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企業におけるコンプライアンスとは?違反が起きやすい職場の特徴と対策

企業におけるコンプライアンスとは

企業におけるコンプライアンスは、法令遵守や倫理的行動を確保するための重要な要素です。ただ、違反を防ぐためには、表面的な対策だけでは不十分で、まずは根本的な問題を正しく理解することが大切です。

本記事では企業のコンプライアンス推進者に向けて、どのような職場環境や組織文化がコンプライアンス違反を引き起こしやすいのか、また、その対策として企業がどのような取り組みを行うべきかを解説します。

1.コンプライアンスとは

現代の企業において、法令遵守と倫理的行動は不可欠です。コンプライアンスは信頼を築き、持続的成長を支える重要な基盤となります。

コンプライアンスの意味

コンプライアンス(compliance)は直訳すると「法令遵守」を意味します。ただし、単に法令を遵守し、違法行為を行わないだけでなく、法の精神や社会的な規範を遵守し、倫理的な行動を取ることも含みます。

企業にとっての位置付け

2000年以降、度重なる企業不祥事を受けて、コンプライアンスが注目されるようになりました。多くの企業は不祥事防止プログラムとしてコンプライアンスを位置付け「~してはならない」という禁止事項を徹底しました。

しかしながら、コンプライアンスという言葉には「相手の期待に応える」という意味もあります。本来は企業のステークホルダー(利害関係者)との信頼関係を築くための積極的な取り組みと捉えるべきです(図1)。

企業を取り巻くステークホルダーの図
図1 企業を取り巻くステークホルダー

2.企業でコンプライアンスが重視されている理由

企業がコンプライアンスを重視する理由は、社会的責任を果たし、法的リスクを回避するためです。企業は社会の一員として、倫理的かつ法的に正しい行動を取ることが求められています。

不祥事や法的トラブルを未然に防ぐことで、顧客や取引先からの信頼を得ることができ、持続的な成長が可能となります。従業員の安全や健康にもつながり、結果としてブランドイメージや社会的信頼も向上します。

3.コンプライアンスと混同されやすい言葉

コンプライアンスという言葉は、しばしば他の関連用語と混同されることがありますので、それらの意味とともに違いを簡単にご案内します。

コーポレートガバナンス

コーポレートガバナンスとは、企業経営を規律するための仕組みのことを言います。具体的には、経営陣が公正かつ責任ある意思決定を行うために、組織の仕組みやプロセスを整備、運用する枠組みを指します。これにより、企業は透明性や公平性を保ち、株主やステークホルダーに対して責任を果たすことができます。

一方で、コンプライアンスは法令遵守を主眼に置き、企業が法律や規則を守ることを重視します。両者は密接に関連しており、ガバナンスが効果的に機能するためにはコンプライアンスの徹底が不可欠です。

CSR(企業の社会的責任)

CSRは、企業が法的義務を超えて、社会や環境に対して責任ある行動を取ることを意味します。これには、社会貢献活動や環境保護への取り組みが含まれます。例えば、環境問題に対する取り組み、地域社会やコミュニティに対しての貢献などがあります。

コンプライアンスが法令遵守を中心とするのに対し、CSRは企業が積極的に社会的価値を創造することを目的としています。CSR活動は、企業の倫理的行動をより広範に支える役割を果たします。

内部統制

内部統制は、企業経営者の経営戦略や事業目的を組織として有効に機能させ、達成していく仕組みのことを言います。企業が業務を適正かつ効率的に遂行するために社内に構築され運用されるプロセスのことです。この内部統制の一環として、コンプライアンスは、法令や規則の遵守を保証し、企業が倫理的に行動することを目的としています。

従って、コンプライアンスは内部統制の一部と見なされることが多く、内部統制の枠組みの中で、特に法令遵守や倫理的行動に焦点を当てた部分を担っています。

4.企業におけるコンプライアンス違反のリスク

企業におけるコンプライアンス違反は、法的、財務的な影響にとどまらず、企業の信用やブランドにも重大な打撃を与えます。違反行為が発覚して報道されると、たとえ最終的に法的責任を問われなくても、企業イメージが著しく損なわれるおそれがあります。

特に、顧客や取引先は社会的責任を重視する傾向が強まっており、企業の倫理的な姿勢に厳しい目を向けるため、信頼を失うことは避けられません。これにより、ブランド価値の低下だけでなく、取引停止や契約解除に発展する可能性もあります。

さらに、法的責任を問われた場合には、罰金や制裁が科され、企業の財務状況に深刻な影響を与えることがあります。また、従業員の士気の低下や優秀な人材の流出が生じ、採用においても困難が生じるリスクが高まります。その結果、企業の生産性や競争力が低下する可能性があるため、リスク管理は非常に重要です。

特に、グローバルに事業を展開する企業は、各国の法規制を厳守しなければ、国際的な信頼を失い、現地でのビジネスチャンスを逃すリスクが高まります。そのため、従業員への継続的なコンプライアンス教育や、各国の法規制に準拠した内部統制の強化が不可欠です。リスクの発生を未然に防ぐ体制の構築が、企業の長期的な成功を左右します。

5.どのような職場でコンプライアンス違反が起こるのか

コンプライアンス違反が起こりやすい職場にはいくつかの特徴があります。これらの要因を理解することで、違反の予防策を講じることが可能です。

知識不足

法令や規則に関する知識不足もコンプライアンス違反の原因となります。また、業界のしきたりや悪習慣に基づく、罪意識の無い行動も含まれます。従業員が最新の法令や規則を知らない場合、無意識に違反行為をする可能性があります。企業は定期的な研修や情報提供を通じて、従業員の知識を更新し、違反を防ぐことが重要です。

成果や効率優先の考え方が過度に強い

職場での成果や結果、そして効率を過度に重視する文化は、コンプライアンス違反の温床となることがあります。

例えば、営業成績や生産性向上を最優先するあまり、法令や内部規定を無視したり、倫理的に問題のある行動が黙認されたりするケースです。経営陣や管理職が「結果さえ出せばよい」というメッセージを発していると、従業員もそれに倣い、法令遵守の意識が薄れてしまうことがあります。このような環境では、短期的な目標達成に焦点が当たり過ぎて、長期的なリスクが軽視される傾向があります。

相互けん制が働かない

職場での相互けん制が機能していない場合、コンプライアンス違反が見逃されやすくなります。従業員同士が互いに関心を持たず、問題を指摘する文化が無いと、不正行為や違反が発生しても誰も報告しない、あるいは気付かない状況が生まれます。また属人的な仕事も他者からのチェックが入らないため注意が必要です。

コミュニケーションが悪い

職場でのコミュニケーションが不足している場合、コンプライアンス違反が発生しやすくなります。例えば、上司と部下、あるいは同僚同士の意思疎通が十分でないと、ルールの認識違いや誤解が生じやすくなります。

また、問題が発生してもその報告が遅れる、または適切な対応が取られないことがあり、違反行為が継続、拡大する恐れもあります。

モチベーションが低い

従業員の仕事に対するモチベーションが低い場合、コンプライアンス違反が発生しやすくなります。特に、仕事に対する使命感や責任感が希薄な場合、「関係ない」「どうでもいい」などと考え、法令や規則の重要性を軽視しがちです。

従業員が自分の仕事の意義や役割を理解できていないと、業務に対する主体性が失われ、結果として、適切な手順やルールに従わない行動が増える傾向があります。

仕組みが整っていない

コンプライアンスを確保する仕組みが整っていない職場では、違反が発生しやすくなります。例えば、内部通報制度が未整備であったり、定期的な監査が行われていなかったりすると、問題が発生してもそれが表面化しないまま進行してしまいます。これを防ぐためには、しっかりとしたコンプライアンス体制の構築と、効果的な監視メカニズムの導入が不可欠です。

6.企業内のコンプライアンス違反例

企業においてコンプライアンスの遵守は、法的な義務であると同時に、社会的信頼を維持するための重要な要素です。しかし、時にはコンプライアンスが守られず、重大な問題が発生することがあります。ここでは、代表的なコンプライアンス違反の例をいくつか紹介します。事例を通じて、コンプライアンスの重要性と、それを軽視することがもたらすリスクを再認識しましょう。

労働問題

労働問題は、企業が法規制を遵守していない場合に頻繁に発生するコンプライアンス違反の一つです。特に日本では、労働基準法が厳格に定められており、その違反は法的な制裁を受けることになります。

長時間労働

法律で定められた労働時間を超えて従業員を働かせることは、日本では労働基準法違反に該当します。特にサービス残業が常態化している企業では、このような違反が起こりやすく、従業員の健康問題や生産性の低下につながるリスクがあります。

パワーハラスメント

これは職場内での権力関係を利用して、部下や同僚に対して精神的、時には身体的な苦痛を与える行為です。パワーハラスメントは、職場の人間関係を悪化させるだけでなく、離職率の増加や企業の評判を大きく損なう原因にもなります。

差別問題

性別、人種、年齢、障害などに基づく差別行為は、法律で禁止されており、企業がこれを許容することは重大なコンプライアンス違反となります。例えば、採用時に特定の属性を持つ応募者を不当に排除する行為や、昇進の機会を不公平に制限することが該当します。

情報漏えい

情報管理の不備も、企業内でのコンプライアンス違反としてよく見られる問題です。特に、個人情報や企業の機密情報が漏洩すると、消費者や取引先に直接的な被害をもたらすだけでなく、企業は法的なリスクにさらされ、社会的な信頼を大きく損なう可能性があります。

顧客情報の流出

企業が顧客の個人情報を適切に管理しなかった場合、その情報が外部に漏れるリスクがあります。これにより、顧客の信頼を失い、さらには企業に対する訴訟リスクが高まることになります。

内部の情報漏えい

これは、従業員や取引先からの機密情報が不正に外部に漏れるケースです。例えば、従業員が故意に競合企業に重要なビジネス情報を提供したり、誤って機密情報をメールで外部に送信してしまったりすることが含まれます。内部情報の漏えいは、企業の競争力を損ない、場合によっては多額の損害賠償を引き起こす原因となります。

不正会計

不正会計は、企業の財務報告におけるデータを故意に操作し、投資家や取引先を欺く行為です。このような行為は企業経営に重大な影響を与え、法的措置や企業価値の大幅な低下を招くことになります。

利益の過剰計上

利益の過剰計上は、不正会計の代表的な手法の一つです。企業が実際には得ていない利益を計上することで、株主や市場を欺きます。これにより企業は一時的に高評価を得るかもしれませんが、長期的には信頼を失い、最悪の場合は破綻に至る可能性があります。

損失の隠蔽

損失の隠蔽も不正会計の典型的な手口です。損失が発生しても財務報告に反映させないことで、企業の財務状況を健全に見せかけます。しかし、こうした行為が発覚すると法的制裁を受け、企業の存続が危機にさらされることになります。

不法行為

企業内で発生する不法行為も、コンプライアンス違反の一環として厳しく取り締まられます。特に詐欺や横領、賄賂などの不正行為は、企業の信用を急激に失墜させる要因となります。

賄賂の提供

賄賂は、公務員や取引先に対して不正な利益を提供する行為です。賄賂の提供は違法行為であり、企業がこれに関与していることが明らかになると刑事罰を受けるリスクがあります。

横領

横領は、企業の資産や財産を個人的に流用する行為です。従業員や役員が企業の資金を不正に使用することで、企業に多額の損害を与えます。

これらの事例は、企業内でのコンプライアンス違反がいかに多岐にわたり、重大な影響を及ぼす可能性があるかを示しています。コンプライアンスを強化し、違反を未然に防ぐことで、企業の健全な運営と社会的信頼の確保につながります。

7.経営管理者のコンプライアンス実践における5つの役割

コンプライアンスの実践には経営管理者の役割が重要です。ここでは経営管理者として特に重要な5つの役割について紹介します(図2)。

経営管理者の5つの役割の図
図2 経営管理者の5つの役割

①状況認識、判断

コンプライアンスの問題は、さまざまなステークホルダーとの間にある関係の中で生じます。一見問題がなさそうに見えても、内在する問題が将来的に取り返しのつかない事態を招く可能性があります。経営管理者には、問題意識を持って事象を捉え、適切に判断するリスク認識力が求められます。わが社の常識が社会の非常識とならないよう、十分な注意が必要です。

②率先垂範

コンプライアンスに対する意識が低い上司の部下は、同じく意識が低くなる傾向があります。コンプライアンス違反があった場合、個人の処罰は避けられません。部下を不幸にしないためにも、上司は高い意識を持ち、率先垂範することが求められます。部下は上司の「言葉」よりも「行動」から多くを学ぶため、言行一致が重要です。

③浸透化の努力

経営管理者は常日頃からコンプライアンスの重要性を繰り返し伝える必要があります。「分かっているだろう」といった考えは禁物です。何度も繰り返すことで、初めてその重要性が伝わります。

また、そもそもコンプライアンスが必要な理由を、従業員に明確に伝えることが大切です。具体的には、法令順守や違法行為を行わないことだけでなく、良き市民として社会規範にならうことや相手の期待に応えること、良好な信頼関係の構築などが挙げられます。

④何でも言える職場づくり

困ったことや疑問に感じたことを職場で言い出せる風土が大切です。経営管理者は、従業員の声に耳を傾ける姿勢を今以上に磨く必要があります。トラブル情報が経営管理者に上がりにくい職場は要注意です。

⑤ダブルスタンダードの防止

「ダブルスタンダード」とは、同じ状況や条件で異なる基準やルールを適用することを意味します。これにより公平性が失われ、不正や偏見が生じる可能性があります。

例えば、特定の人やグループにだけ厳しい基準を適用し、その他には緩い基準を適用することが典型的です。こうした行為は職場の信頼を損ね、従業員に「ルールを守らなくてもよい」という誤ったメッセージを伝えることになり、重大な問題に発展しかねません。法令や社内規定を理解し、一貫した基準を適用することが重要です。。

8.コンプライアンス違反を防ぐために企業が取り組むべきこと

コンプライアンス違反を未然に防ぐために、企業が積極的に取り組むべき対策はいくつかありますが、ここではその中でも特に重要な3つの取り組みをご紹介します。

研修の実施

コンプライアンス違反を未然に防ぐためには、全従業員が関連する法令や企業の規則を理解し、日常業務でそれを適用できることが不可欠です。これを実現するためには、研修の実施が非常に重要です。

研修では、法令や規則の基礎的な内容だけでなく、実際の業務に即した具体的なケース学習やシミュレーションを取り入れることが効果的です。これにより、従業員が自らの行動を見直し、適切な判断を下せるようになります。弊社が実施したアンケート結果から、研修の実施内容の傾向が分かりました(図3)。

コンプライアンス研修の実施内容は?の結果グラフ図
図3 コンプライアンス研修の実施内容は?(複数回答)
「コンプライアンス担当者、施策推進者42名対象のコンプライアンスアンケート」(2023年10月4日~11月7日実施)より

「法令などの知識付与中心」「実際に起こり得るテーマを想定したケース学習(以下、ケース学習)」が多いことが分かりました。特に、2022年と比較すると、ケース学習の実施割合は59%から66%へと7ポイント増加しています。単なる具体的な事例の共有ではなく、実務に直結した学習の重要性がますます認識されつつあると言えます。

2023年度 コンプライアンス施策実態アンケート|DL資料 株式会社ビジネスコンサルタントが実施した、2023年度コンプライアンス施策実態アンケートの実施結果をダウンロードいただけます。 ・対象...

サーベイモニタリング

企業がコンプライアンス違反を防ぐための重要な手段の一つに、サーベイモニタリングがあります。サーベイモニタリングとは、従業員や関係者に対して定期的にアンケート調査を行い、組織内のコンプライアンス意識や潜在的なリスクを把握する手法です。

この手法を活用することで、表面化していない問題や潜在的なコンプライアンス違反の兆候を早期に発見することが可能です。ただし、アンケートにはさまざまな種類があり、測定領域の妥当性や物差しの信頼性など、信頼できるアンケートを活用することが重要です。

体制づくり

コンプライアンスを徹底するためには、企業全体で対応できる組織的な体制づくりが必要です。具体的には、コンプライアンスの責任者や専門部署を設置し、法令遵守を日常的に監視し支援する体制を整えることが求められます。また、コンプライアンスに関する指針やポリシーを明確にし、全社員に浸透させることが重要です。

さらに、定期的な内部監査の実施やコンプライアンス体制の有効性の確認、必要に応じて改善することも大切です。加えて、経営層から現場の従業員に至るまで、一貫した方針とメッセージを発信することで、全員がコンプライアンスを重視する企業文化を築くことが可能となります。

9.まとめ

企業にとってコンプライアンスの遵守は、持続的に事業活動を行うために極めて重要です。ただし、規制を厳しくするだけでは、根本的な問題を解決することはできません。なぜコンプライアンス違反が発生するのか、その原因を正確に把握し、適切な対策を講じることが求められます。従業員一人一人が高い意識を持って業務に取り組むこと、そして経営管理者、職場ごとの管理職が適切なマネジメントを行うことが、コンプライアンス違反の未然防止につながります。

レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報サイト事務局

浸透・定着施策であるコンプライアンス研修のトレンド弊社のコンプライアンス分野における実績は約20年間で800組織を超えます。本レポートでは社内への浸透・徹底を促す施策である「コンプライアンス研修」のトレンドについてご紹介します。*本レポートは2022年10月20日に実施したウェビナー「浸透・定着施策であるコンプライアンス研修のトレンド」の一部をまとめたものです。...