多くの企業では、女性リーダーの育成が重要な経営課題となってきています。これは、人的資本経営や多様性の推進など経営環境の変化が背景にあります。しかし、実際に取り組むと、さまざまな問題が浮上します。女性の管理職候補者が見つからない、女性自身が管理職になることを嫌がる、効果的な育成方法が分からない、などです。このような問題を解決するために、女性リーダー育成をテーマにしたウェビナー「女性リーダーが育つ組織 5つのポイント」を実施しました。今回はそのレポートをお届けします。
*本レポートは2023年3月24日に実施したウェビナー「女性リーダーが育つ組織 5のポイント」の一部をまとめたものです。
<登壇者情報>
株式会社ビジネスコンサルタント
イノベーションプロデューサーコンサルタント 土橋るみ
目次
※WLP:女性リーダーシップ開発プログラム
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1.女性リーダー育成に取り組まなければならない背景
女性の活躍推進は、2004年頃から弊社が支援している課題です。その中で最近、特にご相談をいただくテーマとして増えているのが女性リーダーの育成です。まず、その背景について整理をしていきましょう。結論から言えば、法律等の改正と企業の競争力強化の二つがあります(図1)。
コーポレートガバナンスコードを含む法律などの改正
一つ目の背景である、法律等の改正からポイントを確認しましょう。
2021年6月に金融庁と東京証券取引所により、上場企業を対象としたコーポレートガバナンスコードの改訂が行われました。この改訂において、女性や外国人、中途採用者の管理職登用など中核人材の登用における多様性についての考え方、測定可能な目標と状況の開示およびその方針と環境整備についての実施状況の開示という重点原則が追加されています。
さらに、2016年施行の女性活躍推進法は、2022年7月に改正。常時雇用する労働者数が301名以上の事業主対象として、「男女の賃金の差異」が情報開示の必須項目となりました。そして、育児・介護休業法も2022年4月から3段階で改正しています。2023年4月からは、従業員数1,000人超の企業は、育児休業等の取得の状況を年1回公表することが義務化されました。
法改正によるさまざまな情報開示の要求が、大きな影響を及ぼしています。
企業の競争力強化
二つ目の背景として、企業の競争力強化があります。弊社では、経営者や人事部門、経営企画やダイバーシティ推進室といった部署からお聞きした話を総合して、今日、企業が女性リーダーを育成する目的として、以下4点があると考えています。
まず1点目は人的資本経営の推進です。2022年、経済産業省は一橋大学名誉教授の伊藤邦雄先生を中心にまとめた「人材版伊藤レポート2.0」を発表しました。レポート内には「人材は『管理』の対象ではなく、その価値が伸び縮みする『資本』なのである。企業側が適切な機会や環境を提供すれば人材価値は上昇し、放置すれば価値が縮減してしまう。※1」とあります。企業にとって女性は、価値を伸ばし切れていない資本の一つなのではないでしょうか。
※1参考 経済産業省 1.人的資本経営の実現に向けた検討会報告書(人材版伊藤レポート2.0) https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf
2点目は、人口減少への対応や優秀な人材の確保、3点目は組織に対するエンゲージメントの向上と推進、そして、4点目は多様性によるイノベーションの実現です。女性視点で製品やサービスを生み出してもらいたいという期待があります。さらに、仕事の進め方や働き方、人との関わり、配置の在り方などを含めたプロセスを変えることへの期待も大きいようです。
日本の女性リーダーの現状を数値で見る
ここで、女性リーダーについて現状を押さえるため、数値を三つご紹介します(図2)。
出典(左)「諸外国における企業役員の女性登用について」(令和4年4月21日 内閣府男女共同参画局)のデータを基に株式会社ビジネスコンサルタントが作成
https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/keikaku_kanshi/siryo/pdf/ka15-2.pdf
出典(右)「男女共同参画に関するデータ集」内閣府男女共同参画局 ホームページ
https://www.gender.go.jp/research/weekly_data/01.html
図2の左上は、内閣府が発表している諸外国の企業役員における女性登用データを基に、弊社で作成しました。役員に占める女性の割合において、日本企業は12.6%です。欧州各国は役員の一定数・割合を女性に割り当てるというクオータ制を導入し、達成できない企業にはペナルティや罰金を科すなど法律での義務化が進んでいることもありますが、大きな差があります。
図2の下段は、民間企業の各役職段階に占める女性の割合です。2003年に内閣府が出した男女共同参画宣言で、2020年までに管理職など指導的な地位に占める女性の割合を30%にするという目標が設定されました。しかし、17年経過した2020年時点で大きく未達という状況です。
図2の右上、ジェンダー・ギャップ指数については、各国の男女間の不均衡を示す指標として、毎年1回、世界経済フォーラムが算出しています。この指数は「経済」「教育」「健康」「政治」の四つの分野のデータから作成されています。2022年の発表では、日本は、総合的に146カ国中116位であり、かなり低位置にあります。内閣府のホームページにも「先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国より低い結果」と発表されています。
日本の女性リーダー育成における課題
日本の女性リーダーの育成や登用が難航している要因としては何があるのでしょうか。弊社ではその課題を五つに整理しています。
①リーダーに対する固定観念、ステレオタイプが切り替えられていない
「私はあんな風に力強く統制したことがありません。無理です」「〇〇さんのまねをしたら嫌われます。皆が付いてこないのではないでしょうか」。女性に管理職を打診すると、以上のようなことを言われると、よくお聞きします。
女性のリーダー候補者の多くが「リーダー=グイグイ引っ張る人、先頭に立って力強く統制する人」といったステレオタイプのリーダー像を持っているようです。このリーダーに対する捉え方をどのように変えるかは一つの課題と言えます。
②リーダーシップが鍛えられる経験が少ない
女性には大変な仕事、難しい仕事を与えないようにしてあげた方がよいという過度な配慮により、女性がリーダーシップを発揮する機会や経験が少なくなっていることもあるようです。
③女性自身が管理職になることに自信が無い
あるシステム会社の女性の事例です。当時、係長級のシステムエンジニアでしたが、1年間にわたって管理職の登用試験へのチャレンジを保留にしていたそうです。その理由は「複数のプロジェクトのマネジメントを行う自信が無い」というものでした。このように、女性が「はい」と言えない要因についても明らかにする必要があります。
④リーダーや管理職のイメージに対する抵抗感がある
③の自信の無さは自分の要因ですが、④に関しては周りにいる身近な管理職が要因です。「自分の上司や部長たちが楽しそうではない」「残業も多く、自分の思う通りに取り組めるポジションではなさそう」と見えるようです。
このイメージを払しょくできるようなネットワークやロールモデルを持てていないこともあるようです。他部門や社外にも目を向けると、さまざまなリーダーがいます。情報を得るためのネットワークを広げることも重要です。
⑤男性の役員や管理職から引き立てられにくい
女性が、男性の役員や管理職から引き立てられにくい場合があります。前述の通り、日本では役員に占める女性の割合は約1割です。実際、役員や管理職のほとんどが男性という組織も多くあります。男性中心の組織で培われた文化や人間関係のことをオールド・ボーイズ・ネットワークと呼びます。このネットワークには、女性は入ることは困難です。
女性にとってはそうした場所にある情報が入らない、仕事の便宜が図られないなどの弊害があります。潜在的な能力を持つ女性が見過ごされ、任用等の意思決定が行われることも問題になっています。
2.ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンとは
ここで、女性リーダー育成のキーワードとなるダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンについて、それぞれ確認しましょう(図3)。
ダイバーシティとインクルージョンとは
ダイバーシティとは、集団や組織の多様性を高める取り組みです。ジェンダーやLGBTQなど性自認や性的指向の違い、国籍や文化の違い、雇用形態の違い、働く時間の違いなど表層的で認識しやすいダイバーシティに関しては、多くの企業において取り組みが進んでいます。
もう一つ深層的なダイバーシティというのもあります。これは働き方やキャリア、経験といった一見して外からは分からない多様性のことです。
このようなダイバーシティも受け入れ始めている企業が多いのではないでしょうか。
インクルージョンとは多様な人材一人一人が、その組織や集団に帰属意識を持つと同時に、自分らしさを認められていると感じ、違いを強みとして生かせるように取り組むことです。
平等(イクオリティ)と公平(エクイティ)との違い
そして、本日のテーマである女性リーダーの育成において重要なのは、公平(エクイティ)です。そもそも平等(イクオリティ)と公平(エクイティ)の違いとは何でしょうか。端的に言えば、平等(イクオリティ)は個人のニーズに関係なく全員に同じ道具を与えること。一方、公平(エクイティ)は一人一人のニーズに合った道具を与えることです(図4)。
女性のリーダー育成でよくある問題としては、管理職の登用基準が高いことです。人事制度上は平等となっていたとしても、公平でない場合があります。能力や意欲があっても、子育てや介護で忙しいなど、一部の人には、どうしても現実的に難しいことがあるため、台を調整するなどの適切なサポートが必要です。
3.女性リーダー活躍を決める5つのアプローチ
ここからは、前述した日本の女性リーダー育成における5つの課題に対する解決策として、5つのアプローチをご紹介します。
①リーダーシップの考え方の切り替え
②経験学習
③自信の醸成
④組織を超えたネットワーク
⑤メンターとスポンサーの存在
(1)リーダーシップの考え方の切り替え
まず、リーダーシップについての認識を変えることが必要です。これは女性だけでなく、他の方も含めて切り替えることをお勧めします。女性リーダーの育成において、立教大学経営学部の石川淳先生が示す全員発揮のリーダーシップが、現代的なリーダーシップとして重要です(図5)。
従来型のリーダーシップは、安定した環境下のピラミッド構造の組織では効果的でした。しかし、現代は変化が速く、単独のリーダーでは対応が困難です。
全員発揮のリーダーシップとは、多様な人がそれぞれ持つ強みでリーダーシップを発揮できる状態のことです。個々の強みで互いの弱みを補完し合うことが求められます。
女性にとっては、一つのロールモデルに縛られるのではなく、さまざまなパーツモデルを探すことが役立つと考えられます。パーツモデルとは、全身ではなく身体の一部分だけを用いられるモデルのことです。リーダーシップの発揮方法は人それぞれですので、状況に合った多様なパーツモデルを探求すべきです。
そもそもリーダーシップとは、相手に影響を与え、相手の考えや行動を変えていく力のことです。実際、女性向けの研修で「後ろからサポートする方が好きな人でもリーダーシップを発揮できます。サポートされた方が動きやすくなるわけですから、立派なリーダーシップです」とお伝えすると「ほっとした」という反応がとても多いです。
(2)経験学習
二つ目は経験学習、これは、自分に必要な経験を考えて実践することです。経験を通してリーダーシップを開発する際、指針の検討に活用できる「型破りモデル」をご紹介します(図6)。
職務経験を活用したリーダーシップ開発に取り組み、アメリカでコンサルタントもしているマーク・キジロス博士は「リーダーシップを発揮せざるを得ないような環境に身を置きなさい」と述べています。
型破りモデルは、自身の経験を振り返り、方向性を明確にします。一つの方向性は「熟達」で、現在の仕事の強度を高めて困難な課題に取り組むことです。もう一つの方向性は「拡大」であり、新しい種類の仕事や状況に関連する課題に挑戦することです。
そして、強度も拡張も高い経験となる「型破り」もあります。自分の考え方の「型」を大きく変える未知の分野に身を置く経験、例えば、海外赴任やグループ会社への出向などです。「型」を破る経験はリスクを伴いますが、その中でこそリーダーシップが開発されます。 女性リーダーの育成では、必要な経験を、本人と上司が話し合いながら実践することが重要です。
(3)自信の醸成
三つ目は、防衛を減らし自己肯定感(セルフエスティーム)を高めることです。防衛機制とは、チャレンジしないことで、失敗する不安から逃れようとする心理的なはたらき(メカニズム)です。つまり、自分にはリーダーや管理職は無理だと思うのは、現状維持を望んでいるわけではなく、自分の身を守る防衛機制が働いているということです。
このような心のメカニズムを理解し、対処方法を学ぶことが重要です。対処方法の一つは、自己肯定感(セルフエスティーム)という考え方です。自己肯定感(セルフエスティーム)を育む方法論を学ぶと「自分にはできる」と思えるようになります。
心理的アプローチに加えて、スキル開発も重要です。スイスにある世界のリーダーを育成するビジネススクールにも女性のリーダーシップ開発講座があります。その講座では、女性が開発すべきスキルとして、以下「6つの力」を挙げています(図7)。
特にポイントだと考えるスキルを二つご紹介します。一つは「1.ビジョンや戦略を語る力」です。女性の傾向として、ビジョンや戦略は考えられる一方で、実現したいことを熱を込めて話すことに苦手意識を持つ方が多いです。
もう一つは「2.ネットワークを構築し、活用する力」です。女性はネットワークはすぐにつくれるけれども、リスクを共有する間柄をつくることは苦手だと言われています。失敗を過度に避けようとすると、相手を信用し任せようとする時に足踏みしてしまいます。
(4)組織を超えたネットワーク
四つ目は、組織を超えた緩いネットワークを持つことです。緩いネットワークを社外に持つことがなぜ大切なのか。それは、パーツモデルを発見できる可能性があるからです。発見されたパーツモデルは、従来型のリーダーや管理職のイメージを払しょくすることにつながる可能性があります。
例えば、女性同士が集まる交流会や弊社が主催するような公開講座に参加すると、大きな共感を得られます。参加する方々は、同じような背景で同じような苦労を経験している人たちです。働き方の参考になったり、組織が違うため、遠慮なく意見やアドバイスをくれたりします。
そのような存在を得る意味でも、ネットワークづくりに力を入れることを大切にしていただきたいです。
(5)メンターとスポンサーの存在
最後はメンターとスポンサーの存在です。彼らは、日々の成長支援と機会の提供ができる存在。つまり、リーダーシップ発揮の「経験」をデザインできる人たちです。
メンターは心理的、社会的な成長を促進する人で、身近な伴走者として仕事に対するアドバイスやガイドをする人です。スポンサーはキャリアに直接的に影響を与える人で、思い切った意思決定をして登用していく役割があります。そのために、働く現場を直接見にいったり、メンターからの情報を受け取りにいったりして、積極的に役割を果たすようにすることが、スポンサーに必要な行動です。
メンターとスポンサーの両方がいると女性活用が進み、リーダーが育つと言われています。いなければ任用し育成することが必要です。
4.ソリューションのご案内
ここからは、弊社の女性リーダー育成に関するソリューションをご紹介します。目的に合わせ、さまざまなソリューションをご用意しています。
女性限定|自分らしいリーダーシップを開発_公開講座WLP
弊社が主催する公開講座であるWLP(Women‘s Leadership development Program)は、参加者を女性に限定した実践型のリーダーシップ開発プログラムです。全員発揮のリーダーシップの概念を理解した上で、実際に経験の幅を広げるための計画を作成し、職場実践に取り組みます。
公開講座WLP(女性リーダーシップ開発プログラム)
参加者ご本人だけでなく、その上司の方にもご参加いただき、部下の新しいチャレンジの理解と支援に取り組んでいただきます。上司も含めた面談や職場実践状況の共有ミーティングなど各種の取り組みを組み合わせ、プログラム全体を通して6つの力が啓発できるように設計されています(図8)。
WLPは4カ月の期間をかけて行います。STEP1の2日間の研修終了後、職場実践に取り組みます。その間に参加者と上司、弊社スタッフの3者面談があり、STEP2の1日間の研修、STEP3の1日間の研修と続きます。そして、4カ月たったところで成果の発表をします。
その他、初級管理職を上級管理職に引き上げていくプログラムや、一般職の方を対象にした、自己のポジティブな強みを活用して一歩前に踏み出すためのプログラムなどのソリューションを用意しています。
5.まとめ
法律等の改正による情報開示の要求や、企業の競争力を高めるために、女性リーダーの育成が企業の重要な課題の一つとなっています。
本レポートでは、日本の女性リーダー育成における現状を数字面から確認した上で、5つの課題と、対応する解決策として5つのアプローチを整理しました。中でも課題となるのは、女性自身が、従来のステレオタイプ的なリーダー像のイメージを払しょくできないでいることです。
この点に対しては、女性自身が今日的なリーダー像を学ぶことや、一人のロールモデルを目指すことでなく、複数のパーツモデルに学ぶことで打開できると考えます。そのためには社内外にネットワークをつくることが効果的です。
また、女性自身だけの問題と捉えるとうまくいきません。組織もメンターやスポンサーといった社内のサポート役の重要性を理解し、育成の体制を持つことが必要です。本レポートがご参考になれば幸いです。もっと詳細を知りたい、ご不明な点がある等ございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局
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参考リンク