これからの時代、経営幹部に求められるのは、自社や業界の過去にとらわれない柔軟で多様性のある発想と、実践力あるリーダーシップです。これらを啓発するためには、インプット形式の学習だけでは足りません。異業種交流による体験学習を通じ「他・外・異」との違いに自ら気付き、発想を柔軟にすることが有効です。今求められている経営幹部としてのリーダーシップと、異業種交流を通じた幹部育成のポイントをご紹介します。
※本ウェビナーレポートは、2021年7月8日に実施したウェビナー「~他・外・異との交流で、違いに気付き、発想を変える~異業種交流が組織と個人のイノベーションを起こす」の内容をまとめたものです。
登壇者情報:
㈱ビジネスコンサルタント
執行役員/IPC本部コンサルティングソリューション部長 石川大介
目次
イノベーションを起こすリーダーが必要な背景
今、企業が経営リーダー育成を必要とする背景は大きく2つあります。一つは、外部環境の変化です。多くの業界でゲームチェンジが起きており、対応できる経営リーダーが必要というものです。もう一つは、企業の内部的要因です。事業承継等を背景にして経営リーダーは必要となっていますが、うまく育成できないというもの。まずはこれら2つの背景を確認していきます。
今のビジネスモデルであとどれくらい事業継続できるか?
現在、多くの業界でゲームチェンジが起こっています。例えば、自動車産業では量産型EV車が登場し、世界中で市場が様変わりしています。また、サステイナビリティ、DX、コロナウイルスなども既存ビジネスに大きな影響を与えています。
日本政府も、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするカーボンニュートラルを目指しており、2035年までに新車販売で電動車100%を実現する方針を表明しました。このような状況下では、従来のビジネスモデルがどの程度継続可能かを再評価する必要があります(図1)。
図1 さまざまな業界でゲームチェンジが起きている
長期展望を持ち、断絶を乗り越えるリーダーが求められる
断絶の壁に対しては、現在ある課題から考えた3カ年や5カ年を想定した中期経営計画を立てるだけでは対応できません。10年、20年先までの長期展望をもとに逆算して作った長期計画を併せて持ち、取り組むことが必要です。現在の課題を解決できるリーダーはたくさんいます。しかし、断絶の時代では、将来起こり得る課題を見つけ出し、解決をリードできるリーダーが求められます。
なぜ経営リーダーが育たない?共通する3つの要因とは
もう一つの背景は、企業の内部にあります。経営リーダーの育成は、大企業から地方の中小企業まで、あらゆる業界で重要なテーマとなっています。私どもは国内でも北海道から熊本まで拠点を置き活動していますが、全国津々浦々で、次世代の経営リーダーが育たないというお悩みを伺います。
なぜ困っている企業が多いのか。弊社は長年にわたる経営リーダー育成の経験から、その背景として以下の3つの共通要因があると考えています(図2)。
図2 次世代人材の育成に困っている企業に共通する要因
一つずつ解説します。
要因①は、特にオーナー系の企業でよく見られます。オーナー系企業では、代替わりのタイミングが遅れがちであり、経験豊富な経営者は後継者の不足に焦点を当てる傾向があります。この心理的な防衛が、後継者を育成できない要因の一つです。
要因②は、中堅企業や機能別組織では、組織内の情報共有や伝達の機会が不足しやすい、ということです。事業部長や部門長が取締役も務める場合、意思決定に関わる会議に参加する人が固定化され、次期部門長候補に機会が与えられないことがあります。また、後継者に対して組織内での優位性を保ちたいという心理が働き、機会や情報を与えない傾向が見られます。
要因③は、新しい発想にエネルギーを割けない企業に見られます。これまでの成功体験にこだわるあまり、新しいビジネスモデルや戦略に挑戦しないため、将来を見据えたリーダー育成が困難になっています。
これらの要因に注意し、経営リーダーの育成に取り組むことが、企業の持続的な発展にとって重要です。
イノベーションを起こすリーダーに必要な要素
イノベーションを起こすリーダーには、新しい時代に適応し、企業を成長させる力が求められます。ここでは、イノベーションを起こすために必要なリーダーの力と、それを実現するための能力について紹介します。
イノベーションを起こすリーダーに必要な3つの力
イノベーションを起こすリーダーには、3つの力が必要です(図3)。
図3 必要な3つの力
1.今を認識する力
私たちは、日常的に繰り返される「いつものこと」や、集まった情報を「いつものもの」として軽視する傾向があります。しかしながら、現在では、新しい技術やサービスが生まれ、消費者に届くまでのスピードが加速しています。そのため、「いつものこと」という思い込みを持たず、現場・現物・現実主義で今を認識することが必要です。
2.固定概念を打ち破る力
固定概念とは、これまでの定石とも言えます。例えば、お客様先に訪問して密着度を高めることが弊社の定石でしたが、コロナ禍により訪問ができなくなったため、新しい営業手法を導入しました。遠隔から営業するインサイドセールス部隊を立ち上げたのです。このように、環境に合わせて新しいアイデアを受け入れ、固定概念を打ち破る力が求められます。
3.自分で決めてやり抜く力
近年、企業はサステナイビリティの観点から大きな波に直面しています。業界の先行きが見えない中でも、一貫性を保ちつつ柔軟な対応が求められます。また、不安定な状況の中でも、ポジティブなアプローチを重視して、やり抜く力が必要です。
前提となる5つの能力
上記3つの力の出力は、5つの「能力」次第で決まります。
- 1.状況感受性
- 2.問題感受性
- 3.対人感受性
- 4.行動の柔軟性
- 5.人間関係の好感度
5つの能力について解説します。
1.状況感受性
組織や職場、自分が置かれている状況を感じ取り、対処する力。例えば、経営幹部は一般社員より重要な情報を扱います。影響を考えると話していい場所とそうでない場所があります。その場にふさわしい言動ができる必要があります。
2.問題感受性
多面的な視点で問題を発見し、本質を捉える力。例えば、落ちているゴミを拾わない人を問題とするのではなく、なぜゴミが落ちるのかという原因に着目します。問題をシステム的かつ構造的に捉え、ゴミ箱が近くに無い、または場所が分かりづらいなどの根本的な問題を解決します。
3.対人感受性
さまざまなタイプの人とうまくやり取りしながら生産性を高める力。「あの人は納得していないな」「言いづらいことがあるのかな」など、目つきや声色、しぐさなど言語以外の要素からいかに感じ取るかが重要です。
4.行動の柔軟性
さまざまな役割が取れ、柔軟に対応できる力。強引さと柔軟さのバランスが必要です。リードするのか、サポートするのか。どのような立ち位置や役割をとったら、物事がうまく進むのか考え、一貫性を保ちながら、状況によって対応することです。
5.人間関係の好感度
周囲の人に好感を持たれる力・人間的魅力。もちろん、経営者はあえて嫌われ役を演じることも必要です。ただし、本当に嫌われると人に力を貸してもらえなくなります。恐れられると嫌われるのは違うので要注意です。これは先に述べたポジティブアプローチが重要です。
イノベーションを起こすリーダーは、3つの力を行使する際、大量の情報と現状を認識し、さまざまなステークホルダーの思惑を考慮することが求められます。この5つの能力を高めることが、実践力あるリーダーシップにつながります。
イノベーションを起こすリーダーを育成するポイント
では、この3つの力を発揮できるリーダーを育成するためにはどのようにすればよいのでしょうか。この後は実際に育成するポイントをご案内していきます。結論から申し上げますと、以下図の通りです(図4)。
図4 イノベーションを起こすリーダーを育成するポイント
そして、上記取り組みを成功させるためには、異業種交流(他・外・異との交流)が効果的です。異なる分野の人たちと交流することで、自身のメンタルモデルへ気付くことが重要です。
異業種交流の3つの形式
異業種交流には、大きく3つの形式があります(図5)。
図5 異業種交流の3つの形式
一つずつご案内します。
①セミナー+ワークショップ形式
これは一番多い形式です。この形式では、オンラインや実際の会場で、特定の情報を聞き、その情報に基づいてグループで意見交換を行います。最も一般的な形式です。
②講義+実習形式
この形式では、参加者は講義を受け、課題に取り組みます。意見交換というよりは議論を交わしたり、勝ち負けを競うような実習に取り組んだりします。数日から1カ月にわたって行われ、高額な費用も伴いますので、参加者は真剣に取り組みます。自社もしくは自分自身のこだわり、固定観念への気付きは十分得られます。
③講義+実習形式+参加者の役職を限定
②の「講義+実習形式」に対して、さらに参加者の役職を限定した形式です。踏み込んだ気づきや刺激をより多く得られます。私自身が担当する弊社主催の公開講座でも、このような講座は限られていますが、役職を限定した講座では、さらに深い学びを得られます。
異業種交流には、さまざまな形式がありますが、それぞれに特徴があります。自分たちの目的に合った形式を選ぶことが大切です。ただし、特にイノベーションを起こすリーダーを育成する場合は、固定概念を打ち壊すだけでなく、実際に行動変容をする勇気付けが必要です。異業種交流の中でも、③の「講義+実習形式+参加者の役職を限定」をお勧めします。
「あ、自分も」 参加者の役職を限定した異業種交流のメリット
役職を限定することにより、自身が負う責任や置かれた境遇について共感し合い、真剣なアドバイスや指摘を行い、相互に成長できます。自分と境遇の似た人が変わろうとする姿を見て、自分も変わる勇気が持てます。弊社が主催する公開講座は③の形式の異業種交流です。3泊4日で行う公開講座での様子にも触れながらこの形式のメリットをご紹介します(図6)。
図6 参加者の役職を限定した異業種交流のメリット
共感的理解が深い
まず、参加者同士が似たような境遇であることから、互いの悩みに共感を持ち、理解しやすいと言えます。たとえば、責任範囲や出席する会議の種類など、類似点があることが多いです。公開講座の中でも、誰かが悩みを語ると、「そうですよね」と共感することが自然と起こります。この共感的な理解が深まることで、参加者同士の信頼関係が築かれ、より良いアドバイスや解決策が生まれることにつながります。
だから真剣に踏み込んだ指摘ができる
公開講座の進行によって促すこともあるのですが、参加者同士は初日の夕方までに、自己紹介や実習を通じてお互いの悩みや経験を共有し始めます。異業種や異業界の参加者同士でも、共通する課題や解決策があることがわかり、刺激になります。特に熱っぽく語る人がいると、それを一生懸命聞く人が次から次と続きます。
似た者同士と分かるからこそ、同じ失敗をしてほしくないという思いから、参加者同士が真剣に踏み込んだアドバイス交換を行うようになります。
プライドや成功体験が柔軟性を妨げていることに気付く
初日、2日目と、参加者同士、何度もやり取りをするうちに、自身が成功体験やプライドによって自分自身を肯定していることに気付くことがあります。この傾向は、新しいアプローチを受け入れることを難しくし、柔軟性を損なう要因にもなり得ます。異業種交流を実際に新しい視点を得る機会にするためには、自分自身が成功体験やプライドに固執していることに気付くことが重要です。
相手の変わる姿を見て、自分も変わる勇気が持てる
3日目にもなると、何人か行動が変わり始め、他の参加者に影響を与え始めます。そのうちに、自分の指摘で誰かが行動を変えた姿を目の当たりにすることがあります。「偉そうなことを言ったのに、自分は行動を変えていない」「自分はどうなのか」と内省するわけです。そして、「あ、自分も変わらなきゃ」と自分自身も変わる勇気を持てるようになります。
メンタルモデルが与える行動への影響
私たちは無意識のうちに、価値観や信念などを持っており、これを「メンタルモデル」と呼んでいます。私たちが物事を捉えるときのフィルターとして働くので、メンタルモデルはとても重要です(図7)。
図7 メンタルモデルと行動の関連
なぜ、メンタルモデルが重要かというと、思考や結果につながっていくものだからです。例えば業界や組織によって、コンプライアンスやダイバーシティに対する認識が違うのも、業界の持つ価値観や経営者の持つメンタルモデルの違いによるものです。つまり、メンタルモデルが違えば、同じ状況でも見え方や捉え方が異なります。そのため、自分自身が持つメンタルモデルを理解し、認識することが重要です。
しかし、自分自身がどのようなメンタルモデルを持っているかを認識することは容易ではありません。ではどのようにすれば自身のメンタルモデルに気付けるのでしょうか。
メンタルモデルへのアプローチ
メンタルモデルについて気付くためには、なぜ自分がそのように行動するのかを知ることが重要です。気付くためのアプローチは、内省思考や気付きの学習と呼ばれます(図8)。
図8 メンタルモデルへのアプローチ
過去の成功や失敗には環境や状況が影響しているため、過去の成功体験を否定するのではなく、その時の条件を振り返り、今の状況と比較することが大切です。
異業種交流に参加することで、自分が思い込んでいたことや美化していた過去を客観的に見ることができ、気付きを得ることができます。社内研修だとなかなか気付けません。なぜかというと、一緒に成功して失敗してきた仲間なので、誰か最初に口火を切る人は、皆の成功体験を否定することになるからです。研修後も関係は継続するわけなので、その役目は「難しい」という人間心理が働きます。
しかし、異業種交流では違います。周囲の人たちも同じように過去を美化したりごまかしたりする必要がないため、結果として強烈なインパクトを受けることができます。
イノベーションに作用する異業種交流、効果的な使い方とは
経営リーダーが進めるイノベーションには、自社や自業界にない視点が必要な場合があります。そのような場合、異業種交流は効果的です。
例えば、自社が直面する問題の中には、経営リーダー自身のメンタルモデルによって見えなくなっているものがあります。しかし、異業種交流を通じて異業種の方とやりとりすると、新たな視点が得られ自社の問題が見えるようになることがあります。また、異業種交流を通じて、新しいネットワークを築くこともできます。異なる分野の専門家と交流することで、さまざまなアイデアや勇気をもらえます(図9)。
図9 セミナー総括
さらに、当社の公開講座を活用することで、企業独自で経営者育成をプランニングするよりもはるかに小さなエネルギーで経営リーダー育成に取り組むことができます。当社には、公開講座の運営を支援する専門チームがあり、ご参加者が安心して学びに専念できるようサポートしています。幹部育成の経験や人材開発のリソースが少ない組織におすすめです。
まとめ
現代の経営環境は、業界ごとに予測不可能な変化が起こり、それに対応するための経営リーダーの育成が必要です。経営リーダーには戦略論、会計、組織論など多岐にわたる知識が必要ですが、ただ知識を得るだけでは十分ではありません。また、これまでの経験に基づいた眼鏡だけをかけていると、起きている現象に対し正しい解釈ができなくなります。イノベーションを推進し周囲をリードしていくためには、5つの能力の開発が重要であり、そのためには「講義+実習形式+参加者の役職を限定」した異業種交流が効果的です。
弊社の公開講座では、「自分で決める」ことを重視しています。自分で決めることで「意志」が生まれます。それにより、受講者が企業に戻った際、経営者や社員から頼りがいのあるリーダーとして映ると考えています。
私が公開講座を運営していて一番やりがいを覚える瞬間は、参加者が「変わる」と決意した瞬間です。その瞬間に立ち会えることができるのは、私にとって大きな喜びです。今後も、このような方々をたくさんサポートしていきたいと考えています。「こんな課題を持っているが、どのような異業種交流が良いか」など、ご関心やご質問のある方は、お気軽にお問い合わせください。
レポート作成:㈱ビジネスコンサルタント 情報提供サイト事務局
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