な判断に基づき、自発的に高い道徳基準で行動することを指します。誠実さは私利私欲を排し、真摯さは物事に真剣に取り組む姿勢を指し、真心をもって人やことに向き合うことです。さらに、徳性とは、修養によって得られる優れた人格を指し、情緒的および社会的知性を含みます。

コンプライアンスは法律や規則の遵守を指しますが、インテグリティはそれを超え、社会的な倫理や道徳に基づいて正しい行動を取ることが重要とされています。

次に、コンプライアンス違反が起こる要因について見ていきます。

5.コンプライアンス違反が起こる要因

コンプライアンス違反が起こる要因は多岐にわたります。代表的なものをご紹介します(図3)。

コンプライアンスが起こる要因の図
図3 コンプライアンスが起こる要因

業績や効率優先の過度なプレッシャー 

企業が業績や効率を過度に重視する場合、従業員に対するプレッシャーが増大し、法令や規則を無視する行動を促進することがあります。このような環境では、短期的な成果を優先するあまり、コンプライアンスが軽視されるリスクが高まります。

相互けん制の機能不全

企業内の相互けん制が機能しない場合、不正行為やコンプライアンス違反が発生しやすくなります。例えば、上司や同僚による監視やチェックが不十分であれば、個人の判断で不適切な行動が取られる可能性があります。

特に、意思決定が一部の権限者に集中している場合や、部門間の連携が弱い場合、相互けん制が機能しにくくなります。これにより、内部告発や問題の早期発見が遅れ、不正行為が長期化・深刻化するリスクも高まります。

知識不足、罪の意識のない行動

従業員が最新の法律を知らずに顧客情報を不適切に扱った結果、情報漏えいが発生することがあります。また、業界内で長年にわたり黙認されてきた慣習や、暗黙の了解とされる悪習が原因で、従業員が違法行為をするケースも見られます。

これらは表向きには「業界の常識」とされているものの、法的には許されない行為である場合が多く、その結果、重大なコンプライアンス違反を引き起こします。

使命感やモチベーションの低下

企業が従業員に明確な目標や意義を提供できない場合、仕事に対するやりがいや責任感を見失うことがあります。このような状況では、従業員が会社の規則や法令を軽視する傾向が強まり、結果としてコンプライアンス違反が発生するリスクが高まります。

信頼関係やモチベーションの不足

企業内で信頼関係が希薄な環境では、従業員同士や上司とのコミュニケーションが不足し、その結果、コンプライアンス違反が起こりやすくなります。信頼関係が欠如すると、従業員は組織のルールや価値観に共感しづらくなり、自発的にコンプライアンスを守る意識が薄れます。

また、上司や同僚との信頼がないと、問題が発生した際に助言を求めることができず、不適切な行動が続く可能性もあります。

次に、具体的なコンプライアンス違反の例について見ていきます。

6.コンプライアンス違反の例

コンプライアンス違反は、信頼の失墜や法的制裁など、企業に重大なリスクをもたらします。ここでは、労務、法令、経理に関連する代表的な違反例を通じて、その影響と予防策を探ります。

労務関連

以下に代表的な例を挙げて説明します。

長時間労働の強制

労働基準法では、従業員の労働時間に関するきまりが定められています。しかし、一部 の企業では業績や効率を優先し、従業員に過剰な労働を強いることがあります。

例えば、定時の終業後にもかかわらず、上司が従業員に業務を続けさせるケースです。このようなことが続けば、従業員の健康が損なわれ、過労死や精神的な疾患を引き起こす可能性があります。企業は、適切な労働時間を守り、従業員の健康を第一に考える必要があります。

賃金の未払い

相互けん制が機能しないため、賃金未払いという不適切な労務管理が行われるなど、適切な労務管理が行われない場合があります。特に残業代については、残業時間が正確に記録されない、あるいは記録されているが支払いが行われない、といったケースをよく耳にします。

企業は、労働者に対して賃金を全額支払う義務を負っており、この義務を怠ることは法律違反となります。

ハラスメント

職場でのハラスメントも、労務関連のコンプライアンス違反に該当します。主なハラスメントは、セクハラ、パワハラ、マタハラで、3大ハラスメントとも言われます。これにより被害を受けた従業員の、精神的な健康が損なわれたり、職場環境が悪化したりします。

また、このような違反が明るみに出ると企業ブランドや認知にも影響し、取引先や採用に大きく影響します。

法令関連

法令関連の違反は、企業が直接的に法律を破る行為です。以下に代表的な法令違反の例を挙げて説明します。

著作権法違反

著作権法は、創作者の権利を保護するための法律です。企業がこの法律を無視すると、知的財産権を侵害することになります。例えば、無断で他人の著作物を使用したり、コピーして配布したりする行為がこれに該当します。このような行為は、創作者に対する損害を引き起こすため、法的な制裁を受ける可能性があります。

独占禁止法違反

独占禁止法は、市場における公正な競争を維持するための法律です。この法律に違反する行為としては、価格カルテルや市場分割協定などがあります。

例えば、複数の企業が協力して価格を引き上げることで、消費者に不利益をもたらす行為をカルテルと言います。このような行為は、競争を阻害し市場の健全な発展を妨げるため、厳しい制裁が課されることがあります。

情報管理関連

個人情報の漏えいや企業機密の流出は、法律違反にとどまらず、企業の信頼性や評判を著しく損なう可能性があります。

個人情報の漏えい

顧客の氏名や住所、クレジットカード情報などが第三者に流出することで、顧客のプライバシーが侵害される恐れがあります。これにより、企業は個人情報保護法に基づく罰則を受けるだけでなく、顧客からの信頼を失い、場合によっては訴訟に発展する可能性もあります。

企業機密の流出

新製品の開発情報やマーケティング戦略が競合他社に漏れた場合、企業は市場での競争力を失う可能性があります。さらに、特許情報や技術資料が流出すると、法的な争いに発展するリスクも高まります。

経理関連

経理に関するコンプライアンス違反は、企業の財務に直結する重大な問題です。以下に、代表的な不正経理の違反例を挙げて説明します。

売り上げの過大計上

実際の売上高を超える金額を計上し、企業の財務状況を意図的によく見せる不正行為です。例えば、未成立の契約を売り上げとして計上したり、架空の取引を記録したりするケースが該当します。このような行為は株主や投資家を欺くものであり、発覚した場合、企業の信頼性に致命的なダメージを与えることになります。

内部での資金横領 

従業員や役員が企業の資金を不正に流用する行為です。例えば、経理担当者が会社の資金を自分の個人口座に振り込んだり、企業の支払い処理を悪用したりして資金を着服するケースが該当します。資金横領は企業の内部統制の欠如を露呈し、発覚した場合、企業全体の信用に影響を及ぼします。また、横領行為は刑事罰の対象となり、法的なリスクも高まります。

次に、コンプライアンス遵守のための取り組みについて見ていきます。

7.コンプライアンス遵守の取り組み 

多くの企業は、すでにコンプライアンス強化に取り組んでいます。ここでは代表的な例をご紹介します。

相談窓口を設ける

従業員がコンプライアンス違反に関して相談や報告ができる環境を整えます。その際、従業員が安心して利用できるよう、匿名で受け付けることが重要です。

コンプライアンス研修を実施する

正しい知識を身に付けるために、研修を実施することも効果的です。弊社が2022年度から2023年度にかけて実施したアンケートでは約8割の組織が毎年研修を実施していると回答しました(図4)。

コンプライアンス研修の実施サイクルはの図
図4 コンプライアンス研修の実施サイクルは(単一回答)
コンプライアンス担当者、施策推進者42名対象のコンプライアンスアンケート」(2023年10月4日~11月7日実施)より

定期的なコンプライアンス研修を実施することで、従業員の法令や規則に関する知識を更新し、意識を高めることができます。

浸透・定着施策であるコンプライアンス研修のトレンド弊社のコンプライアンス分野における実績は約20年間で800組織を超えます。本レポートでは社内への浸透・徹底を促す施策である「コンプライアンス研修」のトレンドについてご紹介します。*本レポートは2022年10月20日に実施したウェビナー「浸透・定着施策であるコンプライアンス研修のトレンド」の一部をまとめたものです。...

コンプライアンス意識調査を実施する

企業は定期的にコンプライアンス診断を行い、法令や規則の遵守状況を評価することが重要です。診断結果に基づいて改善点を見つけ、適切な対策を講じることで、コンプライアンス違反のリスクを最小限に抑えることができます。

またコンプライアンス意識調査の実施形態について、以下の結果が明らかになりました。(図5)。

コンプライアンス意識調査の実施形態の図
図5 コンプライアンス意識調査の実施形態は?(単一回答)
株式会社ビジネスコンサルタント2023年10月4日~11月7日にコンプライアンス担当者、施策推進者42名対象に実施コンプライアンスアンケートより

2022年度と2023年度を比較すると「コンサルタント会社等の外部へ業務を一部委託」している割合が多くなっています。コンプライアンス意識調査を外部に委託するメリットは、専門知識や経験をもつ第三者が客観的に調査を行える点です。これにより、調査内容の偏りや見落としを防ぎ、信頼性の高い結果が得られます。

また、調査にかかるリソースを削減し、本業に集中できる点も大きな利点です。さらに、調査結果の分析や改善策の提案まで一貫して対応してもらえるため、実効性のあるコンプライアンス向上が期待できます。

2023年度 コンプライアンス施策実態アンケート|DL資料 株式会社ビジネスコンサルタントが実施した、2023年度コンプライアンス施策実態アンケートの実施結果をダウンロードいただけます。 ・対象...

組織開発を行う

組織開発は、行動科学や組織心理学などの技法を使って、組織文化(組織風土)を計画的に変革する一連のプロセスです。弊社では、組織開発を「経営トップあるいは経営幹部、管理者が主体となり日常のマネジメント活動において、人と人との関係性を変えることによって変化に対応しうる組織を創造していくこと」と定義しています。

コンプライアンス活動についても、弊社は法令遵守や不祥事防止に加え、健全な組織風土の醸成を目的としています。調査結果をみても、5割以上の人が、不祥事を防ぐために「組織風土」が最も重要だと考えています(図6)。

不祥事を起こさない企業活動をするために、最も大切だと思うものは?の図
図6 不祥事を起こさない企業活動をするために、最も大切だと思うものは?(単一回答)

最近のコンプライアンス違反は、知識教育だけでは解決できません。では何が有効かというと、組織開発のテクノロジーです。組織開発は、「職場の問題を自分たちで解決する」という自浄作用の効いた健全な風土を醸成するアプローチです(図7)。

組織開発サイクルの図
図7 組織開発サイクル

組織開発において、特に大切なのは、組織内の人々が自ら問題解決の力を身につけることです。これにより、自律的な行動変容が促され、持続的な問題解決が可能になります。

そのためには、現状を点検し、職場での対話を通じてテーマを設定し、解決策を立案します。さらに、その解決策を実践し、進捗を確認しながら、次の展開に向けた評価を行うサイクルを回すことで、組織開発の効果を最大化できます。

8. まとめ


コンプライアンスの徹底は、企業が持続的に成長し、信頼を維持するために不可欠です。本記事では、コンプライアンスの意味や違反が起こる背景、事例、そしてそれを防ぐための具体的な取り組みについて解説しました。単なる法令遵守にとどまらず、健全な組織風土の醸成が重要であり、それには組織開発が有効な手段です。自律的な行動変革と問題解決力を育むことで、持続的なコンプライアンスの実現が可能となります。今後は、組織開発を取り入れた実効性のある対策に取り組んでみてはいかがでしょうか

レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報サイト事務局

企業におけるコンプライアンスとは
企業におけるコンプライアンスとは?違反が起きやすい職場の特徴と対策企業におけるコンプライアンスは、法令遵守や倫理的行動を確保するための重要な要素です。ただ、違反を防ぐためには、表面的な対策だけでは不十分で、まずは根本的な問題を正しく理解することが大切です。 本記事では企業のコンプライアンス推進者に向けて、どのような職場環境や組織文化がコンプライアンス違反を引き起こしやすいのか、また、その対策として企業がどのような取り組みを行うべきかを解説します。...