エンゲージメント経営とは、従業員と企業の関係性や愛着心を重視する経営方法です。
しかし「エンゲージメント経営って要するに何をすることなのか」「組織全体のエンゲージメントを高めるポイントは?」と、疑問に思う経営者や人事の方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、エンゲージメント経営の概要やメリット、具体的な取り組み方法や導入事例について詳しく解説します。記事をご覧いただくことで、エンゲージメント経営について理解し、自社で導入するべきか判断の参考にしていただけるでしょう。
目次
- エンゲージメント経営とは
・エンゲージメントとは
・エンゲージメントと従業員満足度の違いとは - エンゲージメント経営が注目を集める理由
・労働人口の減少
・新しい価値観への適応
・生産性と業績向上 - エンゲージメント経営導入のメリット、デメリット
・メリット
・生産性が向上する
・離職率が低下する
・社会的評価が高まる
・顧客満足度が向上する
・デメリット - エンゲージメント経営の実践
・エンゲージメント調査
・ビジョンの明確化、共有
・課題の可視化と解決
・定期的な調査と効果測定 - エンゲージメント経営を実践する際の注意点
・長期的な視点と解決策
・調査結果を公開し、組織で課題を共有する
・経営者や管理職のみで解決せず、従業員の意見を聞く - エンゲージメントを向上させる方法
・ワークライフバランスの再定義
・公平性の高い人事制度の構築と運用
・コミュニケーションの活性化
・経営者や管理職のマネジメントスキル向上 - エンゲージメント経営の企業事例
・①ビジョンの浸透化で離職率が大幅改善(カーディーラー)
・②Well-being独自指標づくりで当事者意識を醸成(製造業) - まとめ
1.エンゲージメント経営とは
エンゲージメント経営とは、従業員と企業の関係性や愛着心を重視する経営方法です。これにより、組織全体のパフォーマンスや成長が促進されます。エンゲージメント経営の核心は、従業員と組織の絆をどれだけ深めるかにあります。
エンゲージメントとは
エンゲージメントとは、一般的に「約束」「契約」「婚約」などの意味があります。従業員エンゲージメントは、従業員が組織やブランドに対して感じる愛着心や強い結び付きのことを指します。「企業理念やビジョンなど組織が目指しているものと、キャリアなど個人が目指しているものが重なった部分」のことです(図1)。
弊社では、エンゲージメントが高い状態を「所属する組織や一緒に働く人々に対して愛着心を感じ、貢献意欲を持って仕事に熱中、没頭して取り組んでいる状態」と定義しています。
エンゲージメントと従業員満足度の違いとは
エンゲージメントと従業員満足度は似ていますが、異なる概念です。従業員満足度は、給与や福利厚生などの物質的な条件に関連しています。一方、エンゲージメントは従業員が組織に対して持つ情熱や愛着心、自発的な貢献意欲です。
従業員満足度は、従業員が職場環境や待遇に満足しているかどうかを測るものです。しかし、満足しているからといって、必ずしも積極的に業務に取り組むとは限りません。満足度が高い従業員は職場への不満が少ないものの、仕事への熱意や努力が必ずしも高まるわけではなく、創造的なアイデアや革新を生むとは限りません。
エンゲージメントは、従業員が仕事に対してどれだけ没頭し、積極的に関与しているかを示します。エンゲージメントが高い従業員は、自主的に問題解決に取り組み、業績向上に寄与する行動を傾向があります。したがって、エンゲージメントの方が成果につながりやすいとされています。
2.エンゲージメント経営が注目を集める理由
エンゲージメント経営が注目を集めるのは、現代の組織が直面している課題を解決すると考えられるためです。それは主に以下のような理由があります。
労働人口の減少
日本では特に労働人口の減少と少子高齢化が深刻な課題です。限られた労働力をいかに効果的に活用するかが企業の競争力を左右する要因であるため、従業員のエンゲージメントをいかに高めるかが課題となっています。併せてエンゲージメント経営は、従業員に魅力的な職場環境を提供することで、優秀な人材を引き付ける手段として注目されています。
組織の文化や働き方に価値を見いだし、従業員の満足度やモチベーションを高めることで、競争力を維持し、人材を確保することが求められています。
新しい価値観への適応
若い世代の労働者は、従来の価値観とは異なる価値を重視しています。エンゲージメント経営は、新しい価値観に合わせて、組織の文化や働き方を柔軟に調整する手段として求められています。パンデミックによるリモートワークの普及と働き方の変化で、エンゲージメント維持が企業の課題になってきています。
生産性と業績向上
エンゲージメントが高い企業は、低い企業に比べて生産性や業績が優れていることが多いです。市場が成熟し、変化が激しい現代において、エンゲージメントを高めることは競争優位性を持続させるための鍵となります。アメリカのギャラップ社のエンゲージメント調査結果でもこのことを裏付けています(図2)。
https://www.mandalidis.ch/coaching/2021/01/2020-employee-engagement-meta-analysis.pdf
エンゲージメントの高さが上位25%と下位25%の組織を比較したところ、上位25%の組織はパフォーマンスが高いということが分かっています。
逆に言えば、従業員エンゲージメントが低ければ、TOPや管理職が方針を打ち出しても組織や人が動かず、成果が上がらないと言えるでしょう。そのため、現在、従業員エンゲージメントは経営において重要な指標になりつつあります。
3.エンゲージメント経営導入のメリット、デメリット
メリット
エンゲージメント経営を導入し、効果的に実践した場合、以下のようなメリットがあります。
生産性が向上する
エンゲージメント経営により従業員のモチベーションが向上し、それに伴ってパフォーマンスも向上します。従業員が仕事に情熱を持ち、自発的に最善の成果を出そうとする姿勢が、組織全体の業績を高めます。
離職率が低下する
エンゲージメントが高い組織では、従業員の離職率が低下します。従業員が組織に強い結び付きを感じると、満足度の高い状態が維持されるため、優秀な人材が組織に長くとどまる傾向があります。
社会的評価が高まる
エンゲージメント経営に成功する企業は、社会的評価が一層高まる傾向にあります。人的資本としてエンゲージメントの実態を情報開示することで、投資家からの評価も得やすくなります。従業員を大切にする企業と認知されると、優秀な人材も集まりやすくなり、取引先として選ばれやすくなるでしょう。
顧客満足度が向上する
エンゲージメントが高い組織では、従業員が顧客に対して、熱意を持って質の高いサービスや製品を提供します。その結果、顧客満足度が向上し、顧客ロイヤルティーが高まります。組織はより良い顧客関係を築き、ビジネスの成長を促進します。
デメリット
エンゲージメント経営には多くのメリットがありますが、一方でデメリットも存在します。まず、エンゲージメントの向上には時間とコストがかかります。従業員の意識改革や組織文化の変革は一朝一夕では成し得ません。これにより、経営陣の間でも、エンゲージメント経営に懐疑的な見方が生まれるかもしれません。
また、エンゲージメント向上の取り組みが上手く行かない場合、逆に従業員の不満を増幅させるリスクがあります。エンゲージメント経営を成功させるためには、長期視点を持ったバランスの取れたアプローチと、経営陣の継続的な活動が重要です。
4. エンゲージメント経営の実践
エンゲージメント経営を実践するためには、以下のステップで進めていく必要があります。
エンゲージメント調査
現状の従業員エンゲージメントが高いか低いかを測定するために調査を行います。従業員のエンゲージメントレベルを定量的に評価し、現状を把握することで、課題形成でき、改善に必要な施策を立てることができます。
詳しくはこちら「エンゲージメントサーベイとは?サーベイ結果を施策へ生かすポイント」
ビジョンの明確化、共有
エンゲージメント経営を行ってどのような組織をつくりたいのか、何に貢献したいのか。何に課題を感じているからエンゲージメント経営に取り組むのか。成功させるためには、ビジョンを明確にして全従業員への共有が必要です。エンゲージメント経営は、従業員が組織の目標や価値観に共感することから始まります。
課題の可視化と解決
エンゲージメント経営を実践する上で、課題を明確にすることが重要です。エンゲージメント調査や各職場からの情報を総合して、課題や改善すべき点を把握し、課題の優先順位付けを行います。
このときの優先順位は、組織運営の実態や目指しているものによるので、自社としての課題は何かを議論して決めることが重要です。そして、改善施策を検討し、実行します。
定期的な調査と効果測定
改善施策を実施した後は、エンゲージメントの再調査を行い、取り組みの効果を評価します。定期的な調査を通じて、改善されているかどうか進捗状況を把握し、必要に応じて新たな取り組みを計画します。社内にも結果を共有することで、関心を高めることができ、さらなる改善の機運につながります。
また、必要であれば社外にも情報開示することで、投資家や求職者、取引先等ステークホルダーに関心を持ってもらうきっかけになり、ブランドイメージを高めることにつながります。
5. エンゲージメント経営を実践する際の注意点
エンゲージメント経営を実践し、成果を上げるためには、以下のポイントに留意することが重要です。
長期的な視点と解決策
エンゲージメント課題に対しては、長期的な視点を持ち、持続可能で具体的な解決プランを策定することが必要です。例えば、上層部と従業員の対話が不足していることが課題形成された場合、「対話が大事」「上層部は一般職のエンゲージメントを高めること」と発信するだけでは実効性や具体性に欠けます。
なぜそのような現状にあるのかをもっと詳細に調べ、その上で、交流や対話を誘発する施策を検討する、管理職研修を計画するなど、具体的な解決策を検討しましょう。短期的に成果が上がるものでもありません。従業員のエンゲージメントを向上させるための戦略や取り組みを計画し、長期視点で着実に実行していくことが重要です。
調査結果を公開し、組織で課題を共有する
エンゲージメント調査を実施した場合は、スコアを公開し、課題を社内共有することが重要です。公開する情報は調査結果全てというよりも、わかりやすいサマリー形式を採用する組織が多いです。調査を実施して、その後何の情報公開しないと従業員から不信感を招きます。調査の計画段階から、情報共有の方法も検討することが重要です。
従業員に情報を公開し「問題に気付いている」「社員に歩み寄ろうとしている」「解決しようとしている」といった姿勢を示しましょう。経営幹部が職場ごとに管理職と協働して従業員との対話会を実施して、ビジョンを伝えたり調査結果を共有し課題を一緒に話し合ったりすることも効果的です。
経営者や管理職のみで解決せず、従業員の意見を聞く
管理職など上層部だけが参加する閉鎖的な会議やプロセスで、全てのエンゲージメント課題に関して解決策を検討することは不信感につながります。エンゲージメント課題だけでなく、業務上の課題についても、現場の担当者の意見に聞くことが重要です。職場実態はもちろんですが、分業化が進む今日のビジネスシーンでは、現場の担当者が最も情報を持っていることは珍しくないためです。
もちろん意思決定は経営幹部の役割ですが、従業員とともに施策を考えることで、解決策の精度が高まり、従業員の主体性や行動力が養われます。
6.エンゲージメントを向上させる方法
エンゲージメント向上の方法は多岐にわたり、組織の実情に合った方法を選ぶことが重要です。特に経営施策として考えられる方法をいくつかご紹介します。
ワークライフバランスの再定義
従業員が仕事とプライベートの両方を充実させるために、ワークライフバランスを見直す取り組みが重要です。自社にとってのワークライフバランスとは何かを検討しましょう。柔軟な勤務時間やリモートワークの導入、クリエイティブなオフィスレイアウト、有給休暇の積極的な取得促進など、働き方の選択肢を増やすことで、従業員の満足度やモチベーションが向上します。
公平性の高い人事制度の構築と運用
公平性の高い人事制度は、企業の持続的な成長と従業員のエンゲージメント向上に不可欠です。公平性の低い人事制度やその運用は、従業員のモチベーション低下や信頼関係の損失、さらには高い離職率といったリスクを伴います。このようなリスクを避けるためにも、まず透明な評価基準の導入、適切な評価とフィードバック、公正な報酬制度と運用体制の確立が必要です。
これらにより、成果と成長をもたらし、モチベーションを維持し、エンゲージメントを高めることができます。
コミュニケーションの活性化
組織内のコミュニケーションを活性化させることで、従業員間や部門間の連携が促進され、エンゲージメントが向上します。定期的なミーティングやチームビルディングイベント、オープンなコミュニケーションチャンネルの提供など、コミュニケーションの促進に向けた取り組みを実施する組織もあります。
経営者、管理職のマネジメントスキル向上
エンゲージメント経営において、経営者や管理職の在り方は非常に重要です。弊社の調査でも、エンゲージメント向上の鍵は上司との関係であることが分かっています(図3)。
詳しい調査結果のDLはこちら>>>https://trend.bcon.jp/dl_engagementreport/
部下にとって信頼できる上司であることが、エンゲージメントを高める最も効果的な方法であることが分かります。
しかし、
「強い信頼関係を結べる経営幹部や管理職をどのように育成するのか分からない」
「実績のあるプログラムを知りたい」
などのニーズがあると思います。
弊社では、経営者や管理職向けにマネジメントスキルやエンゲージメントを高めるための公開講座を多数用意しています。50年以上前に第一回を開催し、現在も改善、発展しながら継続している講座が複数あります。これまで都市圏の大企業から地方地場産業のオーナー企業まで多くの企業の経営幹部育成にご活用いただいています。
各講座ディレクターからの講座紹介や、ご参加者の皆様の参加理由やご感想をまとめている動画やインタビュー記事をご紹介します。
公開講座ISIのご参加者の声
公開講座ISI(エグゼクティブ人間力向上プログラム)は、経営者限定の講座で、経営者に不可欠な情緒的知性と社会的知性を高め、人間力を向上するためのプログラムです。
▼こちらから動画をご覧いただけます。
公開講座ELPの紹介とご参加者の声
公開講座「ELP®(エグゼクティブ・リーダーシップ・プログラム)」では、経営幹部に必要な考え方や理論を習得し、組織を成功に導くための経営リーダーシップを鍛える講座です。
公開講座HEPの紹介とご参加者の声
「公開講座HEP(ヒューマン・エレメント プログラム)」は、深い人間理解と絆をつくるリーダーシップを開発するプログラムです。
7.エンゲージメント経営の企業事例
エンゲージメント経営にうまく取り組んでいる企業では、さまざまな成果が出ています。以下は弊社が支援した企業事例の一部です。
①ビジョンの浸透化で離職率が大幅改善(カーディーラー)
背景
理念やビジョンはあったものの観念的で、従業員が具体的に、どのように行動すればよいかイメージがつかめていなかった。店舗ごとに異なる文化や慣習的風土が存在し、上司によって一貫性のないマネジメントが行われていた。実績重視の社風もあり、結果として入社後5年以内の若手社員の離職率が高かった。
施策
理念やビジョンをセルフエスティーム(自己肯定感)の考え方で整理し、だれもが分かる行動指針として落とし込み、浸透させた。
成果
トップダウンではなくボトムアップの施策展開が増加、離職率の低下。
入社5年目までの離職率27.7%→8.2% 等。
②Well-being独自指標づくりで当事者意識を醸成(製造業)
背景
サステイナブル経営を掲げ、事業転換を図っていた。事業転換に伴い、ミッションや長期ビジョン、価値観(行動指針)にサステイナビリティの要素を取り入れて大きく改訂。新しいミッション、ビジョン、価値観の浸透を図るためのアプローチを模索していた。特に、当社の事業に携わる人々が、Well-beingな状況とはどんな状態かを定義し、変革をマネジメントしたいと考えていた。
施策
Well-being独自指標づくり、作成した指標でのアンケート実施、全社へのデータフィードバックと対話、改善施策の展開
成果
わが社にとってのWell-beingの定義付け、策定メンバーのエンゲージメント向上、当事者意識の醸成
▼詳しく知りたい方は
こちらからご覧ください。
▼その他事例を知りたい方はこちら
記事「エンゲージメントの向上施策5選!成功事例や効果的な方法を解説」
8.まとめ
労働人口減少や働き方、価値観の多様化などに対応していくためには、エンゲージメント経営は、今後ますます欠かせない取り組みであると言えるでしょう。エンゲージメント経営によって、従業員のモチベーション、生産性、社会的な評価や顧客満足度の向上にもつながります。
具体的な導入方法としては、エンゲージメント調査、企業理念の明確化や共有、課題の可視化、経営者や管理職のマネジメントスキル向上などが挙げられます。また、他社の成功事例を参考にすることで、エンゲージメント経営の取り組みがイメージしやすくなるでしょう。
エンゲージメント経営を実現するための具体的な施策は多様です。そのためにも、現状把握から課題形成をして、介入策を組み立てられる組織変革への理解が必要です。
「エンゲージメント経営の進め方から考えたい」「サーベイは実施したものの課題の優先順位付けが分からない」「経営者や管理職の成長支援策を探している」など課題があればぜひご相談ください。従業員と組織の信頼関係を高め、エンゲージメント経営実現し、組織の生産性の向上につなげていきましょう。
レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報サイト事務局